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[男×男]continue=Q.E.D.[探偵はそっちじゃない・完]


天上と御上の諸々を「探偵はそっちじゃない」としてまとめ読み返しやすく、男男に興味のない方は避けやすくしようと試みたタイトルです。ほかの女女系もこんな感じのタイトルにしてまとめる予定です。




「天上さんキショいですよね」

「え」


 天上さんとの打ち合わせ中、僕──御上望は頭をかきつつ手元のペンを回す。中学生の頃、隣の席のペン回し狂人に「ペン回し覚えてほしい、本当にお願い」とお願いされ続け授業中ずっとペン回しの練習をさせられた名残だ。興信所では「ペン回ししてんじゃねえぞ」としっかりドヤされる。


「普通に、今年の上半期は自我を殺せだのなんだのうるさかったわりに、下半期はずっと好きなのを書けばいいって。どうするんすか結局。僕は天上さんが僕に何書いてほしいとか何読みたいとかいつの日か言ってくれるかな~と楽しみにしていたのにほかの作家の名前出したことを許していないですよ」

「それはただの世間話というか一般的なそういう話をしただけで」

「傷ついたなぁ~」


 僕はペン回しをしながらお道化た調子で言う。


「でもちゃんと、会社としては許可取ったんで、好きに書いていただければ」

「えーでもさー御社の代表、制作に理解をお願いします、作品は担当編集と作るものですって言ってたよ~?」

「いや、だから、好きに書いていただければと」

「えーだって自我殺せって言ってたじゃん」

「いや……だから、大事なのは今ですよ」

「アハハ」


 最近、天上さんに対しては自己責任でいいなと思うようになってきた。


 前までは、僕は一応取引先で、相手は一応色々拒否できない立場だろうしな、いざとなったら向こうがちゃんと逃げられるようにしなきゃなと思っていた。


 相手の意向がきちんとそろっているかをめちゃくちゃ気にしていたし、絶対に気にしなきゃと。だって保流みたいになりたくないから。


 でも、あいつはキショいというより、支配欲大バグの目立ちたがりでしかない。僕はなりたいと思ってもなれない。


 そう思ってから、保流みたいになるのは気をつけつつ、天上さんを完全に理解できずとも、保流みたいにはならないのだろうと見ている。


 というか保流の場合は僕に興味ないのに普通にヒット作で認められたいという埋め合わせで制作していたフシがあり、僕は天上さんに対して興味しかないので、そういう意味でも保流みたいにはならないだろうと。


 なので、ただ知りたいの一択になった。天上さんに対して。ちゃんと理解しなければ保流みたいになるというビジネス的な切迫性が消え、ただ知りたいになった。


「まぁでも、紙資源は大事ですからねえ、それに読まないから天上さん」

「いやそういうわけではなく……どうしても忙しく」

「まぁ人間、限界ありますからねえ」


 答え合わせをする気はないが、僕が1月取引先にぶっ刺されて音信不通になったとき、ヘラヘラしてたの、あれ明らかに天上さんパニックだったんだろうなと思う。最初はすげーつめてえなと普通に傷ついたものの、天上さんは耐えきれなかったのだろう。


 どこまでも情動の人だし、情報を落としたのだ。家の外で怪しい物音がして、怖くなり、確かめることが出来ず部屋を移動する、みたいな。


 そういう行動を天上さんは取ることもある。どういう選択をするか分からないし、突然アクセルを踏むので、表情声言動を考慮しなきゃいけない時もあるけど、それは、本当に仕事の時でいいかとなった。


 僕に表情とか声で分析されたくないなら、嘘が上手くなるか、普通に言葉で言えばいいし、絶対にしてほしいことがあったりしてほしくないことがあれば、明確に示してくれれば、という。それは天上さんが選ぶことで僕は関係ないので。


「書きたいのないんですか」


 天上さんは言う。


「書きたいものは書くし日によるよ、究極言うと」


 天上さんも日による部分があるんだろうなと思う。普通に、売れ線助かるみたいなときと、書きたいもの書いてほしい、みたいなときと。


「天上さんと仕事できればいいよ。死んだときの遺作が、保流みたいな編集者とだった場合、死んでも死にきれん」

「保流のことまだ」

「いや、俺の今の担当はお前だから、過去の事例としてだよ。過去と今があるから、未来があるわけで。お前、嫌だけど持っておきたい、手放せない過去とかないの?」


 そう言うと黙った。ちょっと怖くなる。天上さんの本音を潰したんじゃないかって。同時に今、掘っても、天上さんはまだ答えなんて全然持ってなくて探したい可能性もあり、僕は「反論できたら、教えて。知識として知っておきたい」と付け足した。


「知識として、ですか」

「そう」

「御上さんなんか変わりましたね」

「ババア死んだからじゃない? 身辺をさ、揺るがされてたわけだから」


 祖母が死んだとき、最初に感じたのは突然開けた将来の不安だった。だって今まで僕は母を解放するために生きていて、ぼちぼち頃合いのいいところで祖母を殺す以外に目的が無く、後は何するにでも余生の認識だったから。


