第二話 共同戦線
「む、無理よ……」
男が立ち去って直ぐ、女性は膝から崩れ落ちた。
「一週間で聖遺物である歩く教会を修理する、ですって? そんなの無理に決まっている。だからこそ、あいつはあの条件を出したんだ」
「あいつはいったい何者なんですか?」
「あいつはスチュワート。稀代の魔術師としてイギリス清教でも力をつけている魔術師の一人よ。そのスチュワート自らが歩く教会を回収しに回ってきたなんて……想定外だった。まったく、想像がつかなかった!」
「スチュワートがどうだか知らないけれど、俺たちの街を無茶苦茶にするのは許せねえ」
拳を握る少年を見て、メイザースは呟く。
「まさか、まさかあなた一人でイギリス清教に挑むつもり!? そんなの、出来る訳が無い!! いくら何でも私は貴方を止めるわよ!!」
「赤の他人であっても、か?」
「それは貴方だって同じことのはず……!」
「女性が悲しんでいるのを見て、見捨てることが出来ると思ってんのか?」
はっきりと、言い放った。
それが間違いであろうとも。
それが真実であろうとも。
それは彼に関係の無い出来事であったとしても。
きっと、彼はうんと頷くのだろう。
彼はきっと、傅くのだろう。
「……でも、でも!! イギリス清教を敵に回すという言葉の意味をあなたは理解していない!! あなたは未だ言葉の重要性を理解していないからそんなことが言えるんだ!! 私だけならなんとかなる。けれど魔術の知識も何も無いあなたにはっ」
「さっきからごちゃごちゃと五月蠅いな。だから言っただろ。俺が守る。女性が悲しんでいるのを見て、見捨てることが出来る訳が無い」
「でも、」
「でもじゃない。これは俺が決めたことだ。だから…………それに、歩く教会? だったっけ? を壊したのは俺な訳だし……」
「自覚があるんじゃないですか、無いと思ってましたよ」
「お前、俺をどんな人間だと思っていやがる……!」
「さて、どんな人間でしょうね?」
二人の会話は続いていく。
それは熟練した夫婦のようなものだった。
しかしながら、会話には突然の終焉があった。
「……駄目だ。これ以上話しても無駄だと言うことは分かっているだろう。とにかく、あんたは一週間で歩く教会を修理する。俺はやってくる相手をばっさばっさと切り倒していく。まあ、切る程の武器は持ち合わせていないけれど」
「だから、私は歩く教会を修理するほどの知識を持ち合わせていない訳だけれど!!」
「そうなのか? まあ、なんとかなるだろ」
「なんとかなる、って。あなたね……!」
「俺の右手は、万物のエネルギーを吸い取る力を持っている、と言ったら?」
「何……ですって?」
「昔からさ、そういう変わった力を持っているんだよな。いつからその能力を手に入れたのかは分からない。けれど、これを使えば『魔法』だろうが『魔術』だろうが関係なしに能力を吸い取ることが出来る。さて、その力を自由に扱える人間が今目の前に立っているとしたら? それでも君は、諦めるか?」
「……、」
何も言わなかった。
でも、賭けをするべきだとは考えていた。
このまま歩く教会を壊されたままではイギリス清教の面々に立ち向かうことなど出来やしない。
しかしながら、彼の能力が本当であるならば?
いや、それは彼が触れただけで歩く教会が破壊された――それだけで既に証明済ではないか。
彼女にはもう、選択肢がなかった。
右手を差し出し、彼女は言った。
「分かりました、協力しましょう。……ええと」
「柊木英二だ。英二と呼んでくれ。そちらは?」
「メイザースと呼んでください。よろしくお願いします、英二」
そうして二人は固い握手を交わすのだった。