守銭奴、狂信者に出会う。
「君はクビだ、俺達のパーティーには要らないよ。
今までご苦労様、直ぐにここから出ていってくれ。」
俺の所属するパーティーのリーダーであるクレインは冷徹な声でそう告げた。
「クレイン待ってよ。そんな酷いことを言わないでよ。
ソウは私達の仲間でしょ?もっとちゃんと話し合おうよ。」
「リーナ、もう充分話しただろ?
だけど、この守銭奴は口を開けば金.金.金だ。
もううんざりだよ。そんなやつは仲間じゃないね。」
綺麗な長い金髪を揺らしながら、小柄な少女はクレインに懇願するがクレインは意見を変えるつもりは無いようだ。
「分かった、俺はここで抜ける。
だが、約束は約束だ。今回の仕事の分け前は貰う。
クレイン、リーナ今まで世話になった。。。じゃあな。」
「あっ、ソウも待ってよ。」
俺は、クレインが机の上に置いた金貨を取ると一直線に部屋を出た。後ろから、少女の声が聞こえるが振り返ることはなかった。
「マスター、またやっちまったよ。」
ビールを煽ると、俺はバーのマスターに愚痴を溢す。
「はっはっはっ、お前これで何回目だ?
直ぐに調子に乗って報酬の取り分の交渉するからそうやってクビになるんだよ。
いったい何のためにそんなに金に執着してるんだ?
当ててやるよ、そうだビールのためだろ、はっはは、どんどん飲めよ。」
マスターは豪快に笑いながら、新しいビールジョッキを付き出してくる。
「ううっ、前々から感じていたが、他の冒険者は英雄になりたいだとか世のため人のためとかどうも俺と価値観が合わなすぎる。
その癖に金払いはよくないし、正当な分け前を貰おうとすれば守銭奴扱いだよ?おかしいのは僕じゃないでしょ。
はぁ、そろそろ俺の冒険者人生も潮時かな、金を稼ぐなら商人になるべきかなぁ、マスターはどう思う?」
俺は酒の酔いか弱気になりマスターに問う。
「おいおい酔ったからってそう弱気になるなよ。
俺はお前の腕っぷしで商人やるのは宝の持ち腐れだと思うぜ。
そうだな折角の機会だし、お前も自分のパーティーを作ったらどうだ?」
「それ素晴らしい案だよ!マスターはやっぱり天才だぁ。」
ポケットに入っている金貨を取り出す、それを見ているとクレインを思い出す。縁起が悪いから退職金はここで使ってしまおう。
俺は守銭奴だけど使うべきとこではお金は使うタイプなのだ。
「よーし、今日は俺の独立記念日だ。皆、一杯おごるぞ。」
「あら、ソーちゃん今日は記念日なの?おめでとう、ご馳走さま。」
「おっ、兄ちゃん気前いいね!あんがとよ。」
俺がそう叫ぶと、バーにいた客達が集まってきグラスを合わせてきた。
そうして酔いに身を任せて夜は更けていく。
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頭の中で金属音が鳴り響く。目を開け、身体を起こすが怠さと倦怠感が付きまとう。
無理やり身体を起こすと風呂場に向かう。お湯を炊く気概は起きないので、素早く服を脱ぎ水瓶に貯めてある水を桶で掬うと頭から被った。
水の冷たさで一気に意識が冴え渡る。鏡を見るとそこには無精髭が生えた無職の顔が映っていた。
「はぁ、ここは身なりも整えて心機一転頑張りますか!」
頬を強めに叩いて自分を鼓舞した。
俺の名前はソウ・アズール。
17歳で一攫千金を夢見て村を飛び出し5年間冒険者として生きてきた。
自慢じゃないが、腕っぷしには自信はあった。しかし、金を稼ぐ上で大切なのは冒険者としての腕っぷしもよりもコミュニケーション能力だった。
一人ではどうしても壁に当たる、そうなると徒党を組むしかない。
集団のなかで自分の地位を確立するには、力も大切だがいかに立ち回るかが重要になってくる。
ただ残念なことに俺のコミュ力は最低ランクであった。
そのため、こうして入ったパーティーでも上手く自分の立ち位置を確立できず安い金で働かされ、待遇改善を求めては最後には決裂し追い出されることを繰り返していた。
それでも元パーティーメンバーで、繋がりが残っているやつも少なからずはいる。
くよくよ過去を引き摺っていても金は湧いてこないので、今日からは一人でも頑張って稼いでいくぞ!
