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ルーブルク公女

 わたしが公爵家に戻って数日が経っていた。

 本日は、ルーブルク公国のニネット公女との面会のため、王宮に訪れている。


 ルーブルク公国は、前大公夫妻は事故で亡くなっており、現在の大公は前大公の弟君に当たる。


 そして前大公夫妻の子息が数年前に視察に出掛けたきり、行方不明となっている問題を公国は抱えていた。


 現在の大公の息子が公太子となるか、前公太子の子息、リヒト公子がもし生きていたら、継承権は彼に渡るのではないかと言われている。


 聡明で、国民人気も非常に高かったと聞くリヒト公子の帰還を、公国の民たちは待ち望んでいるのだという。


 そんな彼は半年前に目撃情報が出たきり、再び消息を絶っているとのこと。



「シオン殿下、そしてリディア様。今回の件は誠に申し訳ございませんでした」


 ニネット公女は深々と下げていた頭を上げるよう、シオン殿下に促されると、姿勢を正して話を続けた。


「我が公国が後継問題について、揉めている最中なのはご存知かと思われますが……。リヒト公子が行方不明となっている現状、兄が後継となる可能性が高くなっております。

 ただ兄は政に関心がなく、それでいてリヒト公子の帰国を阻害して、自分が後継の座に着こうと考えているのです」

「ニネット公女はヘンリック公子では後継に相応しくないとのお考えなのでしょうか?」

「はい…… リヒト公子さえお戻りになられたらと、願う日々です」


 こくりと頷いたニネット公女は、逡巡しながら言葉を紡ぐ。


「……わたしのこのような考えを悟られないよう、極力兄ヘンリックの指示に従ってしまいました。

 それでいて兄はこのシルフィード国との繋がりを強固にしようと、わたしをシオン殿下の婚約者にするべくリディア様を排除しようと目論んでいたのです」


 ニネット公女がそこまで話すと、シオン殿下は懐から一枚の手紙を取り出した。


「実はニネット公女から夜会時に、僕が庭園に行くようこの手紙を」


 殿下から受け取った、手紙の中身を確認してみると──


『わたくしがリディア様を庭園へとお連れすることがあれば、その時はリディア様を守るためにどうか後をつけて頂きたいです。

 勝手な申し出となってしまい、誠に申し訳ごがいません。

 わたくしのことはどうなっても構わないませんから、リディア様をどうかお守り下さい』


 との内容が書かれていた。


(これをニネット公女がダンスを踊っている時か、前後に渡していたということかしら?)


「こちら側としても、以前より公国からの動きが怪しいと何度も議題に上がっていた」

「庭園にシオン殿下が来てくださって本当に助かりました……。それに引き換え、わたくしのしたことは許されざる行いです……」


 ニネット公女は伏せ目がちになりながら、言葉を続ける。



「夜会でリディア様を庭園に連れ出すよう指示し、魔法使いを手配したのも兄です。

 ですがわたくしは以前、リディア様が魔法でウサギの姿に変えられてしまわれたとのお噂を聞いておりました。例え魔法で姿を変えられたとしても、ウサギならシオン殿下は元のリディア様の姿に戻せる筈だと思ったのです。

 だから魔法使いにはウサギの魔法を掛けるようにお願いしました。


 それに……仮にシオン殿下が間に合わなくとも、わたくしがウサギとなられたリディア様を匿わせて頂ければ危険からは遠ざけられるかと」



(そういえばウサギになったわたしを見て、ペットにしたいとニネット公女は口にしていたけれど、あれは守ってくれようとしていたのね……)


「以上が事の経緯となりますが……全て言い訳なのも自覚しております。弁明のしようがございません、申し訳ありませんでした。

 ただ我が公国の民も、リヒト公子の帰りを待ち望む者ばかり……。

 今回の事件はわたし達兄妹が起こしたものであり、どうか父や公国は無関係とお考え頂ければ……っ」


 気持ちは痛い程理解出来るけれど、公子や公女が起こした事件を公国と切り離すのは難しい。


 出来れば両国の平穏を願うのは私も同じ思いであり、後は国王陛下に判断を委ねるしかない。


 室内に沈黙が流れる。その静寂を破ったのは、扉を叩く音だった。


「お連れ致しました」


 扉の向こうから声を掛けてきた従者に対し、シオン殿下は「通してくれ」と促す。

 開かれた扉からやってきたのは、輝く蜂蜜色の髪をした貴公子。


 誰かしら? とわたしが内心首を傾げる傍らで、絶句したニネット公女が口を手で覆う。

 暫し注視していると、わたしは違和感に気付いた。


「あ、あら?」


 蜂蜜色の髪の貴公子は、虚を突かれた表情の私の目の前で足を止めた。


「貴方は……どうして……、ラステルさん?」

「すぐに私だと分かって下さって感激です、リディア嬢」


 先日までフォール子爵令嬢の姿だったその人は、わたしの言葉を肯定した。

 そして彼はわたしの手を取ったが、シオン殿下によってすぐに引き剥がされた。

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