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螺旋織々

 \最新情報をお届け/


【悪役令嬢ですが攻略対象の様子が異常すぎる公式ツイッター】


10月2日 オーディオブック①巻 ボイスドラマCD コミックス⑤巻 紅茶缶


           〜情報公開中〜


      https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

 タオルが口元にないと寝れない。


 私の小さいころを記録したアルバムには、口元にタオルをのせた私がたくさんいる。


 身長が伸び成長するにつれタオルも買い替えられ、色合いは違うといえど傍らに在るのはいつだってタオルだった。


 小学校の修学旅行で「赤ちゃんじゃん!」「バブじゃん!」と死ぬほど笑われたその癖は、高校を卒業し、専門学生になった今でも、改善の見込みがない。


 だって、ぬいぐるみが手放せない人間の亜種、電気がついていないと寝れないの異音同義語であるはずのこの癖は、人にネタにされても迷惑をかけることは無い。


 人と一緒に寝ることなんて早々無いし、まぁ大丈夫だろう。


 そうして積もり積もった「明日から頑張る」は重量を帯び、さらに今年、初の彼氏が出来たことで一気にのしかかってきた。


 つまるところ私は人生で盛大な伏線を張り、彼氏との同棲が決まったことで見事回収するはめになってしまったのだ。


◇◇◇


「どうしよう。なんてカミングアウトすればいいと思う?」


 専門学校の授業の合間。紅葉で彩られた窓を横目に友達のトギちゃんへ声をかけると、彼女は「実波(みなみ)が起きてればいいだけじゃん」とカップのミルクティーを揺らした。


 カラカラと音を立てて乳白色を纏う氷を横目に、私は首を横に振る。


「駄目だよ。講義で寝ちゃうしさ、タオルからは逃げられないから、なんとか受け入れてもらえる方向でことを進めたいんだよ」


「圧やば。っていうかタオルが無いと寝れないって、なんか子供の頃に見たよ。ブランケットないと落ち着けない子が出るアニメ、なんだっけ。名前が住所の子がいるやつ」


 トギちゃんはスマホをタップしながら、該当キャラクターを出して私に見せてきた。


 私は食堂の券売機のボタンを押しつつ「その子と同じだよ」と頷く。


「そんな感じになるんだよ。寝れないの。前にその子、ブランケット無理やり引きはがされた回あったじゃん。あれみたいになる」


 そのキャラは、常にブランケットを持っている。そして先生か友達にブランケットの卒業をすすめられ、日常生活がままならなくなってしまうストーリーがあった。


 私も同じになる。


 タオルが口元にないのにベッドへ寝かせられれば最後、私は気が狂う。


「修学旅行とかどうしたの? 徹夜?」


 トギちゃんは飲み終わったミルクティーの氷を食べてから、カップに水気がないのを確認して捨てた。大雑把な雰囲気はあれどこういうところが好きだと思いつつ、私は視線を落とした。


「かけた。あと皆にはトギちゃんと同じこと言われた」


「あははは! だよね。絶対こいつだってなるもん」


 トギちゃんは大げさに笑って、券売機を連打した。


 せっかちなトギちゃんは食券が機械から排出されるまでボタンを押す。


 彼女はエレベーターでも、自分が入って周りに人がいなければ閉まるボタンを連打するし、逆に人が入ってこようとするときは、開くボタンは信用できないと手で扉を押さえるタイプだった。


 かといって、恋愛においては猪突猛進型というわけでもない。相手をじっくり観察し確実にものにしていくタイプで、彼女に恋愛相談を持ち掛ける人間は絶えない。


 かくいう私も、今の彼氏と付き合うまで、よく相談にのってもらっていた。


「あ、噂をすれば、実波の彼氏じゃん」


 視線を向ければ、欠伸をしながら気怠そうに歩くマッシュヘアの彼──濱永優吏(はまながゆうじ)くんが視界にうつる。


 柄物のシャツに細身のスキニーは、より腰の細さを強調していた。リップなんて塗ってないはずなのに唇は赤くて、睫毛も恐ろしく長い。彼は出掛けるたびにスカウトされるなんて彼の友達が言っていたけど、納得だ。


 優吏くんを映すだけで、動画の再生数の桁が変わるとも聞く。実際見た動画には、かっこいい! と沢山のいいねやコメントがついていた。


「そういえばこの間さ、タオルかなんかの案件受けたらしいよ。馬淵が言ってた」


「え……」


「知らなかったの?」


 トギちゃんは私をまじまじと見た。そんなこと聞いてない。でも聞いてたら自分のタオルの使い方を思い出して挙動不審になってただろうし、良かったのかもしれない。


「でもなんか、濱永なら大丈夫そうじゃない?」


 トギちゃんは食券の端をいじりながら歩く。


「なんかあいつ、淡泊そうじゃん。タオルの案件受けたこと言わなかったとかさ、バブタオルのこと言っても、で? とかで終わりそう」


「たしかに……」


 優吏くんは、かなりクールだ。興味ないことはとことん興味なさそうだし、雰囲気も大人びている。それこそ赤ちゃんだった頃があるなんて信じられないくらいだ。ある日突然そこに現れた感じがする。


