翌朝
翌朝。小鳥の囀りで目を覚ました。
うーん、今日も良い朝だー！
ベッドの上で大きく伸びをしていると、侍女のアーシャがやってきた。
「おはようございます、お嬢様」
「アーシャ、おはよう！」
大きく元気な声で挨拶する。挨拶は大事だもんね。
「あらあら。お嬢様、お元気ですね。お体はどうですか？」
「平気よ、力に満ち溢れているわ！」
もちろん、やる気にもね。
「それは良かったです」
アーシャはおっとりと微笑みながら、じゃあ、今日こそはメイリー様の授業もお受けになることができますね、と続けた。
「うっ」
一気にやる気がしぼむ。
「お嬢様？」
メイリーは私の家庭教師だ。せっかくお父様とお母様が私につけてくれた家庭教師だというのに、彼女の授業を何度も私はサボってしまっていた。
メイリーには正直なところ、苦手意識があるのよね……。あまりにも、しっかりとしすぎていて、失敗を許されない雰囲気があるというか。
ううん、でも、今日から頑張るって決めたものね。
「よし！」
大きな声を出して、顔を上げた。俯いていても何も始まらない。
頑張るぞ！！
◇◇◇
「お嬢様、もう体調はよろしいのですか？」
メイリーに尋ねられて、深く頷く。
「ええ、大丈夫」
メイリーは相変わらず肌の露出が極端に少ないドレスに、きつく結った髪をしていた。
やっぱり、この雰囲気苦手――。
「そうですか、それならばよかった」
心の中で思った声は、一瞬で掻き消えた。メイリーは心底嬉しそうに、表情を和らげて微笑んだから。
えっ！ ええええ。メイリーって、そんな風に柔らかい表情で笑うこともあるんだ。
びっくりー。
思わずあんぐりと口を開ける。
「お嬢様、口を閉じられてください。淑女としてだらしないですよ」
そう言うメイリーはいつもの表情に戻ってしまっていたけれど。私は、それどころじゃなかった。
ぜんっぜん気づかなかったけど、メイリーってば超絶美人だ。普段はその重苦しい雰囲気ばかりに目をとられていたけど、笑うとその本当の魅力が明らかになる。
「メイリー」
「はい？」
「あなた――美人なのね」
メイリーは顔を真っ赤にした。
「わ、わわわ、私が美人！？」
あわあわとあせる姿は今まで一度も見たことが無いものだった。
……良かった。メイリーもそんな表情するのね。
メイリーと今度こそ仲良くなれそう。
「メイリー」
まだ、頬が赤いメイリーに、私は正直に打ち明けることにした。
「私ね、あなたのことが怖かったの」
「えっ！？」
メイリーは、ショックを受けたようだってけれど、私の話の続きを聞いてくれる。
「でも、今はちっとも怖くないわ。あなたを知ろうともせず、何度も授業をさぼってごめんなさい」
深く、頭を下げる。
怖い、苦手、だけじゃなくて。授業をもっと早くに、真面目に受けていたらメイリーが笑ったり、焦ったりするところを見ることができていたかもしれない。
「私もお嬢様に怖い思いをさせているなんて、気づきもしませんでした」
そう言って、メイリーも頭を下げた。
「メイリー、今日も授業をお願いします！」
「……お嬢様は、変わられましたね」
微笑んだメイリーに首を傾げる。
……そうかな？ 根本のところは全く変わってないけどね！
変わったと言えば、お兄様に全てを注いでいた情熱の行き先を失い、持て余しているところだ。
「それでは、お嬢様。今日は、初めての魔法のレッスンを行いましょう」
