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1 武闘訓練

 我がワイルドハート家は代々武門の家柄。

父は軍部で役を賜っており、兄も第一騎士団に籍を置いている。


 そんな我が家には表にはあまり出せない家訓がいくつかある。

 そのひとつは『守られるだけの姫は愚である』だ。


 淑女として子を産み社交で家同士の繋がりを作るよう力を入れている他の貴族には聞かせられない家訓だ。



 私、エレーナは武闘訓練が好きだ。


 母にそっくりと言われるウェーブのある金髪とエメラルド色の瞳。体つきは細い。どんなに鍛錬してもあまり筋肉は付かない体質だ。



 今日は基礎体力のための鍛錬のあとは細い投げナイフの練習だ。

 執事アルバートの見ている前で的を狙って30本の細いナイフを次々投げる。


 タンッ!タンッ!タンッ!…


 全て的を外さず、うち18本はど真ん中。これで今日の課題を終えることができた。


 アルバートは「まあまあでございます」と言う。ちなみにアルバートは30本投げれば25本は真ん中に当てられる。


 彼は父の軍隊時代の元部下。

 怪我をして軍を退き、従者を経て執事となった。


 父とアルバートの指導で、私は二つ年上の兄と共に三歳の頃から全力で走る鬼ごっこや気配をきっちり消すかくれんぼ、石やナイフを使った的当てごっこをして過ごした。


 屋敷を出て森の中で足跡をたどる探索ごっこも繰り返された。

アルバートを相手に蹴りや突きの「悪者を倒せ」ごっこもあった。


 私は十歳を超える頃には基本の武闘術をかなり身につけていた。手に剣ダコも出来たし日焼けもしたけれど、それがどうした、という家風の我が家。


 もちろん私もそんなことは気にしたこともない。


 母は私が武闘の訓練を受けることを嫌がらなかった。


「手芸が出来ないより出来た方がいいし、自分の身を守れないよりは守れた方がいいわ」

 そう言って母は明るく笑っていた。


 いつも刺繍をしていたお母さま。

 思い出すのは全て笑顔だったお母さまは、半年前に風邪をこじらせて急逝した。

 咳をし始めてから高熱で亡くなるまで驚くほど早かった。



 伯爵夫人としておっとりと我が家を回していたお母様。刺繍や縫い物を教えてくれたお母様。


 ごつい男たちに囲まれて本当にお姫様のような存在だった。

 私はやんちゃで活動的でお母さまとは全然違っていたけれど、そんな私をいつも「私の凛々しいお姫様」と呼んで愛してくれていた。



 もっと甘えたかった。もっとお話をしたかった。そう思うけれど、口にも態度にも出さなかった。


 お父様は淡々と葬儀をこなし墓地に埋葬される母を送り、仕事にも復帰したけれど、私よりも悲しみ深く沈んでいるのはお父様だと私は知っている。


 本当に仲の良い夫婦だった。互いに尊敬し合い、いたわり合い、笑顔を交わす夫婦だった。


 私の理想の夫婦であり目標だった。

 そんな父と母に、秘密があった。





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