「言わなきゃ……だよね……」


「お前午後、実習じゃないよな?」


 そう肩を引かれ、振り返る前にラベンダーとユーカリの混ざった香りがしてハッとする。振り返れば後ろに優吏くんが立っていた。慌てて何度も頷くと、「おけ」と、笑う。


「じゃあ夜、お前の部屋行っていい? 同棲の荷物整理も手伝う」


「ありがとう……」


 お礼を言うと優吏くんは私の頬をきゅっとつまんだ後、男子たちのほうへ向かっていく。付き合って三か月。いまだに緊張するし、どう接していいかわからない。付き合えたのが、今でも信じられない。


「バブタオル告白のチャンス来たじゃん」


 いまだ心臓が激しく収縮する私を、トギちゃんが肘でつついてくる。


 私はなかなか決心がつかないまま、あいまいな返事をしていた。


◇◇◇


 講義がいくつか重なっていることをきっかけに、私と優吏くんは関わることになった。


 第一声は、「よく見かけるね」だった。


 中学生の頃は全然ファッションとかメイクとかを知らなくて、高校入学前に可愛くなりたい! と高校デビューを果たした私は、あんまりコミュ力に自信がない。


 お洒落にするのも可愛くなりたいと頑張ることは好きだけど、お洒落な集団には近づけない。自分と似た感じの子には自分から積極的に話しかけられるけど、そうじゃない人には無理だった。


 だから突然、それもバチバチにお洒落な男の子にそんな風に言われて反射的に吐きそうになった。けれど優吏くんは顔色が一瞬にして悪くなった私を開放してくれた。


 優吏くんは私を大学生活になじめず、常に精神的に限界を迎えている人だと勘違いしていたらしい。会えば声をかけてくれて、話をするようになった。


 実際は優吏くんが私に声をかけることで、胃が暴れるから悪循環な面もあったけど……。


 そうして一緒に話すようになって、好きだなぁと思うことが増えて、夏の終わりに告白してOKをもらえた。


「どーした?」


 つん、と頬をつついてくる優吏くんを見て、心臓がきゅっとする。


 やっぱり、一緒にいられることが信じられない。


 好きな人が、私の部屋にいる。こんなことが私の人生のイベントとしてあるなんて。


 段ボールに普段使いしない洋服や、小物、映画のブルーレイなどをしまいながら、私は参考書を縛っている優吏くんを見た。


「えっと……付き合うってこんな感じなんだなと思って……」


 そう言いながら、私は引き出しの奥に眠っていた男女共用可能なヘアワックスを見つめる。未開封品だけど、たぶん高校のときに買ったやつだから捨ててしまおう。


「……高校時代とか彼氏いなかったわけ?」


 優吏くんの問いかけに私は「もちろん」と返事をする。


 小学校、中学校、高校と好きな男子はいなかった。特に高校はお洒落になりたい垢抜けたい一心で、むしろそこしか興味がなかった。友達にヘアアレンジを頼まれて、髪を触らせてもらうほうが楽しかった。


「仲いい男子とかいなかったわけ? 気になったやつは?」


「いないなぁ……」


「髪切ってやってたとか聞いたけど。お前がいつも話してる女から」


 いつも話をしてる女。トギちゃんのことだろう。そして髪切ったというのは、クラスメイトのことかもしれない。


「ああ、他のクラスに前髪が長い子がいてね。勿体ないと思ったから、前髪切らせて、アレンジさせてもらったんだ」


 メイクやコスメを覚え、今まで話が出来なかった子とも話せるようになった私は調子に乗っていたのだ。変わる前の自分と似た子を見つけて、メイクさせてもらったりヘアアレンジさせてもらっていた。でも、いろんな女の子と仲良くできた一方で、グループ同士の軋轢や、不和に気付けなかった。


 結果、私は色んなグループの子にいい顔をする調子のいい奴とされ、しばらくの間どこのグループにも入れず、一人でいた。


「ずっと髪切ってやってたの?」


 優吏くんは、目を細める。


「ううん。その子は一回だけ。その子すごいモテモテになっちゃって、話しかけづらくなってそのままって感じかな」


「好きだったの? その男」


 冷ややかな声に、私はすぐ首を横に振った。


「違うよ……そういえば優吏くんは高校時代、どんな感じだった?」


 いやな気持ちにさせてしまったのだろうと切り上げようとするけれど、優吏くんは「普通。で、その男今何してんの」とすぐに訊ねてきた。


「わからない……実は名前も知らないんだよね。髪切って、アレンジして、その後すぐチア部の子と合流して」


「へぇ」


 優吏くんは不機嫌そうに私から視線をそらした。なかなかタオルを口につけるとは言いだしづらくて、私はその日、カミングアウトをすることが出来なかった。


◇◇◇


「バブタオルのこと言えなかったよ……」


 翌日、私は大学の廊下を歩きながらトギちゃんに昨日のことを報告していた。彼女は飲み終わったペットボトルのラベルを一生懸命はがそうとしている。切り取り線がついてないもので、私はカッターを貸した。


