夜会
暫く飲み物を飲みながら、話しかけて来る貴族達を相手に社交をこなして過ごしていると、背後で歓声が上がった。
何ごとかと思い、後ろを振り返ると──シオン殿下が女性とダンスを踊っていた。
(珍しい、普段は私以外とは踊らないのに……)
王子殿下というその高い身分に限らず、彼は基本的に愛想がない。
冷静でミステリアスという物は言いようのような印象が定着しているため、廷臣や外交に関しては問題が見受けられないが──
どう見ても『話し掛けるなオーラ』でも放っていて、彼へ気さくに声を掛けられる、度胸のある令嬢は中々いないだろう。
基本令嬢達は、美しくて無愛想な王子様を遠巻きで眺めながら内輪で騒ぐという楽しみ方に落ち着いたようだ。
あ、一人思い当たったわ。
わたしは自然と自身の妹、フェリアを思い浮かべていた。
あの子は空気を読まずに殿下に絡んでいたけれど……。
フェリア以外は自ら積極的に話し掛ける令嬢は思い当たらないし、殿下も令嬢達に対して社交性がない。
そんな他人興味がなさそうな彼だけど、確かにわたしには婚約する前から何かと絡んできていたなと、今更自覚してしまった。
そして改めて殿下のダンス相手を確認する。
(殿下のお相手は……確か、ルーブルク公国のニネット公女よね)
ルーブルク公国は、前大公夫妻が事故でお亡くなりになられてから、前大公の弟君が大公位に付かれている筈。その大公殿下も病で伏せていらっしゃるようで、今回は公子殿下並びに公女殿下が使節団を率いて参加されている。
遥々お祝いに駆け付けた他国の公女ということで、外交としてダンスのお相手をしているのは至極納得がいく。
シオン殿下がわたし以外の女性と踊るのは珍しい、でもお相手のニネット公女は──
本人は平静を保とうとしているようだけど……顔色が悪くない!?何だか不安がこちらにも伝わってくるようだわ!
絶望的に下手という訳ではないけれど、ニネット公女のダンスは軸がぶれているせいか、ペアで踊る二人の中心軸も定まっていない。
彼女の不安に思う心がダンスに現れているようだ。
「それと、体幹を鍛えていないからね」などとわたしは心の中で分析をしていた。
やはり身体の体幹と柔軟性はダンスには不可欠。
そう改めて痛感していると、私の周りでは
絶賛注目の的となっている彼女のダンスが、会場の人々から批評されるのは必然だった。
「あの公女殿下、よくリディア様の後にシオン殿下と踊ろうなどと思えましたわね」
「折角の殿下の素晴らしいダンスが台無しですわ」
「物凄く下手とは言えないのが反応に困りますが、身の程を弁えた方が……」
「シッ! 流石に不敬だわ」
気付けばわたしの周りでは令嬢達が、ヒソヒソとルーブルク公女のダンスについて囁き合っていた。
「……」
シオン殿下と踊っているだけで注目されてしまうのは仕方がない。
リズム感は悪くないのだし、まずは体幹を鍛えるためのトレーニングが必要よ、筋トレ頑張って下さい!




