煌めきシザールーム
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【悪役令嬢ですが攻略対象の様子が異常すぎる公式ツイッター】
10月2日 オーディオブック①巻 ボイスドラマCD コミックス⑤巻 紅茶缶
〜情報公開中〜
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【あらすじ】
大学生、片吉蛍の秘密は腐女子であること。毎晩ボーイズラブのCDを聴き過ごしていると、ある時行きつけの美容師砥庭にそのCDについて問い詰められてしまい……。
※他サイト掲載あり
スマホで電子書籍を選びつつ、都会的な街並みに震えながら目的地へと足を進めていく。
駅前のビルに設置されたモニターには、新作の化粧品のCMが流れていた。周囲は「これよーすけ出る奴だよ!」「ちょっと待って見てよ」なんて足を止めるから、少し歩きづらい。
立ち止まる女の子たちを避けていると、うっかりスマホを誤タップしてえっちな商業本が出そうになり、私はあわててスマホの画面を消した。
私……片吉蛍は生粋の腐女子である。基本的に顔の良い男同士が仲良くしていれば他に何も望まない。それ以外に自己紹介をするならば、この間まで美容院が嫌いだった。
まず、話しかけられることが嫌だった。遺伝子レベルで腐女子の私は休日にイヤホンでBLCDを聴き今期一番のカップリングの脳内映像出力に全力を注いでる。
なんなら昨日もした。CDをかけ自分が部屋の外に出て扉を閉じれば、そこに「いる」というライフハックを聞いてから、一人暮らしということもあって毎晩している。
要するに私は大学で講義を受ける以外、基本脳内では男同士がまぐわう様子についてのみ思考回路が働いていて、言ってしまえば講義中も推しと押しの掛け算に忙しい。
さらに共通点がないと人とうまく話せないのも相まって、高校までは地元でもかなり気難しく「いらっしゃいませ」すら言わないおじいさんが営むところで髪を切っていた。
でも大学入学を機に上京をしたことで、新規に美容院を開拓しなければいけなくなった。
そうしてネットで調べて、おしゃれっぽくて都会の大学生に馬鹿にされず、なおかつ落ち着いた所を調べ続けて見つけたのがこの店だ。
私は大通りに立ち並び、硝子張りながらモノトーンで落ち着いた雰囲気を出すお店の前に立ち、何があってもBLが出ないよう確認してからお店の扉へ手を伸ばす。
「あっ、蛍さんいらっしゃいませ!」
お店に入ってすぐ、ぱたぱたとこちらに駆け寄ってくるのは私の担当の砥庭末智さん……砥庭さんだ。
彼は、もういかにも分かりやすいパリピだ。おしゃれな黒い帽子にアシンメトリーの髪。細身で着ている服もいつもおしゃれだから、初めて見たときは店員さんじゃなくてモデルだと思った。
同い年くらいに思えたけど五歳上で、出会って早々「末智って呼んでいいからね!」なんて言われたから、苦手度も増した。
そういうこともあって「絶対話しかけてきそう」「馬鹿にされる」と警戒していたけれど、カットが始まると驚くくらい静かに切ってくれて、質問は一切してこなかった。
それどころか砥庭さんが私に休みの日の過ごし方を話してくるくらいで、意見を求めてくるだけだった。
しかも完成した髪はびっくりするくらいおしゃれに変わった。上手く言えないけど、絶対都会の人に馬鹿にされないと自信がついたくらいだ。
こちらについて聞いて来ない。そしてカットもめちゃくちゃ綺麗。個室制で落ち着くということもあり、私はずっとこのお店に通い、砥庭さんを指名して切ってもらっている。
椅子に座ると砥庭さんが鏡越しに話しかけてきた。私の頬の横あたりに手をあて、じっと見つめてくる。
「今日はどうします? いっそバッサリ切り落として巻いてみる?」
「えっ」
「冗談ですよ。軽くパーマをあてて、少しここ毛先が傷んでいるので内側にいくようにしていきたいんですけどどうですか?」
「お願いします」
最近は、あまりのカットの心地よさによく寝るくらいだ。ネットの友達からゲームを紹介してもらって、それをプレイしている。普通のオンラインゲームだけど、キャラが良くて二次創作を求める手も止まらない。それに、ここ最近悩みが増えた。