「ありがと。チャレンジはした?」


「その前に、ちょっと不適切な発言をしてしまい……」


「バブタオルの話するだけで不適切な発言ってなに?」


 私はトギちゃんへ昨日の事情を説明しつつ、遠くのほうで男子と集まっている優吏くんへ視線を向ける。


 昨日はあれから、何となく気まずいまま解散になった。また来るとは言ってくれたけど、すごく後ろめたい。


「それさ、もしかしてだけどバブタオルカミングアウトしようとしてる雰囲気を感じ取ってるんじゃない? あっち」


 ペットボトルのラベルをとうとうはがし終えたトギちゃんが、顎に手をあてながら優吏くんを指した。


「なんか隠し事してるっぽいところにさ、男の話が出たわけじゃん。浮気かなってならない? 普通同級生の前髪切ってあげたところでキレるとかないでしょ。髪切りフリースタイルしてたんだ~程度で」


「そうかな……?」


「早いうち言ったほうがいいんじゃない? 彼女がタオルなしで寝れないの受け入れられないって、相当心狭いってことだしさ。無音じゃん? 隠し事するよりマシだって」


 無音……確かに無音だ。音はしないと思う。いびきも寝相も悪くないし、歯ぎしりもしないけど、タオルを顔にかけてるって修学旅行で散々言われてきたし……。


「パパとママ、一回だけ寝相と隠し事のコンボで大揉めしたことあるしね」


「え」


 トギちゃんは長い話をするからと、廊下の端に寄る。私もそれにならって壁に沿い立ち止まれば、彼女は話を始めた。


「ママさ、寝相でパパをベッドからけり落したの。元々パパ変なところあるんだけど、俺なんかいらないって心が出てるんじゃないの? とかママに言い出して」


 トギちゃんのお父さんは美容室のオーナーをしていて、テレビや雑誌で見かけることもある。お洒落で爽やかな笑顔が印象的な、いかにも「明るい気さくな人」だから、そんな発言をするなんて想像できない。


「パパさぁ、若い頃死ぬほどママに浮気されてたとか言ってて、絶対誤解だと思うんだけど、ママすごいどうでもいいことでもすぐパパに隠そうとするの。BL? なんかおじさん同士の恋愛みたいな、オタクっぽい小説とかドラマのボックス買ったこととか、異常にコソコソしてさ。浮気してるんじゃないかってパパに疑われるのしょっちゅうなんだよね。実波顔に出やすいから、隠し事してるのめちゃくちゃ分かるし。浮気とかと誤解されたら余計言いづらくない? 私の隠し事はバブですって言っときなよ。浮気とバブタオルだったらバブタオルのが兆倍マシでしょ」


「たしかに……」


 あの時の優吏くんの不機嫌な様子は、私が隠し事をしていたと思っていたからか……。


 そう考えると、昨日のうちに話をしておけばよかったと後悔が浮かぶ。


「あっ、そういえば私トギちゃんに高校のこと話してたっけ」


「修学旅行もバブタオル使ってた話?」


 私の質問に、トギちゃんは怪訝な顔をした。私が髪を切ったことや高校デビューについては、あまり人に言わないようにしている。


 トギちゃんにもいつか話ができたらと思っていたけど、話をした覚えはなかった。


「違う、ヘアアレンジとか、カットとか。それこそ前髪切ったこととか」


「髪切りフリースタイルの話は今日が初だよ」


 トギちゃんは私の高校時代について知らないらしい。嘘をつくような子じゃない。でもトギちゃん以外に、よく話すのはこの子! という子もいない。


 あとは会えば挨拶するとか、講義が一緒なら話すとか、そういう付き合いだ。


 私は不思議に思いつつ、早めに優吏くんに話をしようと彼のアカウントへメッセージを送ったのだった。


◇◇◇


「同棲にあたって、秘密とかはなしにしておきたいなって思うんだ。その、この間の高校のこととか、色々話をしていなかったこともあって」


 そうして、優吏くんと会うことになった晩のこと。私は彼の部屋で早速秘密を暴露することにした。ただ、やっぱり幻滅されたらどうしようという不安もあって、卑怯な手を使うことにした。


「じゃんけんで負けたほうが、お互いに隠してたことを言っていくってことで……」


 浮気と誤解されたくない。


 でも勇気が出ない。


 今まで「タオルさえあればいい」と思っていたし、お洒落とかメイクとかコスメとか、自分磨きにしか興味なかった。男の為にメイクしてるんでしょみたいな考えを見るたび嫌な気持ちになっていた。


