番外編~コーネリアの進路~
さすがにコーネリアも緊張しており、器用に右手と右足、左手と左手を同時に動かしながら歩いている。
私も面識があるとはいえ、さすがに城へ呼ばれ国王陛下と謁見となれば緊張しているので気持ちは分かるけれど……。落ちついてちょうだい、コーネリア。
「本日は急に呼び立て、すまないね」
国王はにこやかに声をかけてくるが、緊張が続くコーネリアは……。
「は、はひっ」
言葉がもつれている。ゼーハー言っているし、この子、過呼吸で倒れないかと心配になる。その点メーテルは流石ね。落ちつきを崩さず堂々と立ち、むしろこの場に馴染んでさえいる。彼女は公爵家に産まれ、王子の婚約者に選ばれずっとこんな世界で生きているから当たり前かもしれないけれど、将来王妃になるだけはあるわ。
この場には国王だけではなく魔法省管轄、魔法研究室の室長シェルール・サントリッグや軍のお偉いさん方も多く同席している。
一体なぜ今日私たち三人がこの場に呼ばれたのだろう。説明なく呼ばれたけれど、おそらく教師と生徒ではなく、『魔法使い』として呼ばれたのだろう。
「先日、隣国の王が病死したことは知っておろう?」
「はい」
私とメーテルは即答するが、コーネリアはキョトンとする。瞬きを繰り返し、ゆっくり首が傾いていく。まさか知らないの? 少しは時事に目を向けなさい! この子は本当にもう……! 後でお説教ね。
「……隣国の国王が亡くなり、その息子が新しい国王となられたのだよ」
コーネリアの様子に気がつき、同じく一緒に参城した校長、クリーク・セリオースが小声で教えるとコーネリアはやっと頷く。
「その新しい国王というのが、ちょっと面倒でね」
そう言うと国王は手を組み、はあと息を吐く。
「たいした兵力を持っていないのに、国土を拡大すべきだと声高に言い出し、我が国へ攻める計画を立てている」
隣国はさほど大きな国ではないが、自然豊かな土地。特に困っている様子もなく、どちらかといえば平和主義なイメージ。農産物を隣国などへ輸出することで経済を回しているはず。それが領土拡大を狙って戦争? 利己的すぎる。トップが変わるだけで国の方針も変わるのだと改めて思う。
「我々としては無意味な殺生は避けたい。つまり戦争回避だ。そこで君たちにお願いがある」
にこりと国王は笑う。あ、なんとなく呼ばれた理由が分かったわ……。
◇◇◇◇◇
隣国にほど近い町はずれの草原で距離を開け、コーネリアと対峙している。
「先生、本当にやるの?」
「陛下の命令よ、やるの。それに……。本気の魔法でのぶつかり合い、一度はやってみたくない?」
私やコーネリアの魔力値は高いので、普段は抑えて魔法を使っている。全力解放で魔法を使用できる機会はそうそうない。知の精霊相手くらいしか、全力を出せる相手はいないと言ってもいい。だけど相手が自分と同等の魔力値を持っているのなら、遠慮する必要はない。
陛下の命令はシンプルなもの。
私とコーネリアという、強力な魔力を持つ魔法使いが二人もいることを隣国に知らせ、格の違いを見せつけ戦意を喪失させる。だからこの人気のない草原で、これから二人で魔法をぶつけ合う。
もちろんこの情報は隣国へ漏れる手はずとなっており、今ごろ彼らもどこからか私たちを偵察していることだろう。
私とコーネリアの魔力値がどれほどのものか調査を行うという名目だけど、強力な魔法使い同士が魔法を披露する。牽制だと分かっているからこそ、相手も必ず見に来るはず。戦争を挑む相手の力量を計るのも重要だもの。
フォルデング王子と敷物の上で並び座っているメーテルがなにかを王子に囁くと、そちらに向かって二人は手を振る。ああ、なるほど。隣国の偵察隊はそちらにいるのね。
メーテルは魔力を感知する力と防御魔法に優れている。おそらく隣国の偵察隊が遠距離から私たちを観察する魔法を使用しているので、感知したのだろう。
早速偵察隊へ向け、見ていることと気がついていますよと、手を振ることでアピールしたのだろう。これで一段階、相手の戦意にダメージを与えられたはず。
§§§§§
「……おい、あいつらこちらへ向けて手を振っているぞ? あれは我らへのアピールなのか? 我らに気がついているのか?」
「陛下、その可能性は多いに考えられるかと……。なにしろフォルデング王子の婚約者、メーテル・リヴィーリオの魔力感知は素晴らしいものという評判でして……。遠視魔法で偵察しているので感知されたかと……」
「こんなに距離があるのにか⁉」
「はい、ですからこの国に攻めるのは危険だと……。刺客や密偵を放っても魔法を使用すれば、すぐさま見破られる可能性が高く……」
§§§§§
今度は私たちの番ね。さあコーネリア、私たちの力を彼らに見せつけてやりましょう。
「白き翼よ、力を放て」
呪文を唱えた直後、白いドレスのような換装服になり周囲に百本の剣を出現させる。
「だったら私は……。変身‼」
コーネリアは目の大きな二頭身ほどの青いネコの姿となった。
§§§§§
「……なんじゃ、あの奇怪なネコの姿は。二本足で立ち上がっとるぞ」
「本人はかわいいぬいぐるみのつもりではないのか?」
「青いぞ、かわいくないじゃろ」
様子を見学に来ているシェルールとクリークの好みではないが、そのネコの姿にメーテルは心当たりがあった。そう、前世で読んだマンガのキャラである。
§§§§§
変身魔法を使いながら鍵を出現させ掲げるコーネリア。え? ネコで扉を開くの?