「どうしました……? 体調悪い?」
「いえちょっと寝不足で……」
「へぇ。何で?」
「実は、友達に彼氏ができたんですけど、どう見ても騙されてるっぽくて……」
私の大切な友達である栞ちゃんが、よりによってバンドマンと付き合い始めた。
同じ学部である彼女は白い日傘とワンピース、靴を白で揃えても似合うような儚げな美少女で、どこからどう見ても大和撫子だった。
そんな子が、同じ大学にいるメジャーデビューしているバンドマンと付き合いだしたのだ。
「バンドマンってやばいですね。その蛍さんのお友達は蛍さんとタイプ違うんですか?」
「おしとやかで、古風な女の子なんです……だから騙されてないかって思って……」
バンドマンなんて、二股とか三股とか平気でするし、浮気しまくりで、問い詰めたら「え? っていうか俺たち付き合ってるっけ?」とか言うことで有名な人種だ。絶対一回寝るだけなら浮気じゃないとか思ってそう。絶対そうだ。何故ならこの間読んだ漫画でクズ系バンドマンの受けが同じようなことを物語の冒頭で女の子に向かって言ってた。
その後鬼畜なサラリーマンと出会い徹底的に躾を受けて更生してたけど、現実と漫画は違う。
それにこの間学食で一緒にご飯を食べている所を見ていたけど、楽しそうに話す友達を前にバンドマンはじっとスマホを見ていた。
その前は講堂で電話か何かしているバンドマンを見たけど、音漏れで栞ちゃんの声に似た女の子の声が聞えていた。でもその日は栞ちゃんは私の隣にいたから、他の女との電話だ。
「友達は幸せそうなんですけど、彼氏は一緒にいるのにスマホばっかいじって、人の話聞いてない感じというか」
「うわ、それ最悪ですね! 絶対別れた方がいいですよ! 他に女いるでしょ!」
砥庭さんの言葉で疑惑が確信に変わり始める。オタクの妄想だと思っていたけど、やっぱりパリピ光属性の彼が思うなら本当にそうなんじゃないだろうか。
栞ちゃんは本当にいい子だ。うっかり腐女子バレした時、「人が好きなものに夢中になってる姿が好き」と理解を示してくれた。
そのスタンスがバンドマンを好きになることに繋がってしまったから、複雑なところはある。でも、彼女はネット以外でできた初めての友達なのだ。
「片吉さんの友達の彼氏さんといえど、彼女いて他の女と連絡取る奴、絶対碌な男じゃないっすよ。他の女の子欲しいならわざわざ彼女なんか作らなきゃいいわけじゃないですか。そこをキープしておくとか最悪だと思います」
「そうですよね……! やっぱり碌な男じゃないですよね。浮気するとかありえないですよね!」
「でも蛍はしてるけどね。浮気」
しゃきん、と冷たい金属音が耳のそばでやけに大きく聞こえた。意味が分からず反応が出来ないでいると、鏡越しに鋭い目が合った。
「しかも、二人いるでしょ男」
しゃきん、とまた無機質な音が響いた。どう発していいか分からない。何で私が責められてるの? っていうか浮気って何? 今まで顔のいい男同志をお付き合いさせたことはあっても私が誰かとどうこうなることは一度もない。浮気とかのレベルじゃない。
「俺さぁ、大事にしたいから手ぇ出してなかったんだけど、それが駄目だった? 清楚気取ってるだけで蛍は親子共々喰うみたいな肉食だったんだね」
「……は?」
「束縛とかしたくないけど、浮気は無理だから。っていうか、もしかして俺が浮気相手だったりすんのかな。笑える」
しゃきん、しゃきん、繰り返される鋏は空を切るばかりだ。「何のことですか」と聞き返せば「言い逃れしても無駄だからね。俺見てたから」と睨み付けられた。
「仕事終わって、蛍の部屋行ったら玄関で男二人分の……しかもおっさんと高校生くらいのマゾガキの喘ぎ声聞かされてさあ、俺の気持ちわかる? 警察でも呼んでやろうかと思ったんだけど」
男二人分の喘ぎ声。そう聞いてはっとした。
CDだ。
砥庭さんのシチュエーションは、昨日聞いたものとぴったり合っている。健気で純朴な受けをおじさまが食べてしまうやつだ。すごくえっちなやつ……。
内容を知られているということは、玄関の外にも聞こえていたということだ。BL騒音問題だ……。ぞっとしていると、そういえば何故彼は私の家を知っているんだ……?
