魔法王子
人間の食べ物、というだけでも嬉しいのにやはり宮廷料理の味は格別。
「とても美味しかったです、ご馳走様でした」
心より感謝を込めてその言葉を口にした私の眼前には、何も乗っていない食器が並んでいる。
ソースを含む、全ての料理を残さず綺麗に食べ終えていた。
そんなわたしの様子を見ていたシオン殿下が、パチリと指を鳴らす。
途端、テーブルの上の食器が消え、代わりに食後のお茶と思われるティーポットとカップが出現した。
「凄い……」
「食器類は、厨房の決まった場所に転移魔法陣を置いているし。お茶は部屋の前に用意させていたから、そこから転移させることは僕にとってはそう難しくはないんだよ。ティーワゴンにも魔法陣を施しているからね」
シオン殿下本人にとっては簡単なことなのかもしれないけれど、ある程度魔法が使えるわたしにとっても、目の前で奇跡を見せられているような感覚だった。
やはり天才と言われるだけあって、彼の魔法使いとしての実力は相当なものである。
それに、食器やお茶の件だけではない。
前回はウサギの姿から元に戻った時にわたしが身に纏っていたドレスは、魔法を掛けられる直前に来ていたドレス。
だから今回もてっきり、夜会時に着ていたドレスのまま人間の姿に戻るのだと思い込んでいた。
そんな考えとは裏腹に、現在私が着ているのは撫子のような青みがかった薄ピンクに、スカート部分は精細な銀糸刺繍が施されたドレス。
ピンクでありながら可愛らしすぎず品があり、これならわたしでも抵抗無く身に纏うことが出来る。
(このドレスを選んだ人は相当なセンスの持ち主なのではないかしら?)
「やっぱり、そういった色味もとても似合うね。選んで正解だった」
……このドレスは殿下の見立てらしい。悔しいけれど、彼のセンスの良さも認めざるを得ない。
「シオン様はドレス選びも天才なのですね」
「それは気に入ってくれたってことかな?」
「そうなります……」
今の言い方は大分可愛気がなかったわね、反省……。
「センス云々は良く分からないけれど、リディアに似合う物は僕が一番分かっているつもり。だって、子供の頃からずっとリディアを見ていたから」
「っ……!」
「気に入ってくれたなら嬉しいよ」
「……ありがとうございます、とても素敵だと思います」
ちなみに夜会の時に着ていたドレスは、長椅子の上に掛けられている。
殿下は本当に魔法を器用に扱うのだなと、改めて感心していた。
複雑な術式を分解したり構築していくには、高度な数学などの知識も必要となってくる。
お茶を飲み干して、カップにソーサーを置いた私は話を切り出す。
「所で人間の姿に戻れましたので、公爵家に帰ろうと思うのですが」
「ええっ!?」
わたしの申し出に、シオン殿下は驚きの声を上げた。しらじらしい。
「当たり前ですよね」
「そんなに僕と一緒にいることが嫌なんだ……」
「嫌とかそういう問題ではなく、未婚の男女が同衾するのは許されない……って何回説明させるんですかっ」
理解しているか以前に、世の中の共通認識である筈なのに毎度毎度すっとぼけてくるのは何?




