表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/50

おめかし

 うたた寝から目を覚ます。


 気付けばいつの間にか部屋へと戻って来た殿下が、わたしを撫でていた。


「ごめん、起こしてしまったかな」

「いえ、お帰りなさいませ」

「リディアを襲った男の取り調べと共に、関与を疑われているルーブルク公女にも、現在事情聴取が行われている」

「ルーブルク……あの公女様、このわたしを騙した挙句、ペットにしようとしてきましたっ」

「それは許せないね、リディアを飼って良いのは僕だけだ」

「……そういう意味ではなく」


 じとりと呆れを含んだ視線を送っていると、シオン殿下はくすりと微笑んだ。


「では、リディアが僕を飼ってみる?」

「飼い慣らせません」

「遠慮しなくていいのに」


 殿下に背を向け、平静を装ったがわたしの脳内は、絶賛狼狽中となっていた。


(何故その発言をしながら、不敵に微笑んだ挙句に妙な色気を纏っているの……?)


 受け取り手の問題かもしれないけれど、最近の殿下はやたらと色気を出して翻弄してくる。


 いけないいけない、何で女のわたしの方が敏感に意識しているのよ。

 表情が分かり辛いであろう、ウサギで良かった……。


「では、そろそろ寝ようか」


 落ちてきた囁きと共に、身体が温もりに包まれる。

 殿下は既に湯浴みを済ませて来たようで、シャボンの香りを纏っていていい香り……。


(はっ!逃げられない!?)



「そろそろ解放して頂けると有り難いと言いますか……」

「リディアはウサギの姿と人間の姿では、同衾の意味が違うと言っていたけれど、今はウサギの姿だから気にせず抱きしめて眠れるね」


 確かに婚約者と言えど、本来の姿で同衾するのは憚れると私は言った──


(言ったけど、再びウサギになるなんて想定外だったのよ! しくじった!)


「結婚したらこれも日常になるんだから、今のうちに慣れて貰わないとね」


 いつかこれが日常に……果たして慣れる日がくるのかしら……?


 わたしにとって離宮以来の、寝付くことが困難な長い夜がやって来た。



 ◇


 昨日はシオン殿下の立太子の儀が行われ、夜には王宮で夜会が開かれた。

 夜会の最中に、具合の悪そうなルーブルク公国のニネット公女を庭園へ連れ出したら、怪しげな侵入者に私はウサギの姿へと変えられてしまった──という何とも濃くて激しい一日だった。


 そのせいか朝になっても起きなかったわたしは、気付けば昼近くまで眠り続けた。


 現在、目の前の姿見にはある意味懐かしく感じる下膨れ顔が映っている。

 どこからどう見ても、紛れもなくウサギだ。


 鏡にウサギの姿を映したわたしを囲む侍女達は、一様に頬を緩ませた。

 彼女達はシオン殿下がお帰りになられるまでの間、わたしのお世話をしてくれている。

 侍女達の眼差しは、間違いなくウサギのわたしを愛でていた。



「リディア様、本日のお召し物はいかが致しましょうか?」


 一人の侍女が、何種類かのリボンを順に見せてくれた。毛並みの色と合わせやすい様に、身体の横に持ってきてくれるから、コーディネートもしやすい。


「こちらの青色のリボンなどいかがでしょうか?ピンクも可愛らしいですわ」

「青にしようかしら」


 青の生地に、銀のラインが入ったリボンをわたしは選んだ。


 前足を伸ばし、顎を軽く上げて座る自分の姿は令嬢然としている。だがウサギだ。

 やたら姿勢が良い、偉そうなウサギだ。



「耳に付けるのも可愛らしいと思うのですが、耳はお嫌ですよね?」

「そうね、首にしてくれるかしら?」

「畏まりました」



 気位の高そうなウサギが、リボンで可愛らしく飾られ、侍女達は更に頬を緩ませる。


「お可愛らしいですわ」

「本当に!」

「麦わらのお帽子とかも似合うと思いますっ」


 侍女は口々に声を弾ませる。その中の一人が、高密度のブラシを取り出した。


「では、まずはブラッシングをさせて頂きますね」

「よろしくてよ」

「失礼致します」


 侍女達に世話をされながら、穏やかに午前中が過ぎて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