第三章 『旅に出る、そして…』
広場から離れた俺は、一度家に戻った。その後、朝まで待って支度を始めた。勿論、この街を出るためだ。
「……この街にいるといつかは混血種の捜索が始まる。まずは街を出て体制を整える。」
いずれはここに戻ってきて、今回の件の犯人を見つける………。そして相応の報いを受けさせる。だが、そのためには力が必要だ。
「ステータスがあるからには、上昇させられるはず。復讐はそれからだ。」
カバンに詰められるだけ服と食料を入れ、閉じる。きっとこの家にはもう戻らないから。ローブのフードを目深にかぶり、家を出た……。
「……とりあえずはこの街を出なければ始まらない。ただ、問題はどうやって関所を通るか……だな。」
関所には確実に誰かいるだろう。顔を見られるのは……いや、姿を見られるのもアウトだ。
「これは早速だな……。」
路地を歩きながら、どうやって関所を通るか考える。
(今の俺が使えるのは生活魔法のファイヤだけ。とてもじゃないが強行突破は無理だ。)
気付けば関所の近くまで来てしまった。考え事はここまでだ。
「何か良いものは………………あ!」
関所の近くに馬車があった。……気を引くには良さそうだな。こっそりと、関所の兵士に気付かれないように馬車に近づく。そして小声でファイヤを詠唱………発動させた。ファイヤで発生した火が馬車に燃え移るのを確認して………。
「大変です!馬車に火が!!」
………と叫んだ。
「な!?何だと!?」
兵士が慌てて関所から飛び出してくる。今だ。俺は兵士の隣を通り過ぎ、小走りで関所を抜けた。そのまま走ってその場を離れ、街道に出た……。
「………ふぅ~……なんとかなったな。さて、ここからどうするか。」
とりあえずは他の街……なるべく治安が良く情報集めがしやすい街を探そう。出会った人には声をかけて良い街探しだ。そう考えながら、街道を歩いた………。
……数時間後……。
「……ん?あれは馬車か?」
道から逸れたところに馬車を見つける。馬車の近くには四人ほどの人が見える。
「……少し話かけてみるか。」
歩いて馬車の方へ向かう。近づくと四人の様子が分かってきた。一人は御者で、それと話をする高齢の男女……あとは用心棒だろうか?剣を持っている男だ。
「あの、こんにちは。」
「ん?あぁ、こんにちは。君、こんなところでどうしたんだ?」
用心棒のような男が応えてくれた。
「えっと、事情があって旅をしている者です。皆さんはここで何を?」
「あぁ、ちょっと魔導馬車が壊れてね……見ての通り、修理してるんだ。」
「魔導馬車?」
知らない単語が出てきた。
「まぁ、魔力で動く馬車みたいなものだ。」
「へぇ~!」
「今は、ちょっと魔力切れを起こして止まってるんだ。」
御者と老夫婦の会話を聞く。
「どうです御者さん?動きそうですか?」
「すみませんが、魔力を込めるのには少し時間が掛かりそうです。私自身もそこまで魔力が多い訳ではないので……。」
「気にしないでください、修理お願いします。」
どうやら芳しくないらしい。
「はぁ、護衛依頼…………少し長引きそうだな……。」
「えっと、魔力を込めたら直るみたいですけど。」
「まぁ、そうだが人間自体あまり魔力に特化した種族ではないからな。時間が掛かるって訳だ。」
「…………。」
(そういえば、俺の魔力って99999だったような………。)
「良かったら直しましょうか?」
「はぁ?おいおい、お嬢ちゃん。君はまだ子供だし、無茶をするもんじゃないぞ?」
「大丈夫ですよ。母がエルフだったので。」
そう言って馬車に近づく。
「御者さん、何処に魔力を込めるんだ?」
「え?………うーん、本当に大丈夫なんだね?」
「はい。」
「じゃあ、ここの紫色の石に込めてごらん。」
馬車の車輪に埋め込まれた石に触れる。
(込める魔力は………200あれば十分かな?)
魔力を込める。………すると石が透明な色に変色した。
「えっ!?なんだこの透明度は!?」
突然、御者が声を上げる。
「どうかしたんですか?」
「………す、少しその魔石に触れても良いかい?」
「え?どうぞ。」
御者が馬車に近づき、魔石と言われた石に触れる。
「………な、なんて魔力量だ。君、一体いくら魔力を込めたんだ……?」
「確か、200ほどですけど。」
「「「「200!?」」」」
何故か俺以外は滅茶苦茶驚いてる。
(あれ?もしかして200でも多いの?)
「あ、ありがとう!これでこの馬車はあと100年は走れるよ!」
御者が歓喜する。どうやら込めすぎたらしい。
「あ、あの出来れば乗せてもらえると………嬉しいです。」
「まぁ、街まで遠いし、私たちは良いですよ。」
こうして、なんとか魔導馬車に乗せてもらえることになった。