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4 出来る侍女

 お父様に刺繍した枕カバーを渡し、自室に戻ると、侍女のマーサが

「エレーナ様、お食事の用意が出来ております」

 と告げた。


「ありがとう。食堂に向かいます」

「お疲れでしたらこちらにお運びいたしますが」


 母と一緒にこの家に来たマーサは、私が生まれてからは私付きの侍女をしてくれている。


 マーサは慈愛と労りと悲しみをごちゃまぜにしたような顔をして私に何か言いたそうにしている。


「なあに?私なら大丈夫よ。食堂に行くわ。私が不安そうな顔をしていたらお空の上でお母さまが心配するわ」

 完璧な笑顔をして見せる。


 マーサは一瞬グッと奥歯を噛み締めると「失礼します」と言うや否や、腰をかがめて椅子に座っている私の肩を後ろから抱きしめた。


「マーサ…どうしたの…」


「お嬢様。ヘレナ様のお力は人を癒してくださる素晴らしいお力でした。きっとお嬢様にもそのお力は伝わっていますわ」


 マーサが私の髪を優しく撫でながら励ましてくれる。


 少女の時からお母さまのために尽くして、私が生まれてからは私に尽くしてくれている鉄壁の侍女マーサにしては珍しいことだった。


 私は振り向いてゆっくりと両腕をマーサの背中に回し、ギュッと抱きしめる。


「マーサ。ありがとう。お母様と同じ力が私に有ればいいと私も思ってるわ。それにしても、お母さまもマーサも、徹底して癒しの力のことを秘密にしていたわね」


「それは理由があるのです。きちんと人格が作られる前に自分に特別な力が有るかもと知ってしまえば、幼い方なら勘違いを起こすこともございます。

 また、盛大に期待をして力が伝えられてない場合は、不要な劣等感を持ってしまう場合もございましょう。

 長い年月の経験と失敗から十五歳になれば、と決まったのではないかとヘレナ様は考えておいででした」


「なるほどね…。そうだわマーサ。お父さまにお渡しする刺繍も終わったことだし、明日は訓練に付き合ってくれないかしら」


「ようございますとも。楽しみです」


 マーサはお母さまと共に武術の鍛錬をこなしている。侍女には珍しい人だ。誰に習ったのかと聞いても「こちらのお宅にお世話になってからは執事のアルバート様に」と言うだけで、それ以前はどうしていたのか、そもそもどんな暮らしをしていたのかさえ言おうとしない。


「お嬢様に何かあった時に、悲鳴を上げるだけの情けない役目はごめんですからね」


 そう言って微笑むだけだ。

 だけどマーサの腕前は一流で、軍隊育ちのアルバートが「マーサが付いていれば安心だ」と言うのだから軍人に匹敵するほどの腕前ということなのだろうか。


 マーサは出来る侍女なのだ。

 馬の早駆けも剣を使った接近戦も、投げナイフの技も素晴らしい。


 明日の訓練を何にしようか話し合い、二人で談笑しながら食堂に向かった。


 今夜は私の好きなポタージュと子牛の煮込み料理、敷地内の畑で採れた新鮮なサラダ、フルーツをふんだんに使ったタルトだった。


 どれも美味しくて、私の中にある(私には力が伝えられてないのでは)という不安を少しの間忘れさせてくれた。



 お父さまがとんでもない夢を見ることを、この時の私はまだ知らない。

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