光は彼の元へ
『見て見てこれ! すげぇの出来た!』
スカイツリー! ってキラキラした目でこっちを見てくる彼。
積み木を器用に積み上げて
彼はドヤ顔をかましてくる。
「えーすごいすごーい」
私がパチパチと手を叩くと
『ちょ、もうちょい興味持ってよ!』
これほんとすごいんだって! ね!
と周りのちびっ子に共感を求めている。
ちびっ子からは兄ちゃん兄ちゃんって慕われてるけど
まだ彼も21歳。
「ほら、時間だから部屋戻るよ!」
私がバンッと
彼の肩を強く叩くと
『しゃーなし戻るかー』
と重い腰を持ち上げた。
ちびっ子に
また明日ね、と手を振って
2人で廊下を歩き出す。
夕方の西日が
連なる窓から差し込んできて
思わず窓の外に目をやると
そこには元気に走り回る子ども達がいた。
溢れそうな光の中で
自由な彼らの背中が
外はこんなに輝いているんだと主張してくるから
私は思わず、目を細めた。
『外、綺麗だね』
私の後ろを付いてくる彼も
窓の外を見ているんだろう。
眩しいほどの光を放つ
この不条理な景色を
綺麗、だなんて
彼は一体どんな気持ちで窓の外を見ているんだろうか。
彼のことが気になって
後ろを振り向くと
目を細めて、眩しさを吸い込むように
穏やかな顔で外を見つめているから
私は彼に
「そうだね」
としか、言えなかった。
彼は私の言葉に何も返さず
ただ後を付いてくる。
カラカラと
腕につながれた
点滴を転がしながら。
『今日の抗がん剤ってどんなの?』
「やっばいの」
私がおどけてそう言うと
『なぁ、ナースが患者脅していいわけ?』
ふは、と笑う彼。
『ねぇ』
彼のその言葉に、私はもう一度振り向くと
『抗がん剤頑張れたらさ、俺とデートしてよ』
ね、ダメ? なんて
ワザとらしく上目遣いなんかして
彼は私の顔を覗き込んでくる。
そんな彼を見て
何を言いだすんだと
私は大きな溜息を吐いた。
『溜息吐くなよ……俺、真剣だし』
「あのね? 頑張れたらとか、そんな条件狡いでしょ」
『え?』
「もう十分頑張ってるの、知ってるもん」
その条件を呑んだら
もうデートしていいってことになる
だから狡いって言うと
彼は急にまた目をキラキラさせて
よっしゃー!
って叫び出した。
『今日も頑張れ、俺!』
両手を上にあげて
自分で自分にエールを送ってる。
「ねぇデートってどこでするの」
『え、院内デートに決まってんじゃん』
それデートって言わないし
そもそも院内デートってなんなんだ。
そう言いかけたけど
これも西日のせいだろうか。
前だけを見る彼が
眩しく光っていたから
私は目を細めることしかできなかった。