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満月の夜に〜妹に呪われてモフモフにされたら、王子に捕まった〜  作者: 秋月乃衣
二章

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30/50

船遊び

 朝起床すると、侍女が来る前にシオン殿下は着替えのため一旦寝室を出て行った。

 暫くして侍女が部屋に入ってくると、わたしも着替えを済ませてから部屋を出て、朝食の席へと足を運ぶ。


 無心で朝食を食べている途中、ふと顔を上げる。目の前には洗練された所作で食事を口にする殿下の姿──



(昨日のことは聞けないけれど、殿下からは特に変わったご様子は見られないわね)


 本音を言うと、昨日見たことは気になって仕方がないけれど、色恋如きで取り乱すのは自分の矜持が許さない。


 ならば平静を保ったまま聞けばいいだけなのに、それさえも勇気がない。


 わたしってこんなに臆病だったかしら……?


 お茶を飲んでいた殿下は、音を立てることなくティーカップをソーサーに置いた。


「リディア」

「はい」


 突如名前を呼ばれて内心驚いたが、何とか平静を装って返事をした。


「今日は舟遊びを予定していたけど、この後行ってみる?疲れていたり、寝不足でなければ無理強いはしないけど」

「大丈夫ですわ」


 若干寝不足な気もするけど、舟遊び程度なら問題ない。


 朝食を終えたわたし達は広大な庭園へと向かった。

 庭園を進んだ先にある池までたどり着くと、桟橋には小舟が括り付けられている。


 小舟は、いかにも王侯貴族の友好用といった美しさだった。


「乗ってみようか」

「はい」


 殿下の手を借りて小舟へと乗り、腰掛けた。

 目の前に座る殿下は当然の様にオールを手にする。まさか……?


「漕ぎ手はいらっしゃらないのですか?」

「必要ないよ」

「シオン様が漕ぐおつもりですか、出来るのですか?」

「出来る、多分」

「多分……」


 自信満々に曖昧な言葉を口にする彼だが、取り敢えず見守ることにしよう。


 そう思っていたものの、コツがいるらしい。オールを水面に下ろし、思いもよらない水の抵抗に殿下は若干苦戦気味となっていた。


 それでも少しずつ進んでいる──と思いきや、諦めたのかオールを漕ぐ手を止めた。

 そして突如彼の口から詠唱が囁かれる。

 次の瞬間、船は滑らかに水面を進んでいった。


「す、凄い……! 凄いけど、ズルくないですか!? 魔法ですよね」

「何がズルだ。進めばそれでいいんだよ」

「そうなんですけど……」

「それに風の魔法を使うのだって、絶妙な匙加減が必要なんだから。調整を誤って強すぎる風を魔法で起こせば、船が壊れる訳だし」


(それは、凄く怖いです……)


 絶妙な風量で心地よく滑らかに進んでいく。

 舟にはもっと風圧が掛かっているのかもしれないが、髪がなびく程度の微風が周りに吹いていて心地いい。

 すると真っ直ぐに進んでいた船が旋回し、目の前の景色がぐるりと回った。


「わぁっ」

「楽しそうだね」

「はい、楽しいです」

「やっぱりね。リディアの喜びそうなことを、僕は把握しているから」


 得意気に語る彼は、わたしを楽しませるために小舟を旋回させてくれたらしい。


 確かに、殿下はわたしの趣味趣向を凄く理解している。悔しいけれど、その点は認めざる得ない。



 ◇


 舟遊びを終えたわたし達は、庭園に設置された四阿で軽めの昼食を済ませた。


「昨日は移動も多かったし、疲れたよね。僕は少し執務仕事をこなしてくるから、リディアは休憩してて」

「ありがとうございます」


 最近は監禁監禁言われてるけど、一日べったりではなく一人になれる時間を設けてくれるのはありがたい。


「そのうち一日中一緒にいれる日なんかあっても良いよね」

「……」



 相変わらずこちらの思考はバレバレな気がするけど……。

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