しがないウサギです
部屋の壁全面に飾られている肖像画は、小さい頃の私から、現在の年代まで細かに揃っている。
それも、庭でお昼寝中のリディア、お茶会中リディア、普段着リディア、ドレスアップリディア。
実に多種多様なリディアこと、わたしの絵がこの空間内に存在していた。
自分に囲まれるという、異様な体験に怯みすぎて、思わず後ずさりしてしまった。
その時、何かにぶつかってしまったようで、ガタン! と音を立ててしまった。不味い。
一応何に当たったのか、振り向いて確認をすると立てかけてあった『はにかんだ表情のリディア』の肖像画だった。
自分なのにちょっとイラッとした。
しかし今はそんな場合ではない、恐る恐る後ろにいる人物の方に視線を戻そうとした瞬間。
身体が宙に浮いた。殿下がわたしを持ち上げたようだ。
そして自分の顔の前に私の顔を持っていき、真っ直ぐに射るような視線で呟いた。
「リディア」
(え? 今、り、リディアって言った? あ、もしかして絵のわたしに呼びかけたの?)
よく分からない状況に、わたしは必死のウサギキックを連打した。
「ひえぇぇ! 離して、離してぇ! 勝手に入ってごめんなさい、とっても反省してますー!! 下ろして下さいー!! ……って、あれ?? わたし、喋れてる?」
念のため自分の身体を確認してみる。もしかして人間の姿へと戻ったのかもしれない──モフモフのままだった
「まだウサギのままじゃないのよ!?早く下ろしてー!」
「リディア」
もう一度、わたしの名を呼んだシオン殿下。静かなのによく通る不思議な声だ。
しかしこのままではリディアが、王子様の秘密のお部屋に不法侵入した悪事がバレてしまう。非常に不味い。
ここは、ウサギの姿なのを利用して、シラを切ろう。
「……え、リディアって、あの絵の女の人ですか?とても綺麗な人ですね。ちなみに、わたしはしがないウサギです」
「僕は現在魔法で、ウサギの姿になっている君リディアに話しかけている」
完全にバレてる……これはどう足掻いても言い逃れできない……。
「うっ、で、殿下……。わたしがリディアだと気付いていらっしゃるんですか? 一体いつから……」
「最初からに決まっているだろう。たった今、話せるようにと、魔法をかけたのも僕だからな」
「えぇー!?」