エピソード一つ目~2~
修正内容:加筆修正を行いました。内容に変更はありません。
「なにを企んでいるかは知らないが、ああいう生徒には、お仕置きが必要だと思わないかね? 方法は任せる。格の違いを見せつけ、黙らせろ」
落ちついているように見えたが、校長もご立腹らしい。聞かなくとも私の返事を分かっているのか席に戻り、校内放送の準備を始める。
「承知しました」
それにしても、企みねぇ……。王子にアピールとか? 実は彼女も転生者で、マンガ通りにことを進めようとしているとか? まさかね。それこそマンガやラノベじゃあるまいし。
原作マンガでは、ヒロインの暴走した水龍が学区外へ出させないように、複数人の教師が相手をしたけれど……。これくらいなら、私一人で問題ない。
あら? そう考えると、マンガの中では私、どこにいたのかしら。モブ一人に対処されないよう、敢えて登場させなかったとか?
………………。
考えても答えが分かる問題でもないし、まあいいか。それより早く向かおう。
「窓から失礼します」
そう言うと窓を開け、そのまま外へ飛び出す。
もちろん風魔法を使い、空を飛べるからできる芸当。魔法がない前世だったら、間違いなくそのまま地上へ落下し、人生終了だ。
「全校職員、生徒に告ぐ。校庭で発生した事案についてだが、問題ない。全員落ちついて、そのまま勉学に励め」
魔法を使った、校長の校内放送が響き渡る。
さて、『校庭のことは気にせず、授業に集中せよ』と、『これから起きることを見て学べ』という意味、どちらが正解なのかしら。
校長のことだから、どちらを選んでも正解と言う気がする。
校内放送はコーネリアの耳にも届いたようだ。
空を飛ぶ私の姿を確認すると、こちらに向かって水龍をけしかけてきた。
えー? 教師を、ロックオンですか? うわぁ、すっごい目で睨まれている。可愛い顔が台無しよ。
担任に水龍を差し向けるとは、ヒロイン様は違いますねー。モブの私なんかと、発想が違いますねー。本当……。
いい度胸ですね?
コーネリア。貴女のニシキヘビレベルの水龍なんて、私の敵ではないの。
「赤き炎よ、我が声に応え、その姿を現せ」
私の体内に流れる魔力が放たれ、炎の龍へと変化する。その大きさは水龍の十倍以上。もちろん熱量も大きさに比例するので、触れば火傷どころか、一瞬で黒焦げになり即死するレベル。
どよめきが校庭から起きる。今ごろ校舎の中も大騒ぎだろう。
火と水。普通なら、火は水に弱い。だけど龍のサイズも、魔力の大きさも、圧倒的に上回れば関係ない!
私の火竜は水龍に向かいながら大口を開け、飲みこもうとする。
コーネリアがより魔力を注ぎ、水龍の力を増して、負けまいと抵抗しようと試みるが、遅い!
水龍の顔に食らいついた瞬間、火龍が大きな口を閉じる。途端に、水龍の全身が蒸発するよう、消えていく。魔力の打ち合いにコーネリアが負けたことを、意味する。
火竜に再び口を開けさせ、騒ぎの元であるコーネリアへ向かわせる。
「ちょっ……。まっ……。え……? 嘘でしょ⁉」
顔を引きつらせ、なにか魔法を出そうとするが、さすがの事態に追いつけないらしい。コーネリアの魔力は具現化することなく、霧散する。
魔法として発動できなかった魔力は霧散し、無駄に魔力を減らすだけの結果を生む。
どうにもならないと悟ったのか、コーネリアは頭を抱え、その場にしゃがみこむ。せめてもの防御だろう。
火竜はコーネリアを飲みこもうと近づくが、直前でその姿を消す。私が魔力を流すのを止め、消したのだ。彼女を殺す気はない。ただ、『おいた』をした彼女に、二度とこんな真似をさせないよう忠告の意味をこめ、脅しただけ。
コントロールし、火や熱は火竜本体にのみまとわせ、近くにいるだけでは影響はない。触れた時にだけ、影響を受けるようにした。
だから無傷のコーネリアは、いつまで経ってもなにも起きないので、恐る恐る顔を上げる。そして火竜の姿が消えたことに気がつくと、驚いて立ち上がる。
何度も辺りを見回し、本当に火竜がいなくなったのか確認している。
完全に火竜が消えたと分かると、空に浮かんでいる私に向かって叫んできた。
「先生! 危ないじゃないですか! 私が火傷したら、どう責任をとるつもりだったんですか⁉」
……あなたがそれを言いますか?
クラスメイトを水龍で怯えさせておきながら、なんと勝手な言い草。
校長、申し訳ありませんでした。ヒロインを黙らせることなど、私には無理でした。どうやら彼女はヒロインなだけあり、いろいろ規格外のようです。
ああ。今ここで彼女をぶっ飛ばせたら、スッキリするだろうな。やらないけど。
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