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庭園での騒動

 「僕のリディアに危害を加えるなんて……許さない」


 言いながら宙に無数の短剣を出現させたシオン殿下は、手を振り上げる。次の瞬間には短剣が男へと直進していた。


 攻撃に耐えきれないと判断した男は、ニネット公女を盾にすべく、腕を掴んで自分の前へと立たせた。


「!?」

「きゃっ」


 か細い悲鳴を上げるニネット公女に刃が向かい、予想される残酷な光景を遮断すべく、わたしは目を閉じた。


 二人は仲間だという認識でいたから、ニネット公女は安全だと思い込んでいたのに、酷い──



 意を決して瞼を開けると、ニネット公女の目の前で短剣は宙に浮いたままの状態となっていた。


 シオン殿下が咄嗟にニネット公女を傷付けないよう、魔法を停止させたのだ。


 わたしはほっと胸を撫で下ろす。


(く、串刺しになってなくて本当によかった……!)


 力が抜けたニネット公女は、どさりと音を立てて地面にへたり込んだ。

 シオン殿下との己の戦力差を自覚した黒ずくめの男は、苛立ちを露わに表情を歪め「では、一旦引き下がらせて頂きます」と呟き、詠唱を始める。


(逃げられる!?)


 その時、ようやく騒ぎに気付いた騎士達がこの場へと駆け付けた。


 来るのが遅いし、警備の配置を見直しなさいよ!

 まぁ夜会の庭園は色んな事情により、意図的に手薄となっているのだけれど……。


「逃げようとしているわ!絶対に取り押さえてっ」

「逃がさない」


 間髪入れずに、後方から場にそぐわぬ落ち着いた声が発せられた。

 黒ずくめの男を絶対に取り逃したくない、そんなわたしの思いに応えるかのように──


 シオン殿下に抱っこされながら声の主を確認すると──フォール子爵令嬢ラステルさんが短剣を取り出し、魔法使いに向けて素早く投擲した。


 男の黒いローブに、ナイフが縫い付けららたように、背後の木へと刺ささる。


 同時にばちんと弾かれた様に、彼の紡ぐ詠唱が途切れた。


「何だこれは……っ!?」

「対魔法使い専用の魔封じの術を施した短刀だよ。魔法が使えないと逃げることすら出来ないだろう、諦めろ」


 黒ずくめの男を見下ろすラステルさんはいつもとはまるで違う、厳然たる空気を纏っていた。

 狼狽しながら男はナイフを抜こうとするが、抜けない。


「ふざけるな!!」


 苛立ちと焦りで男は叫んだ。


 どうやら魔封じの術が発動している間は、対象者ではナイフが抜けないようになっているらしい。


 憎悪の色を宿した魔法使いが、ラステルさんを睨みつけたまま、更に衛兵達によって手首に魔封じの魔道具を装着される。捕縛された魔法使いは、そのまま連行されていった。


 その光景を眺めていたわたしの頭上に殿下の声が落ちてくる。



「リディア」


 途端、何故かわたしの全身がぶるりと震えだし……そして恐る恐る声の主を見上げた。


 殿下は形のいい口に弧を描いて、囁く。



「言ったよね? 次何かに巻き込まれたら監禁するって」

「!!!」

「取り敢えず、今夜は危ないから屋敷には返せない。僕のそばから離れないように」

「あ……ああ……あわわ」


 狼狽で震え出したわたしの身体に彼は唇を寄せた。


「一晩中守ってあげるからね」


(むしろ前回と今回両方共、王宮で被害にあってるんですけど!?)



「リディア嬢は不本意そうですけど?」

「五月蝿いよ。そんなことないよね?リディア……」


 わたしの内心を察したラステルさんは苦言を呈してくれたけれど……「はい、不本意です」何て言えるわけないじゃない!助けて!


 監禁だけはご勘弁を……!



「僕は一旦リディアを安全な所へ連れて行くから、その男の連行を頼む。魔封じの拘束具を嵌めているとはいえ、注意してくれ。リディアを安全な場所へ移せば、僕もすぐに陛下へ報告にいく」

「了解致しました」



 上官が短く返答すると、他の騎士達がざわつき始める。


 殿下が「リディア」と言っているが、リディアこと人間の姿でのわたしはこの場に見当たらない。

 その代わりに殿下はウサギを抱いている。

 騎士達の視線はわたしへと注がれた。


「まさか……」と誰かがポツリと溢したのを皮切りに、それぞれが疑惑を口にしていく。


「り、リディア……嬢?」

「まさか、そのウサギはエヴァンス公爵令嬢!?」

「先程エヴァンス嬢の声で話していたような……」

「何とっ!嘆かわしい……!」


 否定しない殿下を見て、彼らは肯定と受け取った。



 二か月前に、ウサギになる呪いを掛けられた王子の婚約者であるわたしが、再びこのような姿になっているのだから狼狽するのも無理はない。



「では、頼んだ」


 殿下は言い残すと、わたしを抱えたまま足早にその場を後にした。


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