6 本音と建前
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人とは常に本音と建前を使い分ける生き物である。そうしないと現代社会では生きていけないからだ。特に上下関係ではそれが顕著だ。
とはいえ、無論同い年だろうと所謂スクールカーストというものも考慮されて本音を隠す場合もある。極端な例を言えばいじめっ子や横暴で力も強い相手に話を合わせるようなものだ。
それは人間にとって必要なこととはいえ、やはり本音を話せないのは辛いものがある。俺みたいな卑怯者なら特にそんな罪悪感を抱くのだろう。では、彼女はどうか?
「付き合わせてごめんね」
「ううん、いい人達で嬉しかった」
多分これは本音でもあるのだろうと少しだけ思う。いや、こういう時にも本音を言えるのが彼女の魅力なのだろう。隼人と美沙と別れてから、彼女を家に送るために一緒に歩きながらそう思った。
「美沙うるさかったでしょ」
「少しだけびっくりしたけど……でも、優しい人だって分かったから大丈夫。あの……八王子くん」
「何?」
「美沙さんとは……その……」
モジモジしながら何かを聞こうとする中野さん。しばらく俺はその仕草で迷ってから微笑んで言った。
「美沙とはただの幼なじみだよ。本人も言ってたけど親友かな。それに美沙は隼人の彼女だから」
「そ、そう……」
ホッとする彼女。それなりに想って貰えてるのかな?
「あの………鈴音って人は元カノさん?」
そして突然ぶち込まれた地雷に少しだけ俺はフリーズしてしまった。聞かれてたのか………
「あ……ご、ごめん……忘れて」
俺が何かを言う前にそうして自分から引き下がる彼女。本当に優しい子だ。本当なら答えてあげたいけど……俺の中の狡い俺がその彼女の優しさにつけ込んでしまうのだった。情けないことに過去の出来事を未だに引きづってるのだろう。
「そういえば、もうすぐテストだけど勉強は大丈夫?」
「うん……家では勉強してるから」
「そっか、確か成績良かったもんね」
前はそこそこ上位に入るくらいには勉強出来たはずだ。そうなると俺の方が問題か。
「あ、あのね……八王子くん」
「なに?」
「その……良かったら明日から一緒に勉強しない?」
思わぬ申し出に驚いてしまうが、その直後に断られるのが怖いのかビクビクしてる様子の彼女を見て俺は思わず頭を撫でて言った。
「是非お願いするよ。少しでも中野さんと一緒にいたいしね」
「はぅ……」
そんな軽い挨拶程度の甘さで顔を赤くする中野さん。本当に可愛いものだが……俺から言い出す前に彼女から誘ってくれた辺りそこそこ好意が芽生えてきてくれてるのかな?そんな自惚れも少しだけあったりするのだった。