「開け! ……えっと……」
……この子のことだから、呪文を忘れたに違いないわね。
「牛の門!」
違う‼ 呪文が違うわよ、コーネリア‼
しかも出現させたのは本当にただの四足歩行の牛だし! モーと叫びながら、ただ向かって来る牛なんて……。
なめているの?
「あー‼」
冷めた目であっさりと数本の剣を使い斬り倒す。
「私の牛がぁ‼ 頑張ったのにぃ‼」
牛と剣は魔法で作った存在なので相殺され消えた。
ただの牛がモーを言いながら向かってきても怖くないわよ。これでは陛下の思惑外れになる可能性がでてきたわね……。
§§§§§
「魔法で変身して、鍵と牛を出せるレベルの魔法使い、我が国にいるか?」
「あ、いえ、おりません……。通常変身魔法で多くの魔力を割き、出せてもつまようじくらいで……」
「百本の剣を出すのは⁉」
「つまようじ……。いえ、針レベルでしたら恐らく……」
「負けておるではないか⁉」
「ですから皆、開戦に反対して……」
「ええい! もにょもにょ言わず、はっきり言わんか!」
§§§§§
「これならどうよ! 開け! 水の門‼」
今度は瓶を持った額丸出しの女性を登場させ、その瓶を振り大量の水を向かわせてくる。
うんうん、今度は原作に近いわね。また呪文が違うけれど。
私は私で水の流れに逆らいながら何本もの剣を進ませるが、水の流れで抵抗しているコーネリア。
そうよ、その調子よ! これなら陛下の思惑通りになるわ!
§§§§§
「ふむ……。噂通り素晴らしい魔力値。攻撃魔法としてもレベルが高い。もし変身していなければ、もっと強力な洪水を発生させられたでしょう。サンドリック室長、あれほどの貴重な人材でありながら、本当にいらないのですか?」
軍上層部、人事権に強い発言力を持つレゾンが尋ねるとサンドリックは答える。
「いらぬな。だってアイツ、馬鹿じゃもん」
「魔法科目も実技は抜きんでているが、魔法陣や魔法公式になると毎回赤点スレスレだ」
クリークが持参しているコーネリアの成績表に目を通し、レゾンは唸る。
「うーむ……。魔法に比べ、座学が極端によろしくありませんな」
「ただ魔力が高いだけでは研究者になれんからな。術式、魔法の組み合わせ、思考力も必要となるからな。だから室長としていらぬ人材だと判断した訳じゃよ」
「担任のマジェス・イサーラもそれが分かっているので、頭脳より魔法使いの資質を求める軍なら、力を活かせると考えているが……。本人がなぜか軍への入隊を頑なに拒んでいる」
「ふむ……。これだけの逸材が軍に入隊したと知られれば、隣国も槍を収めるでしょう。戦うには厄介だと。国内の犯罪者にも存在自体が脅威となりましょう」
ここまで話している間に、一度双方の魔力が霧散する。相討ちだった。
§§§§§
変身魔法を解いたコーネリアは、あの構えを見せる。そう、誰もが一度は使ってみたいと思う、国民的アニメのあの必殺技! 私も一度使い、前世からの夢が叶ったと喜んだものだわ。
「か~め~……」
それなら私は……。同じ掲載雑誌の別作品の主人公が使う技よ!
