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盗人

Snowlight

作者: 横瀬 旭

 「まもなく、二番線に、各駅停車望郷行きがまいります」


聞き馴染んだ接近チャイムの後に、聞きなれない行き先のアナウンスが聞こえた。


「望郷」


確かにそう聞こえたが、ぼうっとしていた私は、プラットホームに入ってきた電車に、何も考えずに乗り込んだ。


年末だからか、乗客は片手の指で数えられるほどだった。風邪が流行っているからか、全員がマスクをしている。


 終点のプラットホームに電車が入り、降車した。


駅の改札を出るとそこは、白い雪の積もる夜の港町だった。温泉街から造船所までの約十キロメートルを、路面電車がガタンガタンと音を立て、前照灯を点けて走っている。


町を見下ろすようにそびえる山。ロープウェイの乗り場に向かう観光客。それらが会話をしている言語は私にはわからないが、ほぼ全員が同じ言語をしゃべっている気がする。


 私は予約しているホテルへ向かった。


海に沿う高架橋のそばに建つ、一晩だけの私の家。向かいの港には、RORO船(ローローせん)が停泊していた。


冷たい空気に、凍り付いた路面。


私は滑らないように一歩一歩しっかり雪道を踏み込んでホテルへとたどり着いた。


 この地方でしか飲めないビールを飲みながら夕食をとる。窓から外を見ると、山の頂上に繋がったワイヤーを伝う、大勢の人間を乗せたロープウェイが見えた。


山頂からの夜景を見に行く人たち。真っ暗な空の下に、白やオレンジの光が灯っている景色。私は今、その景色の中にいる。


 翌朝、私は早い時間から外出し、山の登山道へ向かった。


雪の積もった山。しかし、人間が歩いた場所だけは、道ができていた。


枝の上の雪が落ちる音に驚き、ふと足を止めると、とても静かな音がした。


擬音語では表せない音。空気が通るような、風が抜けるような、とても静かな音だった。


山頂に到着し、町を見下ろす。


標高、三三四メートル。そこから眺める、昔から変わらないこの景色。


小さい町がさらに小さくなった。この山を背に、扇型に広がる町を見た。


 ロープウェイに乗って山を降りる。


小さかったものがだんだん近づいて大きくなり、教会や坂道を一瞥して、山麓に到着した。


一時間かけて登った山を、わずか三分で下山した。


さて、昨日乗った望郷行き。各駅停車だったが、終点までの道中どこに停まったのか。


 ーーそれは、偶然にもこの小説のリンクをクリックしたあなたの故郷です。


片手の指で数えられるほどの乗客とは、あなたのことです。


この小説をここまで読んだあなたは、途中駅であるあなたの故郷に、思いを馳せてみてください。ーー


「ご乗車ありがとうございました。まもなく...」


 東京駅のプラットホームに電車が流れ込んだ。ターミナル駅とは思えない地下のプラットホーム。「望郷」とは「東京」の聞き間違えだったようだ。


ここから新幹線に乗り換えれば故郷へ行ける。しかし今年はそれができない。


私は、故郷の町に思いを馳せた。

私の両親は都内に住んでいるのでこの話で書いた場所に関しては故郷でも何でもありません。


しかし故郷に帰る心持ちで毎年年末に新幹線で訪れて山に登り夜景を見たりビールを飲んだりラーメンを食べたりしていました。


しかし今年はできません。


コロナが流行っているのも理由の一つですが


単純に金欠だからです。


スネイルズハウス氏の[Snowlight]という曲にインスピレーションを得ました。

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