魔法
「魔法!」
メイリーの言葉に、思わずテンションが上がる。
異世界転生といえば、これだよね。
もしかして、もしかしなくても。チートとか出ちゃうんじゃない……?
「はい。魔法です……というわけで」
メイリーがごそごそと鞄をあさる。それをドキドキしながら見守っていると、メイリーは鞄から毛糸と編針を取り出した。
そして、それを私に手渡す。
「さぁ、お嬢様、編み物をしましょう」
「?」
編み物?
あれ、魔法のレッスンだって聞かなかったっけ?
?????
私が首を傾げていると、メイリーも不思議そうな顔をしていた。
「気分が上がらないですか?」
「ええと……」
気分が上がるとか、上がらないとか、そういうことではなくて……。
「メイリー、これは魔法のレッスンなのよね?」
「? はい、そうですよ。……ああ!」
メイリーは私の質問でようやく合点がいったようで、説明してくれた。
「お嬢様、魔力を編むのと編み物はとても似ているんですよ。だから、魔法のレッスンの最初は、編み物をするんです」
「……なるほど」
ごくり、と息を呑みこんだ。
実は、私ことヴァイオレットは、刺繍の先生から「お嬢様は個性を伸ばす方向で行きましょう」と生暖かい目で言われるほど、不器用である。
――魔法、終わった……。
めちゃくちゃショック!
落ち込んでしまった気持ちを頬を叩いて、切り替える。
まずはやってみないとわからないよね。
刺繍は無理でも、編み物は得意かも!
「では、編み物をしましょうか」
「はい!」
◇◇◇
――結論から言うと、編み物も苦手だった。
「お嬢様、よく頑張りましたね」
メイリーは褒めてくれたけれど、出来上がったのはぼろ雑巾のようなそれだった。
「……ありがとうございます」
せっかくねぎらいの言葉をかけてくれたというのに、お礼も目を見て言えないほど、私は落ち込んでいた。
「お嬢様」
そんな私の頭に何か柔らかいものが触れた。
「?」
俯いていた顔を上げると、メイリーが私の頭に手を置いて、微笑んでいた。
「誰にも、得意不得意はあります。それに、魔法の技術は日々の練習によって、向上します。継続することで、今日出来なくても明日出来るようになることもあります」
……継続、かぁ。
「それに、お嬢様は通常の生徒たちよりも早く、魔法に取り組まれています。それだけ、努力できる時間があるということ」
「……そうね」
確かに、魔法は普通、学園に入ってからならう子供が多い。不器用な私は、人よりも努力が必要だろうし、人よりも時間がかかるだろう。
でも、努力を続けることができたら、ちゃんと人並みに魔法を使えるようになるかもしれない。
それにお兄様に殺されないために、手段はできるだけ多い方がいいもの!
「ありがとう、メイリー。これからも頑張るから、どうか、よろしくお願いします」
「はい、もちろん」