旦那志望の正志くんと舎弟志望の果穂ちゃん
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【悪役令嬢ですが攻略対象の様子が異常すぎる公式ツイッター】
10月2日 オーディオブック①巻 ボイスドラマCD コミックス⑤巻 紅茶缶
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苦しい恋をしている。
なぜならば、俺の好いた女はいっとう可愛い女だった。名前は果穂、実りが生ずるなんて意味合いだろうと思うが、果穂の両親は俺の手で消してしまったから分からない。
小さい頃の写真も欲しかったが、とりあえず急いで果穂を攫ってきて俺の家の中に放り込んでしまったから、とってくるのを忘れた。
それに果穂の両親は娘を引き渡すことに抵抗していたから、写真が欲しいといったところで取り合わなかったに違いない。
果穂との出会いは、始めは捨て犬を見つけたような感覚だった。見ず知らずの人間に声をかけることは初めてで、自分から声をかけたというのに俺自身、人に声をかけたいと思う感情があったのか、と驚いたものだ。
俺は幼い頃より人の道に逸れ、簡単に言えば反社会の人間として生きることを定められていた。中学の頃は反抗心もあったが、自分の家に出入りする構成員やその家族を見てれば、俺がずっと半端者のガキでいるわけにはいかないのだと、使命感みたいなのも出てくる。
だから「高校は国で一番の底辺校で頭をとれ、大学は偏差値トップのところへ行け、それが文武両道だ」と訳のわからない父親の理論もそれが道ならば上等だと話にのったし、入学してすぐ頭になった。
かといって、いまいち守りたいものが見つからず、十五になったと同時に入れた背中の大蛇の重さも、よく分かっていなかった。でも果穂を見つけて、俺は変わった。
好きな女を守るために、強くなりたい。好きな女が笑える生き方がしたい。自分の強さを証明することだけだった喧嘩も、好きな女を守りたいという理由ができた。組織なんて食うに困らなければいいだろと思っていたが、日本一で在り続け、無駄な争いを産まないよう、俺は絶対的な強者でいようと誓った。
その反面、果穂に対して情けない、暗い感情も湧いてくる。素性を調べ上げ攫って、服を買い与え金を渡し寿司屋を呼びつけ食わせてやろうとすれば嫌がる果穂を見ていると、子供がぬいぐるみにするように、無性に抱きしめたくなる。
そしてどこにも出してやらず、誰の目にも触れないように閉じ込めてやりたい。
ひとまず俺の通う高校に入学させ、常に俺の横に置いているものの、高校の男女比は男が圧倒的に多い。
果穂を不躾に見られる度、鎖をつけて自分と繋いでしまいたいし、頭からひと思いに喰らってやりたいと思う。
スマホに目を向けていれば、いっそのことそれを水の中に落としてしまいたくなる。地下牢の中に入れて、外からじっと見つめて一日を終えたい。暗く狭い納戸の中、二人きりでずっとお互いのことだけを感じていられたら、どんなに幸せなことか。
そう、ありもしない堕落を求める一方で、理想を叶えてしまえば彼女が可哀想だし、どこかへ一緒に行きたいと思う。
こうして誰かの気持ちを汲んでやりたいと、心の底から願うこの想いこそ恋なのだろう。日々、果穂が俺に向ける笑顔を見る度に、そう確信している。
でも、
「正志様!」
恋人である果穂が、すぱん! と大きな音を立てて障子を開く。今日、果穂はわざわざ時間を作って欲しいと頼んできた。ひとつ年下である果穂は比較的慎ましいところがあり、自分に関することでは我儘を言わない。なるべく俺の手を煩わせないよう努めている。
そんなところもいじらしくて、抱きしめたくなる衝動に苛まれるのはままあることだ。
でも、
「私! キャバクラのバイトを受けておりまして、明日から出勤だったはずなのに不採用と言われてしまいまして! 訳を聞いたら正志様が絶対に雇うなとおっしゃったと聞きました! な、なぜそのようなことを!?」
「お前が俺と同じ未成年で高校生で十五歳だからだろ」
「え!?」
全く曇りなき瞳に、俺は何とも言えない気持ちになった。
果穂はいつでも全力投球で、真っ直ぐだ。誰だって俺を、しがない組織の跡取りとしか思わず県随一の不良高の頭として怯えて見るのに、果穂だけは遊園地に来た子供みたいな目で、俺を見る。
そんなところも好きで、可愛いと思う。けれど、先日果穂につけていた監視から、どうやら果穂がこっそり――それもよりによってキャバクラのバイトを受け、金を稼ごうとしていると聞いたときは頭が真っ白になった。
「お前、いくらでもバイトはあるだろう。何故よりによって酒が絡むキャバクラなんだよ。この間は勝手に外へ出たかと思えば添い寝屋に、コスプレ喫茶に、違法なバーに、何なんだお前は、死にたいのか」
「お金が沢山もらえると聞いたので! いっぱい、いっぱい正志様にお返ししたいんです」
「俺はお前が誰とも会わず、ただずっと閉じた部屋にいるほうが嬉しい」
「でも、私の身体は貧相ですし……」
「じゃあ肉食うか。焼き肉。牛一頭買ってやろうか」
「そんな……そ、それに私は顔も、顔もぱっとしないので!」
冷や汗をかく様子に、溜息が出そうになる。
「そのうち監禁するぞ。俺とずっと永遠にふたりきりにしてやっからな」
「えっ! ま、正志様とふたりきり……ですか……?」
立ち上がって目の前に立つと、果穂は「ひええ美丈夫ひええ……」と後ずさる。おとがいの一つでも掴んでやろうと思えば、俺の手をすり抜けずりずりと後ずさっていった。俺はきつく睨み、近付いていく。
「人に女を勧めておいて、何で俺と二人きりで喜んでるんだよ。お前の性癖でわざとお仕置きされるように言ってんのか?」
「いいえ正志様! それは違います! 私は正志様に尽くしたいのです! 一生をもってして!」
「なら嫁として尽くせ」
「いいえ! 正志様には! このような三下の、それもろくでなしの酒浸りとギャンブル狂いの女と男から産まれ、生ゴミを食べて育ち、挙句の果てには売られる予定だった私なんかと結婚するのではなく、ぜひとも正志様が世界を蹂躙する際に見合ったお相手と結ばれて頂きたいです!」
「いい加減、俺の好いた女を侮辱するな」
圧をかけるつもりで壁際に追い込み壁を叩くと、「えちえちだぁ……」と俺と俺の腕に視線を彷徨わせる。頬でもつねってやろうかと思ったものの、それだけでは足りないかと腕を掴んだ。
「ま、正志様!?」
「もういい。身体で分からせてやる」
「正志様が取り柄もない三下の女と繋がれてしまう……」
最近果穂は、「家にお金を入れたいです!」と、バイトを始めようとしたり、好き勝手動く。
欲しい物があるのかと言えばぶんぶん首を横に振り、服や宝石をやれば「私には勿体ないです!」と仰け反る。寿司や肉を食わせれば「一生の思い出にします……」と、「今度は○○が食べたい!」など、絶対に将来の話をしない。そのくせ、俺が嫌いか問えば、世界で一番好きだと言うのだ。
もう、そのうち精神を病むかもしれない。だからその前に、身体で覚えさせるしかない。俺が今どんなに果穂を、愛しているのかを。
そうしないと、本当に、病む。




