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その3

加筆や修正を行いました。





「はい、先生もどうぞ」

「ありがとう」


 大皿から取り分けた料理を乗せた小皿が、回ってくる。

 今夜は教師仲間との飲み会。人数が多いので幾つかのテーブルに分かれているが、 気が置けない仲間との一夜。いい夜になりそう……。



 隣がスターリンでなければね!



 端っこの席が好きな私は、来て早々左側が壁の席を陣取った。その正面に座ったのは、学生時代クラスメイトでもあった、男性国語教師のファブラ・オストール。斜め前には料理を取り分けてくれた、女性教師のリューシェン・カヤル。

 二人以外にも四人ほど同じテーブルについているが、今日は彼らについては、省略させてもらう。


 そしてなぜか、私の唯一の隣に座ってきたのが、エクサム・スターリン。あの私にケンカ売ってんのか、な歴史科教師。

 他のテーブルにも空いている席はあったのに、なぜここへ来たの? コーネリアのことで、また文句でも⁉ こんな飲み会の席で、彼女についてグチグチ言われるのは嫌なんですけど。

 それとも報連相を怠ったのは悪かったと気がつき、謝罪したいとか?


 ……そうね。謝罪だとしたら、私も歩み寄りましょう。許し許されることって、大切だものね。


「先生、先日の火龍はすごかったですね」


 まだ一杯目も飲み終わっていないのに、顔を真っ赤に染めたオストール先生が言ってくる。この人はお酒好きなのに、すぐ酔いが回るのは、何年経っても変わらない。


「先生は学生の頃から、魔法使いとして優秀でしたね。魔力値は強大だし、具現化も得意だし。コーネリア・ヴァーロングも天才ですが、先生は次元が違いますよ。言うなれば……。よっ! 超天才!」


 完全に酔っ払っているが、人気者のオストール先生の言葉に皆で笑う。

 思えば私の魔力値はかなり高い。これが所謂、転生者チートなのかもしれない。

 だけど転生者なんて、前世思い出してなんぼでしょう? 今ごろ前世を思い出してもねえ……。本当、なんで今さらなのかしら。


「うちの奥さんも買い物帰り、校庭上空に出現した火龍見て、すぐに先生が術者だって気がつきましたよ」

「オストール先生、奥様はお元気?」

「元気、元気! 元気すぎて困るよ」


 オストール先生との奥様も私の同級生。クラスは違っていたし、親しくもなかったので、顔を見知っている程度だけど。


「そういえば私、皆さんにお知らせすることが……」


 カヤル先生が、もじもじと体を揺らす。

 自然、テーブルについている全員の視線が彼女に向けられる。そして誰もが、次の言葉を待つ。


「実は私……。来年結婚することになって、今年度で学校を辞めることになりました!」


 少し間をためそう告げると、指にはめた指輪を結婚記者会見のように見せてくる。


「おめでとう!」

「相手は例の彼氏? アンタ、結婚したがっていたもんね!」

「どうりで! 最近ますますキレイになったから、おかしいと思っていたんだよ! 本当におめでとう!」

「良かったわね、幸せになってね」


 わっと場が盛り上がる。こういう幸せな報告は、いつ聞いてもいいものだ。

 それからしばらくカヤル先生の相手や、来年の結婚式について、女性を中心に盛り上がる。その会話が落ちついた頃、いきなりカヤル先生が私に質問をしてきた。


「イサーラ先生は、結婚の予定とかは? 今は相手いないんですか?」


 今もなにも、前世もだが、私に相手がいたことはない。年齢イコール彼氏なしですが、悪いですか? とは言えないので……。


「予定はないわね。私は教師として人生を全うするつもりだし」

「えー、もったいないですよ! 先生キレイだし、魔法使いとして優秀だし……。相手いないんですか? だったら意外と近くに、いい相手がいるかもしれませんよぉ?」


 ……なにかしら。カヤル先生を含め、何人かが意味ありげな視線を送ってきているような……。


「期待にそえなくて悪いけど、私、結婚に興味ないから」

「えー、いつもそれですよね! 本当に興味ないんですかぁ? じゃあじゃあ、どんな男性が好みなんですか? イサーラ先生のタイプ、気になる!」


 リューシェン、今日は一段としつこいわね。

 本当、前世も今世も、恋愛に興味がないし。特に前世は推しに対する萌えが世界の中心で、現実など、どうでも良かったし。


「あー。イサーラ先生、昔好みの男について語ったことがありましたよねぇ」


 すでにベロベロに酔っているオストール先生が、顔を机につけたまま言い出した。途端に詳しく聞かせろコールが起きる。


 ……え? ちょっと待って。バカ、酔っ払い! 言うな、言うんじゃない! どうか言わないでください!