 でも好きな人が出来て、好きな人によく見られたいという気持ちを知った。私は優吏くんに、できればよく見られたい。


 隠し通せそうだったら、隠している。ありのまま受け入れてほしい気持だってあるけど、秘密ありきでよく思われるならよく思われるほうに吸い寄せられる。でも浮気してると誤解されてるのも厳しい。だから、カミングアウトする流れが欲しかった。


「じゃーんけーん……ぽん!」


 私は心を込めて、パーを出した。負けたい。負けて告白する。こんなに祈りをこめて気持ちを込めてじゃんけんをしたのは、小学校の頃の給食のあげぱん以来だ。あの時は勝ちたかったけど、今は負けたい。ドキドキしながら優吏くんの出した手を見ると、グーだった。


 彼は結果を見てすぐ溜息を吐いて私を真っ直ぐ見つめた。


「お前にGPSつけてる。じゃあ次、じゃーんけー……」


「付け……? え? じーぴっ、GPS、え?」


 彼の告白が、理解できなかった。なんとか状況把握に努めようと、私は家で飼っている犬のベルべロスを思い浮かべる。


 弟が犬の名前はケルベロスがいいと提案し、おばあちゃんがそんな名前怖いから嫌だと却下した結果命名されたトイプードルのベルべロスは、子供とお年寄りを憎み、その姿を見つけると必ず追いかけ吠えてしまう癖の強い犬だ。被害者は主に私と弟とおばあちゃんで、言ってしまえばか弱き者にめちゃくちゃ当たりが強い。


 遊びに行こうとする子供の姿を見つければ、飛びかからんばかりに追いかけてしまう。


 おばあちゃんと決闘したことでその悪癖は鳴りを潜めているけれど、最初のほうは網戸を突き破ったりしていて、脱走した時のために首輪にGPSをつけていた。


「ど、どこに?」


「じゃんけんで勝たなきゃ質問はなしだろ、じゃーんけーん……ぽん」


 優吏くんはさっさとじゃんけんを開始する。私がチョキを出した。彼くんの手は開いていて、私が勝ったのだと察する。


 そういえば、優吏くん、バーベキューとかで買い出し役を決めるとき、いつも負けていたような……。


「ここ」


 彼は少し不機嫌な調子で、私のスマホを指した。


「スマホリング? 何故?」


「手の甲とかにチップ入れるほうが良かったとか?」


 そして彼は「結構痛いらしいけど」と自分のそばにあったバッグに手を伸ばした。私は大丈夫だと首を横に振る。


 というか、今そのバッグには、チップが……?


「どうして、そんなことを……」


「じゃんけん」


 優吏くんはとうとう不機嫌さを隠さず、じゃんけんの催促をしてきた。慌ててじゃんけんをすると、私はグー、彼は連続のパーを出したことで勝利した。


「っしゃ」


 優吏くんは、自分の勝利にほっとした様子で息を吐いた。心なしか手が震えている。どうしよう、バブタオルについて話をするより、位置情報を知られている理由が聞けなかったことが痛い。最早私の興味関心の比重は、バブタオルが軽くなってしまっている。


「お前の秘密は」


「えっと、た、タオルケットが口元にないと、眠れなくて……」


「は? それ知ってるやつなんだけど」


 優吏くんは怪訝な顔で私を見た。自分のスマホを操作して、私が中学の頃の修学旅行の写真を表示させてきた。


「なんでそんな画像を……?」


「ツイッターにあるお前の母校の中学校のアカウントから、お前と同い年の女調べて、インスタでお前のふりして話しかけて修学旅行の写真貰った」


「え……」


 あまりの凄惨な犯行に、絶望的な気持ちになった。愕然としていると、彼は目を細め疑いの目を向けてくる。


「っていうかお前、もしかしてそれ以外に隠し事ない?」


「ない……」


「まじか。タオルとか普通に知ってたわそれ。勝った意味ないわ」


 タオル、受け入れられている……? おそるおそるタオルは大丈夫か問いかければ、彼は眉をひそめた。


「っていうかお前のタオル持ってるけど、同じ種類の」


 優吏くんは「損した」と呟きながら、私の手を取り箪笥の前に立たせた。そこには私の持っているタオルの、それも新しいタイプがずらりと並んでいて、目を疑った。


「なんで?」


「買った。生産終了してたじゃんこれ、でも駄目元で工場に電話して事情話したら余りくれたんだよ。普通に申し訳ないし、実波が世話になったタオルケットの工場だし、頑張ってほしいから金払ってきた」


 優吏くんは一枚タオルを手に取ると、「こうしないと寝れないんだろ」と、修学旅行の写真に写った私の真似をする。かと思えば、箪笥の上の小物入れから何かを取り出した。


「あ、これもやるよ」


「……工場の見学シール?」


 渡されたのは工場のシールだった。後鳥製糸工場とポップ体でデザインされたシールの隣には、真四角のキャラクターが描かれている。


「そう。タオル受け取るとき、どうせならって工場まで行った。そしたら小学生相手に見せたりしてるってくれてさ。社会科見学とか、いま煩いって苦情来るからって美術館とか博物館行き辛いらしい。だから子供用にシール配ってるんだって、タオル君シール」


