3 はじめの一歩
ボクシングじゃないお( 'ω' 三 'ω' )
男女交際というのにはある程度速度に個人差があるものだ。付き合ってその日にもう性行為に行くカップルもいれば何ヶ月もかけてそこに辿り着くカップルというのも珍しくないだろう。とはいえ、俺はそれがゴールだとは思わない。
婚前交渉が当たり前になってきてる現代社会において恋人とはイコール将来の結婚相手ではなくなってきてるからだ。だからこそ軽い気持ちで結婚して離婚もするのだろう。
例えば浮気。今なら寝取りとかかな。様々な感情があるのだろうが、結論だけ言えばその程度で消える想いなら最初から本気ではなかったのだろう。もちろん本人達は本気と言うだろうし、実際そうなのだろうが、長い目で見ればそれは本当に本気ではないのだろう。
人間とは感情が移る生き物。物語のような純愛を貫くのは一般人には難しいのだろうが……かくゆう俺もかなり薄情だとは思う。向けられた好意を忘れてこうして他の女に告白したのだから。
「中野さん。お昼一緒に食べない?」
それは俺が彼女に告白した次の日の昼休みの出来事。授業が終わり騒がしかった教室の喧騒はその言葉に一瞬止まった。
「あ、あの……その……」
「え?八王子急にどしたの?」
「まさか地味子に好意でもあるん?」
女子達が可笑しそうに聞いてくるので俺は微笑んで言った。
「まあね。気にしなくていいよ」
「はっちー本当に告白したんだ……うけるー」
「なになに告白?」
「うん、あのね愛のやつ昨日のゲームの賭けで負けたから地味子に告白したんだよ」
「なーる。どうりで」
本当に人間というのは共通の敵ないし、異物を前にすると団結するものだと痛いほど分かった。俺は少しだけ悲しそうな彼女の手を引くと言った。
「ここじゃ、なんだし人の少ないところ行こうか」
「え……う、うん……」
「お、ヤルのか?ファイトー」
謎のエールを貰ってから俺と彼女は人気の少ない校舎裏に向かった。誰も着いてきてないのを確認してから俺は彼女に頭を下げて言った。
「ごめん。守れなくて」
「え……いや、そんな………八王子くんのせいじゃないよ……」
「いや、俺がもっと強ければ君をちゃんと守れるのに。情けないことに勇気がなくてね」
本当に俺という人間はクズだと思う。好きな子が色々言われてるのを歯ぎしりして黙ってるしかないのだから。そんな俺に彼女は少しだけ迷ったようにしてから、そっと頭を軽く撫でた。顔を上げると彼女は少しだけビクビクしながら言った。
「ご、ごめん……嫌だったよね。でも、なんか八王子くんの方が辛そうに見えて……」
……本当に優しい子だ。自分の方が辛いのに俺をそうして慰めてくれるのだから。俺はこの子に何をしてあげられるのだろうか?何を……いや、何も出来なくても側にいたい。役立たずと罵られてもただ純粋に側にいてあげたい。
俺なんかの存在が彼女の支えになるなんておこがましいことは考えてない。それでも、こんなに優しい女の子を1人にしたくないのだ。
「嫌じゃないよ。ありがとう……中野さん」
「そ、そっか……よかった」
ホッとする彼女。まだまだ距離は遠いけど……少しだけ近くなった気がする。