「話聞いてる?」
肩に触れられて反射的に震えた。砥庭さんは「怒ってるけど嫌いになったわけじゃないから」と今度は宥めるようにさすってくる。
っていうかなんで私と砥庭さん、付き合ってる前提で話がすすめられているの……?
「あの……私たち付き合ってない、ですよね?」
人生で、こんなドクズ受けの言葉が口から出てくるとは思わなかった。しかし砥庭さんはドクズ受けに弄ばれたモブ女みたいに目をかっと開いた。
「は? え、嘘でしょ? 今更そんなこと言うの? 今までのこと無かったことにするわけ? 告白してオッケーしたのそっちでしょ?」
「え、え、え、告白? いいいいつに?」
「四か月前! あれ普通に起きてたでしょ? なに俺とは付き合ってないから浮気じゃないとか言う気?」
四か月前……新ジャンルにハマった辺りだ……。寝始めた、あたりだ……。
「蛍がそんな人の心弄ぶ悪女だと思わなかったんだけど」
じっとりと圧をかけるように見つめられる。この目は完全にあれだ。物語終盤でドクズ受けを刺しに来るタイプの女の子の目だ。攻めが助けに来てくれて、そのあとえっちなシーンに入ってくる前触れのやつ。
私砥庭さんにこんな目をさせるまで弄んだ……? いやそんなわけない。私は心の中で受けのお尻を攻めが弄ぶ妄想はしても、人の心は弄んだことない。
「まぁいいや、今日相手の男二人呼んでよ。俺が話つけるから」
巣食うように昏い瞳がこちらを射抜く。
「いや、私その二人とはお付き合いなんてしていなくてですね」
「へえ、じゃあ一応俺は浮気相手じゃなかったんだ。店終わるの八時だから、九時に家行くからちゃんといてね」
砥庭さんが私の両肩を掴む。力なんて入れられていないのに、縫い付けられてるみたいに私は動くことが出来なかった。
◇
「砥庭、今日彼女待たせてるんだろ? あとはやっとくから彼女のとこ行ってやれよ」
「でも」
「お前ずっと浮気されてるかもって死にそうだったんだから、すっきりしてこい」
閉店してすぐの店内で清掃を始めていると、店長が俺の持っていた箒を取りロッカーを示す。俺は頭を下げ、帰り支度を始めた。
蛍に対して、初めはオタクっぽいとしか思わなかった。隠してるつもりだろうけど挙動で大抵わかる。適当に漫画が好きとかアニメ見るとか言えば一気に打ち解けるけど、距離感馬鹿が多いから遊ぶには向かない。
だから人見知りの子向けの対応をして初回は終わった。
指名してきた二回目以降も簡単だった。俺が適当に話をして、頷かせるだけでいい。相手から話をさせて、「話聞いてくれて優しくしてくれた」なんて勘違いされても困る。タイプじゃないし。そうして三回目も四回目もそれ以降も当たり障りなく接してたけど、回を重ねるごとに柔らかくなる彼女の表情に、だんだん視線が向くようになった。
そして半年前だろうか。大晦日に来店した彼女は終始嬉しそうにしていて、訳を尋ねたら好きな漫画家の本が買えたのだと笑った。
そんなことでと思ったけれど、趣味で描いている人間だから数が少なく買えないらしい。そういう本はどこで買うのかなんて柄にもなく聞いてしまって、大規模なフリーマーケットに並んだと彼女は戸惑っていた。
正直、くだらないと思う。「好きな本が買えたんです!」なんて笑顔で落ちるなんて。
中学から来る者拒まず去るもの追わず、彼女が出来てもその友達や姉妹と寝ることは日常茶飯事だったのに。俺はぱったり遊ぶことをやめた。他の女への興味が消えた。