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この世界の冒険者の仕事は主に2つある。
1つ目は、ダンジョンの攻略。
この世界では神が創り様々な奇跡を起こすことができる神具と呼ばれる道具が存在する。神具は世界に顕現するさいに周りにダンジョンと呼ばれる遺跡を造り出す。冒険者は神具を求めてダンジョンに潜るのだ。
2つ目は、魔物の討伐。
これは主に国の騎士団の仕事だが、世界には人の驚異になる獣は溢れ返っているため腕っぷし自慢の冒険者にも討伐の仕事が周ってくる。
腕っぷし自慢の冒険者を纏めるために作られたのが"ギルド"だ。
冒険者達は、ギルドに所属し依頼を受けたり、ダンジョンで手に入れた神具や魔物の素材を取引する。冒険者達は多くは徒党を組み活動している。それが"パーティー"だ。ちなみに、俺は昨日クビになった。
パーティーを新しく作るにしてもやはり人選はしっかり考えなければいけない。
俺は人並みには倫理観があると思ってる。俺が金を稼ぐために他人の夢や情熱を弄ぶ真似はしたくない。それなら、同族と割りきってやっていくほうがいい。
残念なことに、知り合いで現状フリーで割りきってやってけそうなやつは居なかった。
仕方がないので、臨時要員としてどこかのパーティーに雇われるか、一人でダンジョンに潜るかどちらにするか受付の前で悩んでいると急に話しかけられた。
「お兄さん、受付の前でボーッとしてるなんてもしかしてフリーですか?
それは大変都合が良いですね、私と一緒に世界を救いに行きませんか?」
振り返ると、そこには元気のオーラを身に纏った少女が笑顔を綻ばせて立っていた。僧侶と思わしきローブ姿に女神のモチーフおもしきものが刻まれた杖と本を抱えている。
絶対に面倒ごとになる。ぶっきらぼうに返事をする。
「………遠慮しておきます。それに、私は仕事は報酬で選ぶ人間です。」
「そうなんですね!心配しなくて大丈夫です、貴方もきっと気に入ると思います。
報酬はこの世界に生きる人たちの笑顔です。」
少女は真っ直ぐな瞳で俺を見つめ、透き通った声でそう告げる。
はぁ、ダメだ目の前にいる少女は話が通じる相手ではないようだ。
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「自己紹介がまだでしたね。私はリズ・リズリットといいます。
リズって呼んでくださいね。」
熱心に勧誘してくる彼女から逃げようと歩く俺を逃がすまいと手を掴みながら彼女はそう話す。
「………ソウだ。俺は君の誘いに乗るとは言ってない。俺が欲しいのは金だ、笑顔じゃない。………後、そんなに強く引っ張らないでくれ。」
「ソウさん!素敵な名前ですね。ソウさんはお金がお好きなんですね、分かりました始めにこの依頼を一緒にしましょう。報酬は全てソウさんにあげます。」
「………何が狙いだ?」
「私たちはまだお互いを知りませんから。この依頼だけで大丈夫です、簡単な依頼ですし御試しだと思ってお願いします。それに私の事を知ってくれればソウさんはきっと一緒のパーティーになると思います。」
そう言うとリズは引いていた手を両手で包むように掴み、笑顔を向けてきた。
「………分かった。但し、この依頼だけだ。」
コミュ力の低い俺は基本的に推しに弱いのだった。
リズが差し出してきた依頼書はありふれた魔物の討伐依頼であった。
最近に街道近くに出来たダンジョンから溢れ出したハウンドウルフの討伐。
ハウンドウルフは群れで動く魔物だ。大群となれば熟練のパーティーでも手を焼くが、単体なら駆け出しの冒険者でも何とか倒すことが出来る。
依頼書には討伐数は書いてない、つまり同様の依頼が複数出ており俺達がハウンドウルフの群れを全滅させる必要はないということだ。依頼主からの報酬は一頭につき銅貨10枚。牙をギルドで換金しても一頭で銅貨15枚程にしかならない。人が慎ましく1ヶ月生きるのに銅貨100枚は必要だ。
冒険者をやるには金がかかる、一攫千金を目指すなら狼を狩るよりももっと大物を狙わないといけないが首になったばかりの俺は贅沢も言ってられない。
依頼をこなすために街を出て歩いて1日程がある小さな村を目指す今回の依頼はその村を拠点にこなすことにした。街道を歩きながら簡単に自己紹介をすることにした。
「取り敢えずお互いが何をできるかは話しておこう。君は後衛職みたいだから俺が前衛職をする。いちおう剣に覚えがあってねハウンドウルフくらいなら、一人でも5匹くらいならなんとかする。」
そういって手にもったロングソードを見せる。
「ソウさんを頼りにしてます。私は見ての通り僧侶です。我等が主たる女神アグイアの奇跡で光による救済を少し出来ます。そうだ、街の協会で週末にミサをしてますので是非ソウさんも来て下さい。」リズはそういうと胸に掛けたらネックレスを見せてくる。
「宗教勧誘ならここで解散だ。」
そういって来た道を帰ろうとする。
「気を悪くされたならごめんなさい。帰らないで下さい。
そうだ!ソウのこともっと教えて下さい。好きな食べ物はなんですか?実は私、料理も得意なんです。」
リズは謝り、話題を変えて話しかけてくる。
リズの顔をみれば分かる、彼女は狂信者だ。
何の目的で俺に付きまとっているかは分からないが目の前の少女はとてつもなく大きな爆弾だと分かる。
ソウは彼女の押しに負けてしまった一時の判断が、大きな過ちだと察するのだった。