ナデナデなど効か……
いつまでも自分の絵に囲まれ続けるのは、精神衛生上とてもよろしくない。
(そろそろ、ここからお暇したい……切実に)
そう思っていた矢先、ようやく隣の部屋へと場所を移すこととなり、私は胸を撫で下ろした。
シオン殿下のとんでもない秘密の部屋は、入室した時同様仕掛けを作動させ、本棚は元の位置へと戻った。これにて封印完了である。
願わくば、この封印が再び解ける事がありませんように。なんて無理だろうけど。
(それにしても殿下は一体どのくらいの頻度で、とんでも秘密部屋に通っているのかしら? そして普段あの部屋で何をしているのか、知りたいような知りたくないような……)
複雑な思いを抱えたまま寝室へと戻ると、長椅子に腰掛けるシオン殿下の膝上にわたしは座らされた。するとすぐにシオン殿下は、わたしの頭や背中を撫で始める。このウサギの姿になってからというもの、短期間にかなりの頻度で、こうして彼に撫でられている気がする。最初こそ戸惑ったものの、もはや慣れつつあった。
というのも、彼のしなやかな手で優しく撫でられると、中々心地がいいのだ。悔しい事に。
だが完全にウサギのフリをしていた先程までとは違い、現在はわたしの正体がリディアであると認めている。大人しく撫でられるものかと、反抗的な感情が湧いてくるのは自然の流れ……の筈なのに。
慣れつつあるどころか、すっかり殿下の絶妙なナデナデの魅力の虜といっても過言ではない程、わたしは魅了されていた。
(なんて……なんて心地の良いナデナデなの!?こんなの抗えない……!)
夢見心地になりながら、もしかしたら殿下はナデナデのプロなのではないかと、よく分からない単語まで浮かび始めたその時……。
「公爵には……」
油断しきったわたしの頭上に、突如シオン殿下の優しい声音が下りてきた。驚き、わたしはビクリと身体を震わせる。ちなみに昔から、殿下の声はとても好きだ。
(はっ!?いけないいけない……あまりの心地良さに意識が飛び掛けてた……)