顔もなんだか可愛く見えて、胸なんて何にもない、絶壁みたいになってるのに触りたいと思う。
今まで落とそうと思って落ちなかった女はいなかった。高校時代はクラスの女子を落とす賭けをして全勝だった。専門に行ってた時も同じ、クラブでも負けたことがない。なのに一番分かりたい相手――蛍の落とし方はわからず、付き合うまでかなり手こずった。
髪には触れられる。切ることだってできる。住所だってカルテで見ているから知っている。予約を受ける時に必要だから携帯の電話番号だって分かる。
なのに蛍との距離は近づけられず、焦った俺は髪を切られながら眠る彼女に好きだと言った。ずるい手段だったと思う。寝ているから聞こえなかったらそれまでだし、聞いていてもさっきまで寝ていたから夢の出来事だと誤認させることができる。
そうしたら彼女は笑って頷いたのだ。
そこから俺たちの交際は始まった。
かといって、恋人らしいことはすぐできなかった。蛍は大学生だし、俺は他人の休日が繁盛期だ。朝は早く帰りは遅い。大学まで迎えに行ってあげられない。それに付き合うようになって上昇志向が出て来た俺は、仕事に熱が入るようになった。
だから蛍が店に落とすなんて回りくどい渡し方をしてきた合鍵で、寝顔だけ見に行ったり部屋を掃除するなど、かなりプラトニックな付き合いだった。
今まで顔が好みであれば誰でもいいと思って生きて来たから、何かあったらいけないと思って一通り検査をしてる間はよかったけど、いざ自分の身体に病気がないと分かると所構わず襲ってしまいそうになる。
でも蛍は合鍵を渡すのに手渡しじゃなく床を経由するような女だ。じっくりリードしなきゃと思っていたその矢先、彼女の部屋から男の喘ぎ声が聞こえてきたのだ。
しかも「いい」「最高のやつ」という悦が入った声が聞こえて、目の前が真っ暗になった。
そのまま突撃してやろうと思ったけど、明日はどうせ蛍が店に来る、となんとか耐えた俺は、今日蛍と店で会い、とうとう浮気相手に会うことになった。
「あ、えっと、どうぞ……」
蛍の住むアパートに到着した俺は合鍵でそのまま押し入るか迷い、結局チャイムを押すことにした。彼女は割とすんなり出て、おどおどした様子で俺を見ている。玄関先の靴を確認すると、浮気相手はまだ来ていないらしかった。
「あの、こんばんは……」
「お邪魔します。まだ浮気相手二人とも揃ってないんだ、一緒に来る感じ?」
「いえ、そのことなんですけど、それは……」
「まぁいいや。俺が浮気相手に出すお茶淹れるから座ってて、蛍は話したいこと整理してな」
俺は蛍を部屋のソファに座らせて、キッチンでお茶を淹れる準備を始めた。
ポットの場所もマグカップの場所も全部分かってる。全部知ってる。それは俺だけだと思っていたのに。1Kの部屋だから、ベッドもすぐ見える。昨日ここで蛍は……と考えていると、そばにある包丁を手に取ってしまいそうになる。
「あの」
振り返ると、蛍は部屋の真ん中にある小さな机の上に、ノートパソコンを置いた。彼女はパソコンにCDを挿入すると震える手つきで操作を始める。
「なに、浮気の証拠見せてくんの? それともそういうお遊び?」
「……これが、その、砥庭さんの聴いた声だと思います……」
蛍がマウスをクリックすると、再生したのは昨日俺が聴いた声だった。でも不思議なことに蛍の声は聞こえないし、雰囲気でもつけようとしているのか曲も重なっている。
