4 言わぬが花
( *・×・*)クチチャック
誰にでも特技というものがある訳ではない。どんなことをしても平均値しか取れない人間というのも中にはいるんだ。例えば勉強。勉強というのは俺はある意味どれだけ要領良く理解できるかが重要なのだと思う。
暗記科目だって、理解さえしてればある程度すんなり頭に入ってくる。まあ、今の学校での授業で求められるのは与えられた範囲の丸暗記に近いとは思うけど。
人間、必要に迫られなければ本当に自分の力にするのは難しい生き物だ。外国に行ってから初めて生の英語を覚える人だっていることからもそれは分かる。日本語だって、会話に必要だから覚えてるし、日常生活に必要なことならある程度すんなり覚えられる。
「ほぇ……これ、八王子くんが作ったの?」
俺の弁当箱を見ながらそう驚く彼女。別に自分からアピールをした訳ではないが……俺が彼女のお弁当の彩りを見て思わず手作りか聞いたらそんな流れになったのだ。ちなみに彼女は母親に作って貰ってるそうだ。
「まあ、一応ね」
「料理上手だね……私は、少ししか出来ないから……」
じっと見てくる彼女に俺は思わず苦笑して聞いた。
「そんなに上等なものじゃないけど……食べる?」
「え……あ、いや、そんな……すみません……」
「謝らなくていいよ。少なくとも俺には」
反射なのだろう。クラスメイトからの嫌がらせだけではなく、恐らく何らかの持病での経験でその言葉が出やすくなってるのだと思う。申し訳ないと常に思ってしまう。それはきっと本当に純粋だからこそ思うのだろう。
「すみません……はぅ!」
本当にソフトにデコピンをする。すると隠れていた前髪から少しだけ綺麗な青い目が見えて確信した。
「次謝ったらペナルティでお仕置するからね。あと……その目凄く綺麗だよ」
そう言われて彼女はハッとしてから慌てて髪で目を隠す。そんな彼女に俺は微笑んで言った。
「誰にも言わないから大丈夫だよ。でも、俺はその目が好きだから独占したいかな」
「………気づいてたの?」
「まあね」
所謂アルビノと呼ばれるものに近いのだろう。しかも目だけに現れている。だから目の色が綺麗な青色なのだろう。
「気持ち悪いよね。目だけこんなの……」
「全然。むしろ可愛いよ」
「……本当に?」
「うん、俺は君の前でだけは絶対に嘘をつかないって決めてるから」
もちろんクラスメイトには嘘ばかりだけど。いや、誤解されてそうかな?まあ、どっちでもいいけどね。
「……お母さん以外に初めてそんなこと言われたよ……ありがとう」
その笑みに少しだけ俺は照れてしまった。初めて向けられた笑みがとても可愛かったのだ。
「どれか食べたいのある?」
だから照れ隠しに俺は先程の話題に戻していた。その唐突な話題変換に彼女はキョトンとしてからくすりと笑って言った。
「じゃあ、卵焼き食べたい」
「うん、どうぞ」
本当ならあーんして食べさせたいが……多分彼女の初さでそれはショートしかねないから我慢する。俺から受け取った卵焼きを彼女は食べてから嬉しそうに言った。
「凄く美味しい……お弁当は毎日八王子くんが作ってるの?」
「まあね」
正確には俺しか作れる人間がいないのだが……まあ、今は言う必要はないだろう。そんな感じでお昼は和やかに過ぎるのだった。