右腕をつきだすと左手で手首を掴み、人差し指に魔力を集中させて光らせる。もちろん霊力ではなく魔力だけどね。
「破!」
二人とも集中させた魔力を放出させ打ち合う。
§§§§§
「え? あれだけの魔法を使用した後でも、これだけの魔力で打ち合えるの? 我が国にそんな人材はいないのだろう?」
「はい……。あれだけの魔力を持つ者は、そうそう生まれませんでして……。なぜ同年代に二人もの逸材が同国に出生したのか……」
「不公平ではないか!」
「はあ、まあ……。しかしそういうことは、我々にはどうしようも……。…………本当この馬鹿国王は………。神の領分に人間が口出しできる訳ないだろが」
「なにをもにょもにょ言っている! 我にも聞こえるように言え!」
「先生の魔法はやはり素晴らしい。メーテル、君の同級生も引けを取らぬな。将来が楽しみな人物だ」
自身の描いたマンガと違い、ここでようやくコーネリアに興味を持ったフォルデングの言葉にメーテルは笑顔で頷く。
「ええ、素晴らしい魔法使いとなるでしょう」
フォルデングがコーネリアに興味を抱いても、メーテルは恐れもせず気にならなかった。
今はピンクのジュエルスターで作ったお揃いのブローチが互いの胸で輝いているから、なにも不安に思うことはない。
「いつかイサーラ先生を抜かすかもしれませんわね」
「そのような誇れる民が多いと、彼らに負けぬよう私たち王族や貴族も頑張らなくてはな」
「ふふっ、そうですわね。ではフォルデング様、私もそろそろ……」
「ああ、怪我をしないように」
立ち上がる前に肩を抱き寄せられ、軽く頬に唇を落とされる。
「ご心配ありがとうございます。でも私の力をご存じでしょう? 大丈夫ですわ」
§§§§§
連続して魔法を使ってもコーネリアは息切れを起こしていない。やはり魔法使いとしては素晴らしいわね。これで座学も問題なければ、室長も研究員として欲しがったでしょうに。つくづく惜しい子ね。
サンティーが頑張って勉強を教えていて成績は上がってはきているけれど、それでも苦手なものは苦手らしく、どうにも劇的には伸びてくれない。
「お二人とも、手慣らしは終わられましたか?」
ドレス姿のメーテルが髪をかきあげながら近づいてくる。
「ばっちりよ」
やる気満々とコーネリアは両手を打つ。
「では全力で攻撃してきて下さい。私は防御や霧散を得意としていますので、心配は無用ですから」
「本当? メーテル様、今の言葉を後悔しないことね!」
びしぃ! とメーテルを指さすコーネリア。
またこの子は……。どっちがヒロインなのか分からない発言をして……。
特にメーテルは防御魔法が素晴らしく、この国で最高峰として名前が挙がるほど。でも他の魔法はからきし駄目。例えば火の球を出し飛ばしてもコントロールが効かず、明後日の方へ飛んで行く。どこへ飛んでいくのか分からないので、魔法の実技授業では級友たちに恐怖を与えているほど。
「出でよ、水の龍!」
コーネリアが右腕を掲げ叫べば巨大な水龍が出現する。初めて校庭で見せた時より大きい。腕を上げたわね。
「輝き稲妻よ、我が声に応えその姿を現せ‼」
水龍に合わせ、私は雷の龍を具現化させる。
二匹の巨大な龍を前にしてもメーテルは笑みを浮かべたまま動じない。
「いけえ‼」
コーネリアが掲げた腕を振れば、ドン! と空気を震わせ、水しぶきを散らしながら水龍は真っ直ぐメーテルへ向かう。私はそんな水龍と自分の出した龍を重ね、さらに強力な魔法になるよう魔力を注ぎこむ。
「合体せよ‼ 水の流れにその力を宿せ‼」
雷……。電気は水を通す。重なった二匹の龍は一匹になるとさらに巨大化し進む。
「守れ」
対するメーテルは涼しい声で手を使い円を描く。
ただそれだけで目には見えない巨大な防御壁が展開されたと分かる。防御壁が大きく膨らみ、龍の行く手を阻むよう前進を始める。
私たちの魔法とぶつかれば、バチバチと火花が散る。
「くうううう‼」
コーネリアがさらに魔力を注ぎ勢いを上げ前進させようとするが、防御壁にはヒビすら入らない。
「進め! 炎の槍‼」
私は槍の形をした炎を具現化させ、防御壁が展開していない方向からメーテルへ向かわせる。
「守れ」
また手で円を描き、メーテルはあっさりと槍を霧散させるが……。
「⁉」
その時初めてメーテルが驚いた顔を作り、その場からとん、と飛んで後退する。瞬間、彼女の立っていた場所の土が盛り上がり、先端を尖らせ伸びていく。
「まあ、流石です先生。炎の槍で陽動させ、地面の下からも攻撃をしかけてくるなんて。それにこれだけの膨大な魔力が至る場所に溢れている中だと気づかれにくい。でも、私には分かりますわ」
彼女なら避けられ大丈夫だと思ったから使った訳だけど……。こうも効かないとは、少し悔しいわねえ。
「さて、終わらせましょうか」
大きく円を描くメーテル。
「霧散‼」
大きな魔法が向かって来る! 今度は目に見える形で、あの姿は……!