「録音して編集したってこと? そこまで楽しんじゃってるって言いたいわけ? それとも撮影か何か? 金無くて女優でもやらされてんの?」
「いえ、あのこれはですね、販売されている商品でして、私はただそれを視聴していたという、か」
「……じゃあケースは? バーコードつきの」
尋ねると彼女の顔が引きつる。販売されてるものならケースがあるはずだ。
「えっと……」
「言えないことやってんの? 俺隠し事大嫌いだから、そっちがその気なら大学に全部バラすよ?」
蛍は長く呻いて棚から何かを取り出した。一つ一つの動作がゆっくりで奪い取ると、そこにはアニメの絵みたいな、男二人が並んでいる絵のCDだった。二人とも服を着ていない。
「むりやりっオジサマと僕の初恋事情……」
「読み上げないでください!!」
彼女は顔を真っ赤にした。俺はスマホから取り出し、題名を検索すると確かに販売されている商品らしい。人気につき漫画がCDになったと書かれている。視聴をタップすると俺が昨日聴いた声がそのまま流れてきた。
「じゃあ何で昨日いいとか最高とか言ってたの?」
「このCDに興奮したというか……、こう、楽しくなってきたといいましょうか……」
「じゃあ、浮気って、勘違い……?」
言葉にすると、徐々に熱を持っていた頭が冷えていく感じがした。オタクっぽいと思ってたけど、ただ蛍はその中でもコアなオタクなだけだったのか。
「ごめん、勘違いして……てっきり俺蛍が浮気してるって思って……全然会う時間作れないし、浮気される要素しか持ってなかったから、すごい疑っちゃってた。ごめん……」
「え、ああ、え、まあ……はい、浮気……してないですね。はい」
「この埋め合わせはきちんとする。今日は仕事早く上がれたし、夕飯作らせて。お詫びにならないけど、今日このまま帰るのは嫌だから」
蛍の手をぎゅっと握ると、彼女は「ひぇっ」と声を出した。やっぱり人の心を弄ぼうと清楚演じてるんじゃなくて、本当に経験がないんだと思う。今だって、口をぱくぱくと動かしながら「あれ……私の頭がおかしくなった……? なにこれ?」と頭を抱えている。
そんなところも愛しい。そのまま震える彼女の頭を撫で、俺は台所に向かったのだった。
◇
「え、えっと、夕食、ごちそうさまでした……」
どこか混乱した様子の蛍が俺を見送ろうと玄関に立つ。今日は少し問い詰めてしまったせいか、彼女はぼーっとしながらご飯を食べていた。
浮気を疑ったのが良くなかったんだろう。蛍からすればただCD聞いてただけなのに、不機嫌な態度を取られたのだから。これから信頼を取り戻さなければ。
「また作りに来るからね」
「え」
彼女はまたこちらを警戒するような顔をして、視線を下に落とし何かを考え込み始める。もうすぐ俺は帰るのだから顔を見せてほしいのに。
「大好き」
玄関でぼんやりと立つ蛍を抱き寄せキスをした。少しだけ唇をなめると、彼女は崩れ落ち、器用にそのまま後ろに後退していく。
やっぱり人馴れしてない。もしかしたら全部初めてかもしれない。俺としてはもっと色々したいし慣れてほしいけど、時間はたっぷりあるからいいか。これからずっと一緒なんだし。
俺はただただ驚いた顔をしている彼女を支えて立ち上がらせた。
「今度、休みの日、大学迎えに行くから、じゃあね」
そっと髪を撫でて玄関を出た。鍵を閉める気配がないから、仕方ないなと俺が外から鍵を閉める。
次に来る時は、俺の家の鍵も一緒に持って行こう。
俺は少し先の未来を楽しみにしながら、蛍の家を後にした。