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プロローグ 学生街の夜半、その一日


「あー、もう! 困りますっ、困りますってばー!」


 少年、柊木英二は破落戸に追いかけられていた。

 理由は、彼自身の正義感が強すぎたものだろう。破落戸に襲われていた少女を助けるべくちょっと頑張ってみますかーと声をかけてみたのが運の尽きだった。


「もうこれ以上逃げたんだから、別に無視してくれたっていいだろー!」

「うるせえ! 俺たち『番外個体(アウターナンバー)』に逆らってどうなるか分かったものじゃねえだろうな!?」

「それ、ただの逆ギレって言うんじゃないですか!?」


 そんなことを言いながら、一人と数名は走り去っていく。

 そうして柊木英二は何とか路地裏に隠れていき、その先を見ることも無く追いかけていく破落戸を見て漸く彼は安堵の溜息を吐くのだった――。


「ねえ、どういうことよ?」



 ――これで終わりだと思っていたのに。



 どうやら戦いはまだ終わっちゃいなかったようだった。


「あーあ、一応言っておくけれど、さっき私に絡んできた連中は全員黒焦げにしてあるから。分かるでしょ? 私の能力、『発火能力(パイロキネシス)』」

 パイロキネシス。

 火を発生させることが出来る超能力のことだ。超能力ではなく、ここでは『魔法』の一種として知られ渡っていることになる訳だが。


「そもそも。レベル0のあなたに助けて貰ったこと自体が不愉快な訳なのだけれど」

 彼女――黄泉川めぐみとの会話は、別に今回が初めてという訳では無い。

 何度も彼女は破落戸に囲まれているのだ。何せ着ている制服が、この魔法都市で一番のお嬢様学園として言われている純禮院学園(じゅんれいいんがくえん)の制服だから猶更ああいう連中からも絡まれやすいのだろう。


「自覚ぐらいしておけよ、お嬢様。お前は純禮院学園の人間だろ。何かあったら強引にどこかに連れて行かれる危険性だって有る訳だし」

「私を誰だと思っている訳?」

「私は『七人ミサキ』の一人、レベル5の『黄泉川めぐみ』よ。そのことを忘れたとは言わせないけれど」

「…………どこでお会いしましたでせう?」

「はあ。これだから一般人と会話するのが面倒なのよね。特にあなたみたいなレベル0だと」

「会ったことがないならこれにて失敬……!」

「させるものですか、あなたのことを私が忘れたとでも思っている訳?」

「…………忘れてくれてたら、大変有難いことなんだけれど」


 英二はそんなことを呟きながら、ゆっくりゆっくりと歩き出していく。

 しかしそれを押さえようと首根っこを掴んだのは、めぐみだった。


「そもそも、、七人ミサキが何者かってことは分かっているかしら?」

「ええと、何かの妖怪?」


 結局。

 英二はめぐみに首根っこを捕まれたまま近所の公園へと直行する羽目になってしまった。

 公園の遊具では今も少年少女達が笑顔で遊具と遊んでいる訳だが――二人の表情はどことなく重たいものに見える。

 この都市の防犯は二十四時間三百六十五日、『防犯部隊(アンチ・スキル)』が見張っている。だからそう簡単に犯罪を犯すことなどできやしない。


「で? 俺と何がしたくてついてきたんだ。一応言っておくけれど、そういういかがわしいことは遠慮してもらうぞ。お前は中学生で、俺は高校生なんだから」

「ば、馬鹿! 何を期待しているのよ、この変態!! そんなことをしてもらうために呼び止めたわけじゃないんだから!!」


 一応、知識としては持ち合わせているらしい。

 しかしながら、そうでないとするなら、どうして彼女は彼のことを止めさせたのだろうか?


「あなたが持つその力……科学じゃ解明出来ないことだらけよ。人のエネルギーを吸収する? ならばそのエネルギーはどこに消えているというの。さっぱり見当がつかない。そのエネルギーの源がはっきりしない限り、私はついていくと決めたんだから」

「そりゃまた強引な……」

「強引じゃない!」

「あなたの能力は普通の能力じゃない。それは、レベル5の私だって分かるぐらい簡単なおことよ。けれど、『委員会』は一切その能力の評価をしてくれない。それっておかしなことだと思わない? だったらもっと正当な評価をして貰おうとは思わないの?」

「と言われてもなあ……。レベル0であってもこの『都市』に入った時点で充分過ぎるぐらいの厚遇は受けている訳だし」


 そう。

 この都市は中学生から高校生までの若者を大量に集めた人口都市だ。

 その目的は、魔術にも似た『超能力』を開発するため。

 勿論、入るためには試験が必要とされる。その必要とされる試験は世間一般のそれと同じで、実際にこの都市に入らないと素質が分からないという曰く付きのものではあるものの、一度受かってしまえばたとえレベル0――無能力者であったとしても、一日の生活費は指定の銀行口座から振り込まれるし、生活面に困らない施設は多数用意されているし、新たな能力を手に入れるための塾も用意されている。つまり至れり尽くせりの場所なのだ。

 しかしながら、彼は話を続ける。


「実際問題、俺がレベル0だということはどうだっていい。家族と離れられること、それが俺にとって一番有難いことだった訳だしな」

「……家族と何かあった、とでも言いたげな表情ね」

「それをお前に言ったところで、解決するとでも?」

「解決しないでしょうね。でも言うだけなら何か変わるのではなくて?」

「何か変わるかも……か。それ、言われたの二人目だよ」

「二人目? ならあなたのことを心配している人間が他にも居るということじゃない。良かったじゃない、他にもあなたのことを心配してくれる人が居て」

「そういう問題じゃない。そういう問題じゃないんだよ」

「そういう問題じゃ、ない?」


 めぐみの言葉に、英二は頷く。


「そんなことで片付けられるぐらいなら、とっくに悩むのを辞めている! 俺の考えている問題はもっと大きくて、広くて、考えようも無いぐらいどうしようもないものなんだよ」

「……だから、それを考えるのを辞めたらどうかな、と言っているんだよ」

「レベル5だから、そんなことが言えるんだろ!?」


 その言葉に、彼女は感情的になってしまい、そのまま英二の頬を叩いた。


「レベル5だって、レベル5だって……。きちんとした訓練(トレーニング)や脳の研究をして漸く生まれたんだよ! レベル5になりたくてもなれなかった人間がたくさん居る。それは耐性だったかもしれない。それは生まれつきだったかもしれない。いずれにせよ! 私はたくさんの骸の上に立っている。あなたも、それを忘れないで生きなさい。この『都市』に住まうことが出来た時点で、都市に住むことの出来なかった人間の怨念が生まれついているもの、それを理解しなさい」


 言いたいことを言い終わったのか、めぐみはゆっくりと立ち上がる。

 純禮院学園のスカートを翻して、彼女は最後に言った。


「忘れてた。七人ミサキの意味について」

「?」

「七人ミサキは、レベル5が今だ七人しか存在していないから、それに準えて生み出された言葉よ。元は妖怪だと言われているけれど、神出鬼没と言われているから妖怪と言われても致し方ないわよね?」


 そうして。

 めぐみは公園から立ち去っていった。

 残された英二一人は、何をすれば良いのか分からないまま、しばらくそこで座り込むのだった。


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