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馬鹿な後輩と不安要素

わちゃわちゃ回

短めです。

 


 朝からなんだか疲れてしまったが、まだ今日は始まったばかりである。これから大切な入学式が控えているのだ。一度教室に戻り、お嬢様達のお荷物を置く必要がある。安住様の執事も合流して我々は教室へと急いだ。

 お嬢様方の後ろを私と共に歩くこの執事は、少し日に焼けた肌に色素の薄い茶髪がやや特徴的な容姿をしている。そしてコイツは人好きのしそうな笑顔で私にヘラヘラと話しかけてきた。


「お久しぶりっスね、先輩。相変わらずオジョウサマバカやってるっスか?」


「なんだお前は。開口一番失礼なやつだな。」


 安住様のお荷物をぶん投げる勢いで振り回し、締まりのない顔で笑う適当そうな男は、非常に、それはもう非常に不本意ながら私の執事学校時代の後輩である。

 上田樹(ウエダイツキ)、24歳。安住様の執事を任されてからはもう2年は経っただろうか?

 安住様のお屋敷で再会した時は、思わず顔が引きつってしまい珍しくお嬢様から心配のお声を頂いてしまった程私はコイツが大の苦手なのだ。

 何故か執事学校時代はコイツの世話係を押し付けられ、散々な目にあわされたものである。私の卒業と同時にスッパリと縁が切れたと思ったのだが…

 運命、いや呪いの糸で繋がっているのだろうか?

 再会以来何かとちょっかいをかけてくるコイツに頭を悩ませている。



「いやいや、どうかな〜って思ったんス。」


「…お前の言うお嬢様馬鹿というものが何かは知らんが、勿論お嬢様の事は今日も大切にお守りしている。」


 お嬢様への想いは本物だからな。こんなんからの質問でも一応答えてやる。


「それは何より!オレは良いことだと思うっスよ。自分のオジョウサマに誠心誠意仕えるっつーのは。」


「なに人ごとみたいに言っているんだ。お前も安住様に誠心誠意仕えているんだろう。むしろそうしてなかったら…分かっているだろうな?」


「ヒェ〜!痛いのは勘弁っス!」


 拳を握り見せつける形で軽く脅すフリをしてみると、樹は安住様の陰に隠れるように逃げてしまった。

 まったく。執事だという以前に子供の陰に隠れるのは大人としてどうなんだ?


「んは〜、まーた執事クンにいじめられたん?」


「うぇ〜〜ん!怖いっスよ〜!お嬢助けて下さいっス〜!」


「樹が執事クン怒らすような事ばっかするからだよ〜?」


「だって…先輩めっちゃ良い反応するから…」


「ほう…良い度胸だな?」


「あああっ冗談っスよ〜〜!」


 全くコイツは…呆れるほど懲りていない。

 10代の頃ならまだしも、もういい歳なのだからいい加減落ち着いてもいいはずなんだが。


「ふふ、相変わらず貴方達は執事同士仲が良いのね。」


 そう微笑むお嬢様はもちろん愛らしいのだが、その発言は如何なものだろうか。納得がいかない。


「お嬢様、それは些か不本意なご意見でございます。百万歩譲ったとしてもコイツはただの後輩で、それ以上でもそれ以下でもございません。」


「そりゃないっスよ先輩!」


「うるさいぞ、上田。それにお嬢様方の前では私のことは結城と呼べといつも言っているだろう。」


「今更お嬢達は気にしないっスよ!ね!桜子様!」


「え?えぇ、そうね。そんなに知らない仲じゃないのだし、大丈夫よ。」


 あぁお優しいお嬢様…慈悲深いにもほどがある。お嬢様の尊い慈悲の御心をコイツなんかに少しでも注がれると思うと悲しくて仕方がない。


「…お嬢様に免じて今日は許してやるが、その適当な姿勢今度叩き直してやるからな。」


「りょ〜かいっス!先輩!」


 先程までの怯えた表情はどこへやら。

 すっかりまた元のヘラヘラとした笑顔に戻り敬礼のポーズをとっていた。

 コイツやはり反省してないな?





 そうこうしているうちに中等部一年A組に着き、お嬢様のお席を確認する。

 最初は名前順に並ぶようで、お嬢様は廊下側から2列目、前から2番目のお席であった。

 ふむ。黒板もちょうど良いくらいに見やすいし良いお席…ちょっと待て。隣の席、翡翠じゃないか?

 一番端が安住様だとして、次が翡翠…何という事だ。こうなる事は同じクラスになった時に予想できたはずじゃないか。

 まずは冷静な思考でいなければならない。そうだ。お嬢様のお荷物を置いて、落ち着こう。深呼吸だ。スー…ハー…

 春先と言っても少し冷えるからな、式にはブランケットは持って行こうか。


「結城?どうしたのかしら。さっきから複雑そうな顔してるわよ。」


「なんでもございません。お嬢様。こちら本日の式次第でございます。」


「ふぅん、そう?私の執事なんだから常にピシッとしてくれないと困るの。式次第はありがとう。受け取るわ。」


「心配して頂きありがとうございます。」


「ばっ、別に心配してるなんて言ってないでしょう!」


「失礼致しました。私なんぞの為にお心を砕いて下さっているだなんて烏滸がましい事でございました。」


「そこまでも言ってないわよ!もう、大丈夫そうなら式の会場に向かうわよ。ついていらっしゃい。」


「かしこまりました。」


 一部始終を見ていた安住様と樹はなにやらニヤニヤとした顔をこちらに向けていた。


 とりあえず樹は後でシメる。



明けましておめでとうございます〜!

12月ごろから書き始めた今作ですが、まだまだ続く予定なので今年もお付き合い下さると嬉しいです。

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