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7 父は二度夢を見る

 枕に頭を置くと、吸い込まれるようにまた同じ夢を見た。


 ジェラルドは(またか。この短い夢にどんな意味があると言うのか)といぶかしく思った。


 通路の突き当たりを右に行けばまた同じ夢を見るのか、なら今度は左に行ってみるか、と歩く自分の後ろの上を視点にして進む。


 見下ろしているはずの自分の身体は見えないし触れない。これは浮遊する魂みたいな物なのか。


 突き当たりにぶつかると夢の中の自分は右に曲がって軍部関係の施設へと行くが、二度目なので今回は視点だけで左に曲がってみる。


 お仕着せの女官服を着た女官が二人。

 距離があるところを見ると連れ立っている訳ではないようだ。


 女官たちの後ろにはまた距離を置いて魔術師が1人。

 ローブのフードは後ろに下ろされている。

 暗い茶色の長い髪をひとつに結んで垂らした細身の男だ。


 彼ら三人のうち最初の女官の1人は書類を持って左手の渡り通路へと進む。残った女官は銀のトレイにグラスを並べて両手で運んでいる。魔術師はその後ろを距離を保ったまま同じペースで階段を上り二階へ。


(おや?女官はともかく魔術師は誰の部屋へ行くんだ?)と様子を見ていると、王族のエリアに入る。魔術師は頻繁に出入りする立場なのか要所要所にいる警備に止められることなく進み、やがて主人のいない第三王女の部屋の前にたどり着いた。

カーティスが立っている、しかも独りで。


(当番の若手が腹具合が悪くなって離脱したと言うあの時間か?)

 視点だけのジェラルドは一気に緊張する。


 しかしトレイに載せたグラスを運ぶ女官はカーティスの前も通り過ぎ、十字の角を右に曲がる。魔術師もカーティスの前を通り過ぎた。その直後。



 ガッシャーン!



 盛大な音と短い女官の悲鳴が同時に上がる。カーティスが走り出し、角を曲がる。その時だ。


 ローブを着た魔術師は素早い動作で左腕をドアに向けると、鍵穴に小さな魔法陣を作り置いた。


(なんだと!こいつが犯人か?)


 角の向こう側も気になるが、ローブの魔術師から目を離すわけにいかず、そこで止まって見ていると、カーティスが戻ってくる。


「騎士殿、どうしたのですか?」

「ああ、女官がつまづいてグラスを盛大に割ってしまったようです」

「そうでしたか」

 何食わぬ顔で魔術師が問いカーティスが答える。


 そう言って離れぎわ、魔術師がカーティスに手のひらを突き出すと小さく何かを唱えた。


 カーティスは急に穏やかな顔つきになり、ドアの脇で警備の姿勢に戻った。


(カーティス!)


 歯噛みしながら見ていると、魔術師は素早くドアを開けて中に滑り込む。

 ジェラルドはダメ元で壁にぶつかるように進むと難なく壁を通り抜けられた。


 中に入った魔術師は、迷うことなく窓際に置いてある小ぶりな机に向かうと、その上にきちんと並べて置いてある手鏡を手に取りローブの内側へとしまった。


 そしてドアを身幅の分だけ開けてするりと部屋の外へと出ると再びカーティスに向けて掌をスッと突き出した。


 カーティスの目に力が戻るのと魔術師が背を向けて元の通路へと戻っていくのが同時だった。


(王族の私物を盗むとは!このコソ泥が!許さん!)

 夢だとわかっているのに激怒し、ジェラルドは男の真ん前に回った。


 紫色の瞳の若く美しい顔の男だった。

 顎の右にホクロが2つ並んでいる。

 魔術師はホッとしたような顔をしていた。


 ジェラルドはそこで目が覚めた。



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