「タオル君シール」


 優吏くんは「安直だよな」なんて付け足しながら彼は平然としているけれど、私の知らない間にタオルがストックされて、彼氏がタオル工場の見学まで行って、売り上げに貢献していたことに驚いて何も言葉が出ない。


「あと顔めっちゃ褒められて、タオルのCM動画? その場のノリでPR出ることになった」


「それって、タオルの案件ってやつ……?」


「知ってたんだ」


 優吏くんは、気怠そうに眼をこすっている。そして、「ならやっぱ、俺にしかデメリットない大損じゃんけんじゃん」と頭をかく。


「つうかタオルとか、そんなの一番どうでもいいわ。寝てる間タオルなかったらかけなきゃいけないくらい思ってたし」


「そっか……なんかもう、受け入れられなかったらどうしようとか、幻滅されたらどうしようって思ってて……良かった」


 私は安心して、ほっと胸をなでおろした。なんだか生きてる感じがする。優吏くんはそんな私を見て肩を叩いた。


「でもまぁ、悩んでもらえてたのはありがたいかも、俺、今までずっとお前が俺に告白したら、お前なんかどうでもいいって手酷く振る気だったから」


 聞こえてきた平坦な声に、耳を疑った。おそるおそる彼の顔を見るとその目は真っ暗で、冗談なんかじゃなく本気の発言であると本能的にわかるものだった。




◆◆◆






 高2の夏、前髪を切られた。女の子に


 隣のクラスに、ヘアアレンジが得意な子がいるというのは前から聞いていた。


 その子にヘアアレンジをしてもらって告白すると恋が叶う、なんて噂で女子は盛り上がり、その子に髪を結ってもらって好きな先輩の部活に応援に行ったりと、とにかく楽しそうにしていた。


 一方、異性の噂話に詳しくなれるほど、俺は教室で空気だった。


 小学校は、別に面白い話が出来ずとも足が速いボールを速く投げられるだけで重宝がられる。ドッジボールやドロケイのチーム分けで最後の一人になることなんてあり得なかったし、班分けもそこそこいいグループに入れた。


 でも、中学校で一気に流れが変わった。


 運動能力が優れていても、体育祭くらいしか役に立たない。部活に入れば別だろうけど、初手に帰宅部を選択してしまった。


 足や投げたボールの速度がどれだけ早かろうと、会話で面白いことを言ったり、優れた容姿じゃなければ意味がない。


 さらにクラスにはいわゆる「いじめっこ」という人種がいて、代わる代わる気に入らないやつをターゲットにしては、いじめていた。


 そんな環境の中、出来ることはただ一つ。目立たぬように過ごすことだ。


 しかし努力の甲斐も空しく、俺は中学一年生の秋から冬にかけていじめられた。


 だから俺は、高校でなるべく目をつけられないよう暮らした。


 同じクラスの奴らはいじめをするような人種じゃなかった。


 一軍の陽キャは当然いたけど、サッカーとか野球の話とか、ダンスとか、いかにも陽キャっぽいノリでそれっぽいことを話す程度だった。三軍に対しては、無視まではしないものの興味がない。けれど自分はいついじめられるんだろうとヒヤヒヤしていて、、必要以上に周囲に注意を払っていた。


 少しダサいと思われようとも、目立つことはしたくない。


 身なりに気を遣ってイタイと思われ、揚げ足を取られてネタにされたくない。


 前髪はいつも長めにしていたし、顔もなるべく上げないようにしていた。会話ができないんじゃなくてしないのだと主張するように、いつだって顔は伏せていた。


 友達がいないんじゃなくて、読書が好きだと伝えるために、たまに本を読んでいた。


 そうして、休み時間を過ごしていたある日、俺の前に明るい髪の美少女が現れた。


「あの、ヘアアレンジに興味ないかな」


「え……」


「今ビフォーアフターの動画撮ってて……これなんですけど、良ければ前髪触らせてもらえないかなって」


 彼女は俺にスマホを渡してきた。


 中身を確認すると、ダサい、地味っぽい人がヘアアレンジをしたり、化粧で明るく変わるものだった。動画に入っている声的に、人を変えているのは今俺の目の前にいる彼女らしい。


