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9 手鏡盗難の真相

 父ジェラルドが帰ってきたのは夕食も終わり、エレーナがウロウロと自室を歩き回ってだいぶ時間が過ぎたあたりだった。


エレーナ、侍女マーサ、執事アルバートの三人が再び執務室に呼ばれる。


「お父様、どうなりましたか」


「うむ。魔術師を尋問したところ、罪を認めたよ。尋問中に奴の住まいを捜索したところ、手鏡はあっさり見つかった。

 若手の警備騎士の飲み物に遅効性の腹下しを入れて警備の手薄を狙ったらしい。

 カーティスと鍵穴にかけられた魔術の痕跡は巧妙に消されていたが、上位の魔術師が調べたところ、やはり魔術が使われていたことが判明した。奴は第三王女に懸想していたようだ」


マーサが眉間に微かなシワを作り

「王女に若手の魔術師が懸想、でございますか」

とつぶやく。 


「ああ。愚かなことにな」

 父の苦い顔を見てアルバートも苦い顔になる。


 第三王女のセンシア様は生まれつき魔力が強かった。王侯貴族にはわりにあることである。


 王は一度はセンシア様の希望を受け入れて魔術師にその力がどのような方面に優れているのか調べさせた。


 能力が回復魔法であればまだ良かったのだが、センシア様は火魔法に特化していた。


 まれに生まれる平民の魔力待ちなら、火魔法は喜ばれる。

 軍に良い待遇で入れるし、軍に頼らずとも料理や商売に活用できるからだ。


 しかし平和をつなぐために他国へ嫁ぐ王女となれば話は別だ。


 攻撃力のある姫などあちら側も警戒するだろうし、受け入れられたとしても攻撃魔法の強い跡継ぎが他国に生まれる可能性の芽は、我が国としては摘んでおきたい。


 結局、センシア様の魔力は本人同意の上で魔術師団長により封じられた。


 その後の経過観察に通う団長に付き添っていたのが窃盗犯のアーロンである。


 アーロンは経過観察に何度も通っているうちに、第三王女に一方的に心を寄せてしまった。


 とは言え途方もない身分違い。ましてや隣国へ嫁ぐと決まっている王女と親しくなれるはずもない。



 ならばせめてその麗しいお顔を眺めるだけでも、とアーロンは王女センシアの手鏡を自分の部屋の鏡と繋いだのである。


 こっそりと自分で触って道筋を付けた手鏡は、自分の家の鏡と繋ぐための魔法をかけやすい。


 アーロンは王女が手鏡を使う時に自分の部屋でその白百合のような姿を覗き見ていたのだ。大変悪質な覗きである。


 気持ちの悪い話に、聞いていたエレーナとマーサは酸っぱいものを食べたような顔になる。

アルバートは目をつむり小さく顔を左右に振っていた。

 ジェラルドが話を続ける。


「王女が嫁ぎ、ご愛用の手鏡は残された。手鏡が一緒に運ばれると思っていたから奴は思惑が外れたわけだ。

 しかも王女の愛用品の目録が作られて王宮保管庫に残されると聞いてアーロンは慌てたのだ。万が一、誰かが魔力の残滓に気づいたら、と」


 その先はジェラルドの夢の通りであったと言う。


 グラスを運ぶ女官の後をつけ、グラスを載せたトレーを魔術で下から突き上げて騒ぎを起こし、その隙に部屋から手鏡を盗み出した。


「特務隊の隊長には感謝されたが、どこで情報を手に入れたのかとしつこく聞かれてな。俺もそれなりの手札は有るのだと誤魔化した。エレーナのおかげで友人のカーティスは無罪が確定した。

 しかしエレーナ。これは少しばかり困ったことだ。この先お前が力を自由に使っていては騒ぎに巻き込まれて身を滅ぼしかねん。お前が願った通りに力を働かせる術を学ばねばならん」


「願った通りに、ですか」


 エレーナは困惑していた。

 父親に安らいで欲しいと願った刺繍は父親の心配事を解決出来たものの、全く畑違いな所で働きかけたわけで。


「今、王宮の魔術師にお前の力の魔力制御の訓練を頼めば、今回のことに結びつける者も出てくるかも知れぬ。しかし他に腕の立つ魔術師で信頼に足る者が知り合いにはおらぬ。うっかりそんな人探しをすれば噂にもなろう」


「旦那様、私に思い当たる人が一人おります。ヘレナ様ゆかりの方でございます」


「なんだとマーサ。その方とは?」


「ヘレナ様がお力を受け継がれた場合に備えて魔力の使い方を指導して頂くべく、ご契約された女性が当時いらっしゃいました。私も一度だけ同行してお会いしたことがございます。

 ヘレナ様のご実家のグランド領ウォーラの町外れに住んでいて、薬師をしていた…たしかアボット様」


「ヘレナはその女性に師事したのだな?」

「いえ、一度アボット様にお会いして魔力を見ていただいたところ、『あなたの魔力は方向が1つで安定している。魔力の放出する出口も癒しの力に限定されている、だから訓練せずとも安心して魔力を使えば良い』と言われました。『揉め事になるほどの強い魔力ではないようだから』とも。なのでヘレナ様がその方にお会いしたのは一度だけでした」


「そうだったか…」

ジェラルドが思案していると、


「お父様、私もその方に見ていただきたいと思います。訓練が必要なら受けてみたいです」

エレーナが切り出す。


「そうだな。まずはその方に手紙を書いて依頼してみよう。グランド領なら義兄上に口利きを頼もう。

 しかしグランド領か。街道沿いに行けるとは言え馬車で四日もかかるではないか。少々危ないな」


 うんうんと小さく同意して頷く執事のアルバートとは反対にマーサは目つきが生温かくなる。


(いえいえ、護衛も付けるでしょうし私もお嬢様もそこそこ戦えますし)と思っていることはダダ漏れである。


 そんな三人の様子をうかがっていたエレーナが思わず、といった口調で更に押す。


「お父様、良かれと思ってお渡しした私の手作りの品が、相手にどんな影響を与えてしまうのか、今のままでははわからないということですよね?

 このままでは幼い子供たちやご病気の方のお役にも立ちたくても危のうございます。

 どなたにも安心して私の手作り品をお渡しできるようになりたいと思います。

 自分の力を恐れて何も作れなければ、代々受け継がれてきた力は、宝の持ち腐れになりましょう。

 どうか、私にグランド領への旅と力の鍛錬をお許しください。

 守られるだけの姫は愚であると教育され、幼い頃から武術を学んできたのは、このような時のためにこそ、です」


 正論である。


 ジェラルドは「ぐっ」と詰まったまま視線をテーブルに落とし固まっていたが、渋々ではあるがエレーナの旅を許した。


 まずは相手の許可を得る為に手紙が出された。

 幸い相手は存命で、折り返しで返事が届き、エレーナとマーサ、護衛騎士たちによる出立が決まった。



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