C1P1『First day』
日常が非日常に変わる瞬間、有が無に帰す瞬間、――セカイが終わる瞬間。それが訪れる事があるとするなら、僕らは何もできないだろう。
そして、それが今訪れようとしていた。挙げた通り、殆どの人類には予知すらできなかった。――僕を含む何十人かの少年少女を除いては。
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それは、言わば『天啓』。神からの授かり物、とも表せるだろうか。取り敢えず、奇跡が起きたのだ。社会的弱者に与えられた最初で最後の、最高のボーナス――『個彩』。
実感した切っ掛けは、まさしく『覚醒』。と言ってもゲーム等で使われる大袈裟な表現ではなく、単なる目覚めの方だ。悪夢を見るだとか、外的環境からの影響を受けたとかではなく、もっと不自然な形の覚醒だった。
静寂の中で、真っ白な空間の中で、爽やかな朝日の様な光を身体一杯に浴びて起きたかのような目覚め。疲れも怠さも全く無い。異常な気分の良さ。
そんな中で唯一癇に障るのは、体内に感じる違和感。悪寒、痛覚……否、『波動』に近い。海の中で、数秒間隔でぶつかってくる小波。それが、ゆっくりと体内を廻っている感覚。
暫くの間は、そんな不思議な感覚を体験しているだけの時間だった。だが、それは急に終わる。――新たな衝撃によって。
『やあ、聞こえるかな』
声が、聞こえた。最初は幻聴だと思った。しかし、甘い予想は塗り潰される。
『今、君と僕は繋がっている状態だ。まあ、通話している様なものさ。だからできれば君も言葉で返してくれると助かるよ』
続けて、声が聞こえる。疑問点を明らかにする為にも、対話を試みる事にした。
「お前は、誰だ?」
『僕は、言わば君達を見下ろす立場に当たる者だよ。まあちょっぴりと偉いのさ』
「『天啓』を齎す者、という事か。成程――次だ、目的は何だ?」
『フフ――それが一番重要なのだよ。少し話が長くなるが、よく聞いて欲しい。先ず最初に、君の世界は惑星的に『地球』と呼ばれると思う。だが、その蒼い星はもうすぐ終わるのだよ。……僕の手によって』
「……そうか」
『反応が薄いね。続けるが、今言った事は嘘偽り無い。世界には必ず終焉が訪れる。そしてそれは僕の力によって引き起こされる。理由は、気紛れだ』
「……。」
『それを止める方法は、勿論有る。僕の気紛れを変える事、だ。文字通り世界規模を動かす力を持っている僕は、ある少年少女達に希望を持たせる事にしたんだ』
「その一人が、僕なんだな」
『ご明察。んで、説明が長くなりそうだから……簡潔に言うけど』
そう、一番聞きたかったのは、『目的』と『要望』であって。
『僕から君達に個性の色――『個彩』を与える。その能力を使って殺し合え。君達の命を以て僕を楽しませろ』
そんな身勝手な暴力の脅迫などでは、無かったのだ。
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話は終わり、声は聞こえなくなった。普通はこの様な状況すら信じられないが、『世界を壊す』と言う脅迫が嘘であるとは、言い切れなかった。……何故なら、既に非現実的な体験をしてしまったからだ。
自分の中で話を整理する。やはり一番気になるのは『個彩』についてだ。奴に選ばれた少年少女らに与えられる能力。その内容は十人十色――それぞれが別の能力を使えると言う事だ。
そして、奴は言った。
『ついでに言っておくと、戦いはきっと直ぐに始まる事だろうね。ふふ、少年少女達が繰り広げる個性同士の戦い……じっくり見せてもらおうか。さて、僕も去るよ。次に会う時は僕の事を『KEY』と呼んでくれ』
奴――KEYは、『天啓』を受けた直後に戦いは始まると言った。その言葉の真偽を確かめる前に、優先するべき事項がある。それは、『僕の個彩』についてだ。
KEYが授けた『個彩』はあくまで、『個彩を持つ少年少女らで殺し合いをさせる』為にあるものだ。よって、数々の能力は戦闘に特化したものだと考えられる。その中で僕に与えられた能力とは一体何なのか。
今、この時。この時こそが人生を天秤に掛ける瞬間なのだろうか? 価値の無かった人生にやっと色が付くと思うと、楽しみになってしまう。
さあ、僕の『個彩』を――。
――。
――?
……成る程。
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今、有村糸音は、暗く狭い場所に居た。あまり手入れされていない『物置』特有の臭いが鼻を衝く。長時間居るには、綺麗好きや潔癖症の人間でなくとも精神を抉られていく感覚を味わう。それにも関わらず物置に身を潜めるのには理由がある。
――KEYの言っていた通り、殺し合いが直ぐに始まる。
信じる信じない以前に、その理論は筋が通っている。しかし自分の能力を使い熟せるか不安な状態では、深夜に正面戦闘は危険。そう考えた糸音が辿り着いた結論が、今の状態である。
「……生憎、自宅の雑草の手入れがされていなかったのが幸運だった」
過保護な親の所為で、一人暮らしだと言うのに多少豪華な一軒家住み。詳細は省くが、広すぎる畑も大きな物置も特に使わないので放置していた。
その功績……否、怠惰を貪った結果、雑草はだらしなく伸び、蔦が家を包み込んでいき、背の高い植物達に隠された物置は、最早他人からは殆ど見えない状態になっている。
そこで糸音が思い付いた隠れ場所が物置。他人には見つけられず、この家に住む者だけが知っている唯一の場所。
一先ず、夜はここで眠る事にした。
『さて――劣等者は人生を逆転し、僕の元に辿り着けるだろうか? フフ……』
やりたい事が多過ぎて手に付きませんでした!!
モチベーションは段々と上がってきてるので、ゆっくり書かせて下さい!
次回……『個彩』バトル、解禁!?