「体育で一緒で、私隣のクラスの纏場って言うんだけど、絶対、前髪短いほうが似合うと思ってて、動画出てもらえないかなって」


「いや……」


「お願い! 絶対もっとかっこよくするから!」


 彼女はぎゅっと目を閉じて、頭を下げてくる。何か罰ゲームでもさせられているのかと悩みながら、断って明日からいじめられるのも嫌だとしぶしぶ頷いた。


「少しだけなら……でも、動画はちょっと待ってほしい……い、一回アレンジして、それでも動画出していいと思ったらにしてほしい」


 これだと動画にちょっと乗り気な感じが出てしまいそうだったけど、ぎりぎり彼女の機嫌を損ねず済むのではないか。


 おそるおそる譲歩の姿勢を見せれば、彼女は嬉しそうに笑った。


「ありがとう! ずっとヘアアレンジさせてもらえたらって思ってて……」


「そっか……」


 彼女は俺の前に立つと、早速ビニールの袋と櫛を取り出した。さらさらと目の前の彼女が俺の髪をとかす度、せっけんや花の混ざった優しい香りがする。


 いかにも女子って感じがして、こんなところを見られたらクラスの奴に何か言われたりしないかとか、明日から付き合ってると言われたらどうしようとか、不安よりも夢をみるような想像が勝って、妙にドキドキした。


 明日から、何かが変わっていくような気がする。


 これから先、小説の世界みたいに彼女と少し話をする関係になるような、そんな期待が胸を占める。


 やがてシャキシャキと無機質が音が響き始めた。前髪を切ることは了承したといえど、どれくらい切られるのだろうか。


 最悪の想像をするわりに、目の前でぱらぱら散る毛は少ない。彼女はいつの間にか鋏を手放しワックスを手になじませていた。


「ヘアワックスとか、ベタベタしないタイプのとか付けたほうがもっといいと思うんだよね」


「え」


「持ってる?」


「も、持ってない、です」


「じゃあ明日──あっ完成したよ」


 彼女はそう言って、俺の髪を弄ると鏡を差し出してきた。そこに映った俺はまるで一軍の真ん中にいるみたいで、今まで生きてきた俺とは別人みたいだった。


「やっぱり! 絶対こういう髪型のほうが似合うと思ったんだよね」


 目の前の美少女は、にこりと音が聞こえてきそうなほど明るく笑う。異性とこんなに話をしたのもドキドキするし、なにか約束をするのも初めてだ。これからどうしたらいいんだろう。名前を、名乗ろう。お礼を言わないと。頭の中がぐるぐるしながら、なんとか声を絞ろうとした──その時だった。


「え! 実波じゃん! アレンジしてよ! っていうかその人誰!?」


 教室に、俺のクラスの一軍と、チアリーディング部の女子たちが入ってきた。一年生や三年生、見知らぬ女子生徒がわらわらとやってきて、あっと言う間に俺らを囲んだ。俺はあれこれアドレスとか番号とか、アカウントを聞かれたりして、彼女は先輩に呼ばれ去って行ってしまった。


 俺は一軍の女子たちやチア部の女子と一緒に帰ることになり、生きた心地がしなかったけれど、心の中に彼女の姿があったから、なんとか切り抜けることができた。


 じゃあ明日と言っていた。もしかしたら明日、なにかあるのかもしれない。


 彼女が会いに来てくれるのかも。もしかして、ワックスの使い方を教えてくれたりするのかも。


 そう、勝手抱いた俺の期待は、あっという間に打ち砕かれた。翌日彼女が会いに来ることはなかった。変わりとでも言うように俺は一軍入りして、クラスの隅で見ていた輪の中心に立つようになった。皆が俺をかっこいいと言って、褒める。


 一軍が三軍を褒めたり馬鹿にして持ち上げるタイプのパターンかと思ったけれど、後輩から告白されるようになって、自分を取り巻く環境が変質したことを理解した。


 一方で、彼女は変わらない。あの日俺に触れていたのは幻影だったのかもしれないと思うほど、一切の接触がなかった。俺から声をかけようと何度も思ったけれど、一軍という立ち位置は結構自由がないものだった。あんなに好き勝手生きてると思っていたのに、ほかの教室へ行こうとすれば誰かがついてくるし、廊下を歩いていれば誰かが隣に並んでくる。


 一軍も一緒に連れて行ってしまおうか、勇気も出ないし。そう思ったけれど、学内のカップルはもれなくひやかされる運命を辿っていた。注目もされたくなくて、試行錯誤しているうちに三か月が経過した。


