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プロローグ

 


 ふぅ、と、うろんげに紙風船に息を吹きかける君は、まだ生まれてからほんの数年しか経っていないあどけない少女だった。


 本来ならば、そのこぼれ落ちそうなほどの瞳をキラキラと輝かせてたくさんの友人と駆けずり回っている歳のはずだが、広い広い庭園に彼女はただ1人。


 そして皮肉にも、美しい日本庭園に美しい少女が1人で佇む姿はとても絵になった。

 どこか浮世離れした完璧な彼女の風貌は、人々を遠ざけると同時に魅了していく。


 かくいう自分も、彼女の魅力にやられた1人の凡人に過ぎないのだが。




 …転生者という事を除いて。



 

------------------------





 私、結城修(ユウキ シュウ)は西園寺家に仕える一執事である。私の父も祖父も、それまた祖父も執事を生業とし、幼い頃から見ていた自分は漠然と執事になるのだろうと思い描き、現在に至る。

 身長187センチと無駄に伸びた背以外は、特に容姿が秀でているわけでもない至って凡庸な男であると自負している。友人らには所謂ゆるキャラにいそうなどと言われる事もしばしば。まったくもって失礼な話だ。

 歳は24で、執事学校を卒業してからはもう6年になるだろうか。

 …あの時代の記憶はあまり思い出したくはないな。



 そして西園寺グループと言えば、自社製品で街が作れると言われるほどありとあらゆる方面に事業を展開している、国内有数の大企業である。元々は不動産を営んでいた西園寺家だったが、お嬢様の祖父にあたる源六(げんろく)様がその手腕を発揮しここまでの大企業に仕立て上げたのだ。

 

 自分がお嬢様とお呼びし仕えるのはその西園寺家の1人娘である西園寺桜子(サイオンジ サクラコ)様。御歳12歳でいらっしゃるご令嬢で、自他共に認めるとびきりの美少女である。

 肩まで伸びた黒髪は艶やかで、少しつり目気味の瞳はどこまでも見透かされそうな程に透き通った黒色。白い肌は上等な絹でさえ裸足で逃げ出す程に滑らかで美しい。

 私がお嬢様を語り出すと、一日だけでは足りないのでここまでに留めておこう。


 自分が転生者であると自覚をしたのはいつであったか…。遠い昔のような気もするが、ついこの前だったような気もする。さして重要な事でもないと思っている為か、そこら辺の記憶が酷く曖昧で、自分でもいつか、などとは明確には出来ないのだ。


 ここで重要なのは私がいつ転生者という自覚を持ったか、ということはなく、何のために転生したかという事だ。


 前世での私は、ごくごく一般的な家庭に生まれた男子高校生であった。家族仲も良く、高校3年の春にトラックに跳ねられた事を除けば、とても幸せな人生であったと言えるだろう。特に歳の近い妹とは良くゲームをして遊んだものだ。


 今となっては、その経験に感謝しても仕切れないな。


 おっと、物思いにふけっていたら結構時間が経ってしまったな。


 こうしてじゃいられない。今日も今日とて、私には朝からの大切な使命があるのだ。


 そう!

 可愛らしくも愛らしい麗しの我がお嬢様を起こしに行くという使命が!


 自らの懐中時計を見ると、時刻は午前7時。

 お嬢様がお出かけになられるのは8時15分である事を考えると、そろそろお目覚めになられた方が良い時間だ。


 磨いていた食器を片し、キッチンからお嬢様のお部屋へと向かう。急ぎ足になってしまうのは、一分一秒でも早くお嬢様にお会いしたいという卑しい自分の欲からであろうな。


 ドアの前で一息つき、コンコンとノックをする。

 返事がないのはいつもの事であるので、遠慮なく扉を開けると天蓋付きの可愛らしいベッドで眠られているこれまた可愛らしいお嬢様がいらっしゃった。


 今日も一日良い日になりそうだとお嬢様の寝顔を拝みつつ、心を鬼にしなければと自分を奮い立たせた。


「お嬢様、起きて下さいませ。朝でございますよ。」

「んぅ…嘘…嘘よ…」

「嘘ではございません。もう7時過ぎでございます。朝食を召し上がるお時間がなくなってしまいます。それに、本日は大切な日でございましょう?よろしいのですか?」

「それは…困るわ…」

「でしょう?それでしたら、起き上がってお顔を洗って来て下さいませ。」


 寝ぼけ眼をこすりながらぼんやりと起き上がったお嬢様に傍に用意した蒸しタオルを手渡す。


 お嬢様は段々と覚醒して来たのか、しっかりとした足取りでベッドを降り洗面台へ向かっていかれた。


 着替えなど、後はお嬢様付きのメイドである前田に任せるとして、一先ず自分の役目は終わりである。


「お嬢様、私はこれで失礼致しますね。お支度が整われるお時間にまた伺います。」

「えぇ。そうして頂戴。」


 ツンとおすましになられたお嬢様もまた愛らしい。


 つい緩みそうな頰を叩き自分を叱咤する。

 私は気を引き締めなければならないのだ。

 今日はお嬢様の晴れ舞台。中等部の入学式である。

 だが、それ以上に自分が最も気を引き締めなければならない理由がある。







 乙女ゲーム『華咲く乙女の歌姫』の『悪役令嬢・西園寺家桜子』としてお嬢様が成長するのを阻止するという役目が待ち受けているという理由が。








悪役令嬢もの、一度描いてみたかったので挑戦してみました!ツンデレなお嬢様が死ぬほどタイプなのでこういうキャラ好きだなぁと思いながら作っていく予定です。


お話のストックも何もなく出来たらアップする方向ですので亀更新になるかと思いますが、お付き合い頂けましたら嬉しいです。

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