 それを、天上さんは理解できないだろう。僕はこうして天上さんに共有するけれど、サンプルの提供の意図もある。僕はこういう人間ですよという情報を得ていれば、理解しやすいし、理解できなくなった時も、「ここまで違うのだから」と自分を責めずに済む。


「御上さんは書くんですか」

「書くんじゃない? ずっと。読者が一人いれば作家って言ってたけど、誰もいなくなっても書くよ。書くのは……呼吸するというか、かろうじて誰も殺さずに済む手段だから、僕にとって」

「作家さんですねえ」

「お前もだよ」

「私は作家ではないので」

「そっか」


 前は作家だと定義した。でも再定義することはなかった。天上さんが自分は作家だと思った時、名乗ればいいから。


「じゃあ僕はただの天上さんのファンだ」

「私ただの編集者なんで」

「だって普通に編集者でも前に出てるのいるじゃん。なに、そういう人出しゃばりだっていいたいわけ? 批判ですか⁉ あっそういう編集者さん嫌い?」

「そういう意味じゃなくて……」

「分かってますよ」


 天上さんこういう早合点嫌いそう。あえてだ。あえてやった。


「御上さんどうされたいとかあります? 書いたもの」

「ドラマに興味あるんだよね。元は、僕ドラマっ子だったし。アニメ禁止だったし」

「アニメ禁止だったんですか?」

「僕小さい頃さ、テレビのチカチカが駄目だった時期あったから」

「ああ」

「それと、血が残酷だからって禁止」

「え」


 天上さんが気まずそうな顔をした。何かあるご家庭と感じてのことだろう。


「僕が、普通に人形をね、四肢を全部バラバラにしないと遊べない子供だったから」

「え」


 さっきと変わらない相槌だが、表情が少し変わった。さっきは普通に気遣ってた感じ。今は、普通に目に興味が宿っている。


「構造が気になる子供だったんだよね。定義とか。多分、道を間違えなければ理系だったかも……で、どう、ドラマ。探偵はそっちじゃない」

「いや、人気が出たらですし私が決めることではないので」

「そんなん知っとるわ。目指すのはありじゃない?」

「駄目だったら」


 天上さんは視線を落とす。


「駄目だったらって思いながら作っても売れると思ってつくっても制作期間は同じじゃん、なに天上さん、同じ30日間でも諦めながら過ごす30日間と信じる30日間だったら諦めながらのほうがいいと思うんですか?」

「でも期待して外れたときが……」

「同じだよ。信じて駄目の30日も諦めながらの30日もショックは。声にならないショックと絶叫するショック、全く一緒。それなら信じて30日過ごそうよ。駄目なら二人でワーって言えばいいじゃん。丁度さ、俺とお前でふたりなんだから。一人ぼっちで受け止めずに済むじゃん。作家は独りってお前は過去に言っていたけど」

「それは……ずっと根に持つじゃないですか」

「黙って爆発されるよりいいだろ。あと全然気にしてないですよーって当たり障りないこと俺が言ってお前信じるの?」

「……ゥ、日々チクチク刺されるのもイヤですよ」

「それと同じ、諦め30日でも、信じて30日でも同じだよ」


 僕は天上さんの目を見る。天上さんは僕と一瞬だけ目を合わせた後、「そうですかぁ」と視線を逸らした。前は目も合わせてくれないと思っていたけど、元々こういう人の可能性もあるなと、考えられるようになった。


「好きな人間が出来てさ、これ以上好きになったらダメって遠ざけるタイプのお考えの方ですか」

「馬鹿にしてるんですか?」

「出せる例えがそれしかなかった。本当に悪意はない。」

「いや悪意あったでしょ」

「悪意あったらもっとひどいことしてるし、天上さんのブラック企業で自我を殺せも相当じゃない?」

「あれは……」

「まぁ、あの時、こういいたかったとかさ、こう言っておけば良かったがあれば今度聞かせてよ」

「批評されてるみたい」

「いや、精査するつもりはない。人間の言動って変わっていくものだし、だから僕は定期的に好きだよと言っている。お前に。変わってないですよという意味を込めて」

「はぁ」


 天上さんはよく、「はぁ」という返事をする。レパートリーが豊富なので分かりづらいが、本当に無理な時は「はぁ」すら言わない感じがするので、とりあえず今は、大丈夫そうだった。


 普段はさらに精査する。相手の真実を取りこぼさないように。でも、天上さん複雑だし、色々、どっかおかしい。そして天上さんも似たような考えを、僕に対して持っている気がする。持ってなくてもいいけど。


「まぁ、変なところも合わせて天上さんという色ですからね」


 そう言うと天上さんは「はぁ」と返事をした。
















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