「えっとね……。もう十年くらい前なんだけどさぁ、珍しくイサーラ先生が酔っ払ってね。その時に言ったんだよ。好みのタイプは、黒髪、釣り目、軍服の似合う人で……」


 あああああ‼ その口を縫い付けたい! 今すぐ脳からその記憶、消去したい!


「ええ⁉ 具体的!」

「そんな人とお付き合いを⁉ その時の彼氏、軍人だったんですか⁉」


 なぜか場がざわめく。そしてなぜか、寒気もする。これは今から言われたくないことを、ファブラに言われるのが分かっている寒気なの⁉

 と、とにかく、誤魔化さなくては。オストール先生は、どうぞいつものように寝てください。


「え、ええ。でも当時の話だし、酔っ払っていたし、実際とは違っていて」

「えー、具体的だったじゃないですかぁ。普段はぼんやりとしてダメ人間なのに、夜になると闇に紛れるマントをひるがえし、悪徳人をこらしめ、そいつらの家から金品を盗み、弱き人を助ける義人だって……。そう、ヒーローみたいな!」


 言った! この酔っ払い、全部言った! 本気でぶん殴ってでも、止めれば良かった!


 なぜ私がこんなに慌てるかって? その理想の男性は、前世で見ていたラノベ原作のアニメに出て来る登場人物! つまり、前世の推しだから!


 あの時私は酔っ払っていた。そこで理想の男性を聞かれ、思いついたことを口にした。後から一体あれは誰のことだったのか、不思議に思ったけれど、当時は全く見当つかなかった。

 今思えば萌えが魂に刻まれており、それが酒の力で呼び覚まされたのだろう。そして、つい口を滑らせたと……。


 それにしても……。


 ああ! 無言が痛い! どう聞いても現実の人じゃないって、ばれている!

 人生半分生きてきて、今もそういう理想だと思われていたら、痛い人間だと思われる! これ、世界変わっても共通ですからね⁉


 私は咳払いをすると、ニコリと笑う。


「当時大好きな小説があってね。マイナーな小説だから、皆は知らないと思うけれど、かなりハマっていて、ついその登場人物を言ってしまったのよ。酔っ払うとへんなことを口走るから、困るわよね」


 嘘です。前世のラノベです。アニメ化した人気ラノベです。だから皆が知らないのは、本当です。


「もちろん今は違うわよ? 理想というか……。本当に興味がないの。だから理想はないのが理想で……」


 言えば言うほど泥沼……。誰か助けて……。

 あっ! オストール先生! 言うだけ言って、今ごろ寝るなんて! この空気、どうしてくれるのよ!


「あ、ああ。小説ですか」

「分かりますよ! あの……。ほら、登場人物に憧れる時って、ありますよね! 現実より素敵に描かれるし!」

「イサーラ先生、本が好きだしね。それだけ夢中になれる作品に出会えるって、いいですね」


 皆のフォローが痛い! 笑ってくれていいんですよ⁉ むしろ笑ってください! そんな風に気を使われるのは、逆に相手を傷つける場合があるんですよ!


「……先生って」


 それまでほとんど口を開かなかったスターリンが、じっと私を見て笑う。


「な、なにか……?」

「恋愛観は幼稚なんですね」


 誰かこの人をぶっ飛ばさなかった私を、ほめてください。

お読み下さり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 6話までまず読みました! イサーラ先生、実は魔力チートだったのですね。 5話でコーネリアが実はきちんと魔力操作できることが分かってしまったので、「ほんとによろしくない子なのかな……」と思…
2019/12/04 09:18 退会済み
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