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そしてヤンデレに至る


 最近御上さんが厳しい。


 売り上げも普通に厳しいけど、そんなことまで言うか? と思うことが増えた。


「普通に11月からの原稿を、場所がわかりませんで翌年6月まで持ってて、で、4月戻しの原稿を自分が持ってることに気づくのが8月。簡単なグーグルフォーム設営もせず、こちらがほめてくれと言えばおべっかも使えない。貴方ってなんなんですか? これでいや自分はキャパオーバーで全然ダメって言うの勝手ですけど、それ会社が調整することというか。僕に何が出来るんです? 僕の原稿に価値が無いから読んでないってだけでしょ」

「いや、それはちが……」

「一生懸命やってました、ごめんなさいド忘れです、ギャア。とかなら分かるんですよ。天上さん何でか、いや、読んではいたんですみたいな命乞いするじゃないですか。そんな怒ることですか? みたいな冷笑仕草。何、っていう。なんなんですかお前は。やる気ないわけじゃないんです。精一杯なんです。ダサくてごめん! なら、こっちもフォローできるじゃないですか。フォローされるのはプライドが傷つくし、そもそも期待されても応えられないし、でも仕事出来る出来る風として取り扱ってくださいマンなのか、マジで俺の原稿が読む価値もないのか分からないからやりづらいんですけど」


 やりづらいって言われたって御上さんのほうがやりづらいし。


 こっちだって頑張ってるのに。


 そういうの言うのは恩着せがましいし、色々すごく上手く言ってるわけじゃないし、察してくれてもいいのに。というか探偵なんだから分かってほしい。


 それにこっちは御上さんの細かいオーダーをチェックするので大変だし、御上さんの分からないところで色々やってるのだ。それを言うと守秘義務とか会社の問題になるので言わないだけで。


 というか前は貴方呼びだったのにお前に変わった。チクチクする。


 お前って。

 

 前に貴方呼びだったときも、あんまり仕事で呼ばれることはないのでソワソワしてた。お前呼びのほうが正直慣れてるけど、御上さんにお前呼ばわりされるのは何なんだよと思う。


 っていうかこっちは、WEBとSNSは読んでる。


 仕事……編集者は作家の全作品網羅する必要はないのに、御上さんのある日突然投稿するWEB小説を確認して、読んでる。


 だからWEB、SNS、仕事の原稿でよく分からなくなるし、そもそも御上さんの原稿だけ取り扱って結果を出したとしても、御上さんの原稿だけ頑張ってる人になるし、他は書籍化未経験の新人ばかりなのでどうしてもリソース配分が難しい。


 それを……分かってくれてもいいんじゃないか?


 と思うけど御上さんはどちらかというと新人時代に放置された側というか、まぁ、厳しい時代にいたタイプなので、どうなのかなーと思う。


「原稿持ってるのも、いいんですよ正直。ただあなたの行動だけで判断するなら、11月送付原稿忘れる、4月原稿送付忘れる、あと俺を界面活性剤に売るっていうかこちらの内部情報代表に売る」

「あれそこまで大事になってないですって」

「大事に至るも何もお前が俺を売ったという事実が問題だろうが。金融でそれやったら一発でアウトだからな。後、モラハラ婚活マッチングアプリ激推し、一般論ってお前言ったけど、それITでやったら下手すれば課長まで出なきゃいけなくなるから気をつけろよ。お前の大好きなママ上司の詫び案件だぞ」

「いやだから好きとか嫌いじゃなく……」


 ちょっと面白いと言っただけで御上さんの中では好きなのだ。小学生じゃないんだから。というか本当に好きだったら言わないし。なんで分かんないんだろう御上さん。探偵なのに。


 推理しないっていうけど推理しろよ。というか勝手に色々こっちのこと予想してくるくせになんでそこ推理しないんだよ。


 理不尽。


 御上さんと仕事しているとよく浮かぶ。


 理不尽。


 すごい理不尽だ。


 御上さんは自分の気持ちを言うし、小説に書くし、縦横無尽だ。すごく自由。


 でもこっちは、色々な人に気を使って、輪を乱さないようにして、頑張ってる。まぁ、嫌われたくないからだし、責任取りたくないし、取れるような人間じゃないからだけど、それでも、頑張ってる。