「あの時、髪を切ってもらったけど、覚えている?」


「久しぶり、髪を切ってもらったおかげで毎日楽しいよ」


「はじめまして。怪しいものじゃないけど」


 声をかける言葉が、思い浮かばない。


 彼女は動画を作っている。期間が開いてしまった分、声をかけづらいけれどネットならどうだろう。たまたま動画を見つけたていで声をかけるなら自然かもしれない。


 俺は彼女がヘアアレンジ動画をアップしているサイトを開いた。


 そして、そこにある何十個ものヘアアレンジ動画で思い知ったのだ。


 彼女が「前からしたい」「絶対似合う」と思ってヘアアレンジをしていた人間が、何十人といることに。


 彼女にとって俺は視界に入った、ただ一人ではない。


 視界に入った、ただの一人なのだ。


 ネットで俺が彼女に声をかけてどうなるかなんて、想像にたやすい。


「ありがとう! またアレンジさせてください!」


 と笑った顔文字と誰にでも送られるハートマークで流されるだけ。だって皆そうされていた。


 彼女の世界に、俺なんて微塵も存在していなかったことに、酷く悔しい気持ちになった。


 俺のことを、見てたって言ったのに。明日〜とか、言ってたのに。


 確かに、こっちが勝手に好きになっただけだ。でも、こんな色んな人間に節操なく声かけなくたっていいじゃん。


 絶対もっとかっこよくなるとか、言わなくても良かったじゃん。


 明日〜とか言わなくても、いいじゃん。こっちのことなんてどうでもいいんだから。


 ずっとヘアアレンジさせてもらえたらって思ってたって、言ってたじゃん。


 そっちのずっとって、こんな軽いわけ。


 いいことをしてもらったのに、勝手に見返してやると決意した。


 彼女が「もっとかっこよくなる」と言って変えた今の俺より、ずっとかっこよくなって、彼女が俺を好きになるようにする。


 付き合って別れるなんて、そこまで酷いことはしない。


 周囲を巻き込む形になるだろうし。


 彼女の前に現れ、新しい俺が、彼女だけ特別に感じてると思わせて、そのままフェードアウトする。結局は誰に対しても平等で、彼女がただ一人なのではなく、俺の視界にうつった、ただの一人なのだと。


 それなのに。


「よく見かけるね。何のコース入ってんの」


 春、都内の同じ専門学校に入学した彼女は、俺を覚えていなかった。


 俺の名前も苗字も知らなかった。当たり前のように俺を他人と認識していて、そしらぬ他人に声をかけられたことにひたすらびっくりしていた。


「えっと……」


 実波は顔を青くした。声をかけるまでは加害したい気持ちで占められていたのに、同情が滲む。


「別に責めてるわけじゃないから、世間話。落ち着けって」


「すみません……みんなお洒落で緊張してて……」


「お前もお洒落じゃん。スカート、流行りのやつでしょ? 髪型ともよく似合ってる」


 ファッション用語も、同い年の一軍がどんな話に食いつくのかも、全部頭に入ってる。


 でも、彼女の前だと話題のストックが勝手に消えていく。俺はどうしたものかと考えて、彼女の腕を掴んで廊下に連れ出した。


「ほら、深呼吸しろって。何もみんな同じ美容系なんだから、敵とかじゃないじゃん。ライバルにはなるだろうけど、つうか友達出来るか不安とか、皆思ってるもんだって」


「で、でももう大分グループが出来てて……」


「そんなん取りあえず群れとかなきゃ怖いからってだけだろ。それにほら、今みたいに話が出来てればいじめられるとかないし、クラス見た感じ、そんな奴もいないから」


 彼女を安心させる為じゃなく、実際クラスに変な奴もいなかった。


 高校と違い妙におどおどしている彼女は、おそるおそる教室の中を見ている。


「ほら……あそこのグループとか話してみれば? 男子の中に今ちょうど女子一人だけだし、そこにいるの確か有名な美容師の娘だから、専門来て誰かいじめに来たって訳でもないだろ。ちゃんと将来のこと考えて勉強しに来てる奴らだって。ほら、俺も行くから」


 促すと、彼女は「ありがとう」と恐る恐る教室へと戻ろうとする。真っ青になっていた彼女の顔色が良くなったのを見て安堵を感じてしまったことに、俺はただただ戸惑った。


 親切をしてしまった。


 復讐するはずだったのに。


 でも俺は、復讐をするために専門まで追ってきた。好きにさせなきゃいけないわけだし、俺はちゃんとやるべきことをしている。


 そうだ。


 こうして優しくし続けて、告白されたら──、


「ごめん、そんな風に見たことない。普通に皆と一緒の専門の仲間としか見れない」


 そう言う。実波は、ただ一人じゃない。ただの一人だと。


 なのに。


 まだ、専門での生活が始まってもいない。それなのにちょっと話をしただけで苦しいほどに胸が痛くて、早々に俺は自分の中の揺らぎを感じていた。




◇◇◇




「でもまぁ、悩んでもらえてたのはありがたいかも、俺、今までずっとお前が俺に告白したら、どうでもいいって手酷く振る気だったから」


 そんな言葉から、中学時代から専門学校で私に話しかけるまでを語った優吏くんは、すっきりした顔をこちらに向けた。


「だから、お前の家でワックス見つけたときは、すげえびっくりした」


「うん」


 優吏くんの言葉で、あのワックスについて思い出した。あれは、私が前髪を切った彼に渡すものだった。けれど囲まれている彼に渡しづらく、結局渡さないまま私は忘れてしまった。


