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終わりの祝辞

 異世界転生について考えていると鬱々としてくる。


 最近流行ってるので書いてみようかと思う反面、全部面倒くさいし僕が何を書いたところで誰にも求められない惨めな一遍が出来上がるだけだ。


 くだらねえな、と思いながら自分のアカウントをぼんやり眺める。『独下ケイ』フォロワー数はそこそこいる。フォローは0だ。出版社さんにはフォローされてるけど自分は作家さんをフォローしたりはない。だって普通に見たくないから。特に天上さんの会社とかは。


 ふつーに、馬鹿らしくなる。天上さんに仕事の企画で「ここ行きませんか」と言えば「一人で行ってくれば」だ。他の社員さんが出てきたことで、多分しぶしぶ参加してくる。でも他の作家さんは担当編集者さんとワイワイしていて、見るだけで「あー僕は天上さんに好かれてないどころか仕事相手の一人にすらなってねえんだな」というのが顕著なのでキツイ。いいなあと思う。僕も普通に、普通になりたい。作家として人並み程度の人権が欲しいけど、人気も実績も読む人間も買う人間もいないし、誰からも必要とされてないのに生きているクズなので、こういう人間っぽい感情がすごく汚いなと思う。


 どうして僕だけこうなんだろう。


 どうして僕だけいつも独りなんだろう。


 みんないいなあ。


 みんなうらやましいなぁ。


 どうして僕は駄目なんだろう。


 答えは簡単だ。無能無価値才能ナシのクズだから。


 数字も出せないし、数字が出せないなりに人を惹きつける個性もない木偶の坊。


 役立たず。不用品。


 いらないものはいらない。出しゃばっても醜いだけだ。大事にされることない。


 そもそも、親にすら愛されなかった自分が誰かに愛されるはずがないし、親すら理解できない自分が誰かに理解されることも理解することも出来ない。


 僕はずっと一人。ただ、命が軽いから、一人でも仕方ない。誰にも好かれない存在だからいついなくなってもいい。誰にも関心を持たれないからいつ消えても問題が無い。


『一年くらい旅に出たらいかがですか』


『漫画の仕事だけするとか』


 以前言われた。天上さんに。


 天上さんは小説の人なので、僕なんかいらないという遠回しの宣言だ。普通に天上さんには愛してやまない推し作家がいるので、普通に僕の枠が邪魔であるということだ。僕は天上さんと仕事がしたかった。


 天上さんは僕と仕事したくない。


 きちんと受け止めなきゃいけなかった。


 本当に最初の頃は褒めてくれたけど、今は普通に他作家さんをガンガン褒めるし、天上さんは誰かをよく褒めるけど、僕が褒めてと言えば「親に褒められたことないんですか?」なので、本当にガッツリ嫌われている。


 きちんと言動で察するべきだった。


 求められているのは静かに消え去ることだ。誰にも迷惑かけずに。少しでも抗うことは許されない。売り上げの為に宣伝するとかも邪魔になる。僕に求められているのは静かにそのまま消えること。それが一番僕に求められていることで、正しい天上さんの願いだ。


 読者の願いでもあると思う。


 ちゃんと現実を見る。僕が頑張ることは皆の邪魔だ。だから僕はきちんと去る。僕が未来を見ることは他人の迷惑になる。


 何もしない。


 天上さんに言われたことがある。


『人に期待しない』


 期待なんかしたことない。だって助けなんかこないから。最後は必ずみんな離れていくから。相談にのった相手は僕が落ち込んでいると離れていく。


 誰もいない。ちゃんと、誰もいない。


 人の役に立つことがしたかったし、誰かの為に尽くすことは苦じゃなかった。必要とされたくての親切じゃなくて、そうしなきゃ生きていることを許されないから。


 自己犠牲的な行動を取るから善人と間違えられるけど、明日を見てないからだ。見たくない。自分のことなんて。誰にも好かれない、必要とされない自分がなんで未来のことなんて考えなきゃいけないんだろう。惨め以外にない。僕は僕が一番必要ないんだから。


「うそでも一回くらい、一緒に仕事出来て嬉しかったですって言ってくれたっていいじゃん」


 そう思いながら、僕はメールフォルダを閉じた。どうしていいか分からない。最後の仕事だから最後のぶんだけ頑張るくらいはいいのか、何も分からない。今一番何がしたいですかと聞かれたら誰の迷惑にもならない存在になりたい、とか、必要とされたい、とかになる。


 ファンがいるでしょ、と天上さんは言うだろう。天上さんみたいに推し作家の代替扱いするファンしかいないんじゃないですか、としか言い返しようがない。


 だって、ああ僕のこういうのが書きたかったんだを言語化してくれたのが天上さんで、僕しかない個性があるかもしれないと信じさせてくれたのが天上さんだった。


 その前提が覆った。担当編集が「他の作家とやりたいな」と思ってるような話を誰が好きになるんだろう。いや違う。天上さんを責めたいわけじゃない。


 目の前の人ひとり、その心を惹きつけられない物語に何の価値があるというのか。


 ロジックだけで見れば僕の存在は無価値だし。そしてこういう考えが、天上さんが殺せばいいと思っている自我なので、早く感情がなくなりたいなと思う。


 というか、自我じゃなくて消えろと思われてたのでは。


 自分がただ上手くやってるとか、少なからず何かしら、仕事相手として最低限の情くらいはあると僕が勝手に幻覚を見ていただけで。


 怖いなと思った。だって探偵として相手にしてるストーカーと変わらない。


「これがヤンデレかぁ」


 怖いなと思った。同時に、終わらせる必要があるとも。誰にも迷惑をかけないように。きちんと皆の幸せを祈れるように。僕は闇に落ちない。きちんと清く、終わりを告げる。


「最後に天上さんに褒めてもらいたかったな」


 切実に思う。同時に、天上さんが、どうしてもやりたいと思っている推し作家さんとの仕事に繋がればいいとも思う。僕はそれが願える。


 僕はずっと、天上さんに『こういうの書いてほしい』とオーダーされるのを待っていた。


 でも、初めて天上さんが『こういうのしたらどうですか』と言ったのは、ジャンルでもなく人の名前が含まれていた。


 僕の負けは、たぶん、最初から決まっていた。やる前から。でも僕に才能があればその負けを覆すことが出来ただろうけど、駄目だ。


 この人と一緒に頑張りたいと思わせることが出来なかった僕の負け。


 これからそれを覆す‼ と意気込めたら良かったけど、それは天上さんが望んでないし迷惑になる。才能のない人間の頑張りほど醜いものはない。縋りつくことほど不快なものはない。


 敗北者はきちんと去る。


 きちんと、自我を殺す。


 ちゃんと、人に尽くして消える。


 ハッピーエンドが欲しかったけど、きちんと諦める。幸せは来ない。未来はない。誰も助けてくれない。作家は一人。みんな、孤独。


 僕は感謝のメールを天上さんに送った。


『きちんと受け止めます』


そう、文末に沿えて。

 

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