 なんでそこだけ気付かないんだろう。


 周りの制作のことは気にするのになんで俺のことだけ。


 勝手に決めつけて勝手に喚き散らかして。


 一回、思ってること全部言ってみようか悩む。


 でもどうせ引かれるし、いいビジョンが浮かばない。


 それに婚活マッチングアプリだって、御上さんならいい相手が見つかると思って言っただけだし。実際周りの人は結婚したし。


 実際御上さんだしDVモラハラクズに好かれそうとは思うけどきちんと排除するだろうし。だから言っただけだ。本当に思ってるわけないのに。なんで通じないんだろう。


 付き合ってきた年月があるのに。


「だってお前発する言語が少なすぎて分かんねんだもん。膨大にベラベラあるならこれかな、とかだけど、少なすぎてダイアモンドレベルだぞ」

「じゃあ行動で見ていただければ……」

「じゃあ原稿は? CC共有は? コンプラは?」

「御上さん理想が高すぎるんですよ……期待値も高いですけど」

「俺は天上さんと仕事が出来ればいいとしか言ってないし、そういう信頼を原稿のあれこれで突き崩していったのは貴様どす」

「いや」

「まぁいいですけどね。俺は才能もないし、原稿読まれないようなゴミなのが原因ですから。それにそんだけ理想高いキャパ理想高いキャパでしつこいなら、貴方を尊重して、俺から何かを決めることも無ければ企画の打診することもないです」

「まぁ、ご理解いただけて、助かりますけど、ね」


 現実問題キャパの問題はある。


 御上さんは理想が高い。


 それに待ってればいつか御上さん気が変わるし。


 俺の最善策は、何もしないこと。様子を見ること。


 すると御上さんはそれを見透かすように言った。


「界面活性剤よりキモくなる可能性ありますからね。天上さん。可能性も才能もあるのに。期待されたくないで逃げ続けて。貴方の定期的な逃避そのもので、人があなたにがっかりすること、気付いたほうがいいですよ。貴方が守ろうとしているのは、最低限の評価じゃなくて、自尊心だから。八歳くらいの全裸自尊心」


 厳しい。


 そんなひどいこと言わなくてもいいのに。


 俺がぎゅっと手のひらを握りしめる。


 俺は悪くない。いや悪いところあるけど、頑張ってる。


「頑張ってるなら何頑張ってるか言えばいいのに、失敗してやらかしても」

「え」

「冬に言っただろうがよ。俺が取引先に刺されて入院して、てめえの代表にてめえに説明しろって言われて電話させられたとき。その次の週、お前が刺されたことも忘れちゃったって言いだしたとき」


 御上さんが刺されて入院した。思い出したくない。思い出すと喉がぐっと詰まる。びっくりした。だって御上さん不健康とは真逆のイメージだから。全然死ななそうだし。半袖で海とか駆けまわって虫取り網で蝉捕まえてるイメージしかない。


「お前の嫌がらせ疑ってAIに聞いたら、お前ショックすぎて忘れたって出てたぞ。キモ生態」

「キモって」

「お大事にが軽くなるから言えないともあった。マジ?」


 御上さんはニヤニヤする。すごい最悪な時間だ。 


「AIなんかしてるんですね。でも精度なんかそうでもないでしょ」

「してないですけど」

「え」

「予想立ててぶつけただけ。天上さん顔にすげー出るから。もう天上さんと今言語で会話してないですよ。顔見て話すほうがはやい」

「え」

「だって、この間めっちゃ面白かったもん。御社、多分担当してない作品について話してるときはさ、天上さんすげー明るいじゃん。担当してるっぽい作品の名前俺が出した瞬間、人殺しみたいに変わって」

「いや」


 思い当たるフシは、あった。御上さんのことだから調べてきたな、と疑った。後々、違うって分かったけど。


「多分当事者じゃない話なら、責任が伴わないから饒舌に話せる。当事者の話になった瞬間、責任に怯える。責任感が強すぎるあまり無責任なふるまいをしているように見えるタイプだ。気を付けたほうがいいよ。自覚ないなら。ミスったとき軽く言うの、助けてくださいとか大丈夫だよね? って確認なんだろうけど、場数踏んでない人間がみたら反省してないように見えるし、熱意ないって誤解させるリスクある。それにお前言葉がないぶん、相手は余計、確証が持ちづらい。行動で見せようとしても、誠意なのか普通にそういう気分なのか分かんないから」


 俺は言葉に詰まった。御上さんは俺の顔を見て「当たってんな」とつぶやく。


「原稿も熱意がないんじゃなく、物語を読んではいる。ただ書き込みに不安があるか、物語とやらなきゃいけない報告連絡相談のタスク管理処理に難が出てるゆえの誤作動……一応優先度で分けてても、当然これなる早でって早期案件と、全体規模で早めにしなきゃいけない案件の管理が不得意……完璧主義すぎて、100全力でやらなきゃ駄目、っていうプレッシャーで後回しにする。100出来ないくらいならやらないほうがいい、みたいな感じだからこそ、何もしない。結果、やる気ない、こだわりがないと誤解される。お前のこと柔軟性あるって代表言ってたけど嘘だと思うんだよな。調整する、合わせるのは得意だけどダメージ受けるタイプだろ。結果的に逃避ポたまってブツ切り」


 何も言えなかった。一言でも言えば、漏れる気がして。なにもかもすべて。


「こういう推察、完全にストーカーに片足浸かる行為だから。リスクしかねーわけ。ましてや俺はお前の才能に惚れてる。それだけは覚えとけよ。俺相当なタイプのヤンデレだから」


 御上さんはそういうと、俺を置いていくように去っていった。



 



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