「えっと……優吏くんは私に復讐をしに……専門を受験した……の?」


 私はおそるおそる彼に問いかける。


「最初は。だからお前に告白された時は悩んだ。でも、断れなかった。好きだと思った。だんだん復讐の為に近づいてるのか、自分でもよく分からなくなってた矢先に告白されて、率直にうれしいと思った自分に戸惑った」


 優吏くんは、私に復讐しようとしていたのか。


 だから、位置情報とか、なりすましとか、タオル購入とかをしていたのか。ぞっとすると同時に、どうしてそんなストーカー行為に及んでいるのかさっぱり分からなかったから、納得もしてしまった。


「でも今は、ちゃんと将来のことを考えてる。だから同棲したいって言ったし、話すきっかけは実波に貰っちゃったけど、俺のやってること言おうと思って」


「……そっか……」


「俺のこと、嫌いになった?」


 優吏くんは、苦しそうに問いかけてくる。まだ今いち気持ちの整理はついていないけど、でも助けてくれたのも、優しくしてくれたのも本当だし、正直今まで復讐されてると気付かなかったのもあって、拒絶する気は起きなかった。


「嫌いになってないよ。えっと、あの時話しかけられなくて、ごめん」


「謝んなくていい。俺が身勝手だった。話しかけてくれないなんてただの言い掛かりの癇癪だし、そう思うのに馬鹿みたいに時間かかってだけだし。むしろ、俺のほうがお前に悪いことし続けてるから。勝手に調べたりとか、色々。でも、本当に好きなんだ。実波が俺のこと好きって、悩んでるの知ってうれしくなったりするけど、優しくしたいし、甘えてもらいたいし、支えたい。それだけは、分かって欲しい……」


 優吏くんは、頭を下げた。私は彼の前に移動して、その頭を上げるよう促す。


「大丈夫だよ。あの、本当のこと話してくれてありがとう。こ、これからもよろしく……」


「本当にごめん。そんな風に受け入れられると思ってなかったから、嬉しい」


 優吏くんはぽろぽろ涙を流した。私はそんな彼の背中をあやすように撫で、そっと抱きしめたのだった。




◇◇◇




「タオル大丈夫だったよ」


 優吏くんの家でカミングアウトをした翌日のこと、私はトギちゃんに早速報告した。彼女は「良かったねぇ」とチョコレートをくれて、私はお礼を言って受け取った。


「なんて言われた? あっそとか、で? だから? とか? それともライナス?」


 まさか、知られていたとは言えない。あんまり反応なかったかもと誤魔化せば、彼女は納得した様子で頷いた。


「でもそれくらいがいいよね。秘密暴露してさ、気にしないよー! とか言われても絶対嘘じゃん。まじでどうでもいいことって反応できないし、やっぱ彼女がバブタオルしてても好きなら許せるよ。犯罪じゃないしさ」


 犯罪じゃない。その言葉に、頷けなかった。


 私のタオルは犯罪じゃない。でも、優吏くんのしていたことはがっつり犯罪だった。グレーとか、ちょっとアウトとかではない。全部アウト。真っ黒だった。沈黙した私にトギちゃんは「そういえば」と話を変える。


「タオル案件、話題になってるっぽいよ。これ次はもっと大きい企業の案件来るんじゃない?」


 そう言って、トギちゃんはスマホを操作して動画を開く。そういえばタオルの動画を見ていなかった。概要欄には、先月シールを配布し始めたことや、採れたての新鮮な動画ですと色々アピールポイントが記載されている。


 そこには、「彼女のプレゼントにも」なんて言葉を話す優吏くんが映っていて、私は気恥ずかしくなりながらスマホを見つめる。


「そういうの、よそで見てくんない」


 ぱっとスマホの動画が止められた。振り返れば優吏くんが顔をしかめて立っている。


「砥庭、あんま見せないようにしてるんだからやめてくんない」


「普通に見せればいいのに。俺が出てるよって。っていうか隠し事! やっぱ大丈夫だったでしょ。結局無害なバブタオルだったでしょ?」


 トギちゃんは呆れ顔で優吏くんに視線を向ける。状況が理解できずにいると、彼女は「ずっと私に聞いてきたんだよ」と、優吏くんを指した。


「実波が隠し事してないか、ほかに好きな人いないか聞いてって、金まで出してきてさ。実波はそんなことしないって言ってんのに。バブタオル勝手にばらすわけにいかないしさぁ……」


 トギちゃんは、私の秘密を守ってくれていたらしい。ありがたいと思うと同時に、迷惑をかけてしまったことが申し訳ない。そして優吏くんはやはり私が隠し事をしていると、かなり疑っていたのか……。


「本当に、これからは隠し事はなしにするから……迷惑かけてごめん」


「俺も、迷惑かけてごめん」


 私と優吏くんはトギちゃんに謝る。トギちゃんは「二人に牛丼おごってもらえたら二食浮く」なんて言い出して、三人で笑いあったのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 無事、御結婚されたんですね。そしてお子さんまで。 浮気された!はもう修正しようがない、過去の事実にされてるんですね。
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