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満月の夜に〜妹に呪われてモフモフにされたら、王子に捕まった〜  作者: 秋月乃衣
二章

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25/50

その後

 目の前には白磁のカップに注がれた、琥珀色の紅茶。そして色取り取りの、美しいお菓子が並んでいる。

 焼き菓子に蒸菓子にと、わたしがお菓子に気を取られている間に、女官達は部屋を後にしていたようだ。

 大きなガラス戸から、王宮の庭園が見渡せる一室に、シオン殿下と二人きりとなっていた。

 広い長椅子なのに、何故か互いの膝がぴたりと密着する距離に私達は腰を下ろしている。


「リディアはまずどれが食べたい?」

「そうですねぇ。どれも美味しそうですが、苺でしょうか?」

「苺……。分かった」


 わたしのために取り分けてくれたのかと思いきや、苺のタルトを小皿に乗せると、シオン殿下は一口分をフォークで掬った。

 そしてわたしの口元へと持ってきた。


「さ、リディア。口を開けて、食べさせてあげる」

「じっ、自分で食べられますから!」


 全力でお断りする私を、シオン殿下は何故か不思議そうな面持ちで見つめてくる。


「つい先日、僕の手ずから実に美味しそうに食べてたじゃないか。僕の手からではないと食べたがらないくらいだったくせに、どうしたの?」

「もしかしなくとも、それってわたしがウサギにされていた時の事をおっしゃっていたますか? 何だか、盛大な勘違いと誇張が入っているような気がするのですが……。あの時はウサギに徹していて、正体がわたしだとバレないようにする為の演技ですから」

「ウサギに徹する……」


 シオン殿下は呟くと、ピタリと動きを止めた。口元は弧を描いているが、目が笑っていないのが気になる。


「どうしてウサギを演じる必要があったの?すぐに僕に助けを求める道もあったと思うんだけど」

「喋れなかったんだから仕方ないじゃないですか」

「話せないにしても、気付かせるために出来たことってあるよね」


 確かに、ウサギとは思えないような動きで気付いて貰う作戦なども一時的には考えでいた。

 でもわたしは本物のウサギの振りをした。


「ウサギの姿のまま、人間の言葉が話せる様に僕が魔法を掛けた時も、リディアじゃない振りをしようと思ったよね。やはり僕の元から逃げようとしていた……?」


(げっ、覚えていたか……そもそも殿下だって最初からウサギがわたしだって気付いていた癖に!)


「ということは今でも隙あらば逃げだす可能性も? もっと逃げ道を塞いでおかないと……」


 何やらブツブツと呟やき、わたしを見つめる殿下の瞳が、次第に光を無くしていく。深淵に染まる瞬間を目の当たりにしているようだった。

 身の危険を感じたわたしは、早口で必死に言い繕う。


「ち、ちち違っ。大体最初に逃げ出したのは、殿下がフェリアと一緒に、わたしの悪口をおっしゃっていたからですよ! それをわたしは立ち聞きしてしまったのです。

 まぁあの時は立ち聞きと言っても、既にウサギの姿だったので四足歩行でしたけどねっ」

「悪口?」

「わたしについて、いつも勉強でも社交でもバレないように手を抜いてるだの、いかにサボるかという事ばかり考えているだの言っていました」

「事実じゃないか、それのどこが悪口なんだ?」

「う……そう言われますと……」


 首を傾げるシオン殿下の表情からは、疑問の色以外感じ取れない。

 確かに今になって思い返してみると、殿下は単に事実を口にしていただけだ。

 猿の様だと揶揄してきた挙句、姉であるわたしを魔法攻撃してきたフェリアは兎も角として……。


 それなのにリディアだと気付かれて、そのまま闇に葬られるかもしれないと邪推し、逃げたり正体を隠そうとしてしまった。

 シオン殿下はというと、わたしを闇に葬るどころか閉じ込めて隔離しておきたいらしい。それもどうなの?



「完全にわたしの早とちりでした……」

「妹に魔法でウサギにされたばかりだったから、疑心暗鬼で気が動転してしまっても仕方がない。それに僕はリディアの神経の図太さや、手を抜くのが上手いところが妃に適しているとも考えているから、むしろ褒め言葉とさえ思っている。まあ例え妃に適してなくとも、結婚は確定事項だから反古は許さないけど」

「……」

「大体、分かりやすい愛情表現にしろと言ったのはリディアの方だ。なのに拒否するわけないよね……?」


 反駁しながら、生クリームと苺を乗せたフォークをずいっと私の口元に持ってくる。しぶしぶながら口を開いた。圧に屈しただけでなく、苺が凄く美味しそうだから。

 シオン殿下により、わたしの口に苺が運ばれた。口の中に生クリームの甘みと、苺の仄かな酸味が広がり、美味しさに思わず頬が緩んでしまう。


 もぐもぐと咀嚼しながら思案し、飲み込んだところで抗議を再開した。


「でもやはりこれは、何だか恥ずかしいのです。言葉で愛情表現して頂けたら、わたしでも分かりやすいかも」

「恥ずかしがっているリディアからも目が離せない、ずっと見続けていたい。でも誰にも見せたくないから、僕だけの目が届く場所に閉じ込めて、そして僕しか触れることが出来ないように……」


(怖い怖い怖い! 何だか雲行きが怪しくなって来たんだけど!?)


「とっても伝わりましたわ!」

「ちゃんと伝わってると良いんだけれど」

「後半はちょっと怪しかったですが……」

「閉じ込める為の素材などを明示した方が、具体性があって分かりやすかったかな」

「いえそういう訳では」

「本気だと分かって貰えるように、やはり行動でも示していく事にする」


 あれ、もしかして地雷踏んだわたし?

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