パックパックと敵を食う黄色いヤツの形をしており、パクン。と、龍を飲みこんだ。
ええ⁉ よりにもよって、それで……?
がくりと私は両手と膝を地面についた。
§§§§§
「……なあ大臣。平和に友好に他国と交流を続けるのが先代の……。いや、代々の国王の願いだと思わぬか?」
「私もそう思います‼」
§§§§§
国王の思惑は果たされたらしい。メーテルが隣国の偵察隊は撤退したと皆に告げる。
それに安堵していると、レゾン様が両手を広げ近づいてくる。
「素晴らしい。噂には聞いていたが、これほど強力な攻撃魔法を連続して使えるとは。防御面はどうですか?」
レゾン様に問われ、メーテルには及ばないが他の生徒より優れていると伝える。それを聞くと満足そうに頷き、コーネリアへ向き合う。
「コーネリア・ヴァーロング殿、ぜひとも卒業後は軍に入隊して頂きたい」
「え? でも、私……。肉体を鍛えるのはちょっと……。腹筋とか走りこみとか無理だし……。砂袋とか抱えて走るなんて、無理……」
コーネリアの返答を聞き、なぜこれまでコーネリアが軍への入隊を拒んでいたのか理解する。
この子……。前世の軍のイメージを持っているわね。本当に今の世界の常識が欠落しているというか……。少しは世間を知る努力をしなさい! とつい数日前にお説教したばかりなのに……。
「コーネリア、確かに入隊すれば最低限の体術訓練は行われるわよ? だけど走るより魔法で飛ぶ方が早いし、剣で襲うより魔法で遠方から攻撃する方が安全でしょう? もちろん至近距離で避けられないよう企む輩もいるけれど……」
「つまり極端な腹筋や走りこみなど、肉体を鍛えるような訓練はほとんど行っていませんのよ?」
メーテルと二人で説明すれば、あんぐりと口を開けるコーネリア。
「それにあなたほどの魔法使いなら、首都の防衛を担う隊に所属されるでしょうから、キティアと離れることもないわよ。多分」
「まあ、そうですな。やはり首都は国の要。そこに住まう王族を守るため、優秀な魔法使いを配置することが多いですし」
レゾン様も否定されない。
「え? え? じゃあ、なんか担いで走ったり木刀を振り回したり、ほふく前進の練習をしなくてもいいの?」
「全くしない訳ではないが、ほとんどないな。それより魔法の訓練に重点を置いている」
「じゃ、じゃあ……。首都に住んだまま、就職できるの?」
「寮もあるが、自宅が首都にある者はそこから通うことも珍しくない」
なまじ前世の記憶があるから軍への妙な知識があったのだろう。
その誤解が解け両親とも話し合い、結局コーネリアは卒業後、軍へ入隊することとなった。
◇◇◇◇◇
「まさかコーネリアさんも前世持ちだったとは驚きですわ」
「私もメーテル様が夢キラ子先生と思わなかった。っていうか、転生者が多くない?」
「それは私も同感よ」
エクサムも前世持ちだがそれは伏せる。二人に前世持ちと教えていいと確認したことはないので、さすがに勝手には言えないわ。
今日はメーテルの自宅でコーネリアと私の三人で秘密の茶会を開いている。もちろん魔法を使い防音し、周囲の者に会話の内容は聞かれないようにしているので、堂々と前世を絡んだ話ができる。
「でもこの世界ってマンガと違っているよね? 先生だって登場していなかったし」
「ええ、私も描いた覚えがなく……。それに入学直後のコーネリアさんは、私の描いたコーネリアと違っていたので驚きましたわ」
「それは私もよ。だってマンガのコーネリアは、授業をサボったり問題行動を起こさなかったもの」
「うっ」
入学初期の痛い話を蒸し返されたコーネリアは呻くと胸を押さえる。一応、当時を反省はしているようね。
「以前からコーネリアさん前世持ちだと疑っていましたが、あのネコの姿で確信しましたの。あれって、あのネコでしょう? 『あい』って返事をする」
「うん……。ヒロインの恰好はミニスカートが多いから避けようと思って……」
カチャカチャと砂糖を入れ紅茶のカップをスプーンで回すコーネリア。
「ああ、そのことだけど……。校長の中ではあなた、かわいい基準が変わっている子という認識になったみたいよ」
「え⁉ なんで⁉」
手の動きを止め、驚くコーネリア。
「多分、色と見た目だと思うわ。校長のかわいい感覚ではなかったらしくて。私はかわいいと思うけれどね」
「白か黒にしておけば良かった……」
両手で頭を抱えるが、多分そのどちらも校長の趣味ではないと思うわ。
「とにかくコーネリアの進路も決まったし、これで私も一安心だわ」
「そうですわね。最初は町の防衛業務に就くでしょうが、そのうち王城警備の任に就く可能性が高いので、その時はよろしくお願いしますね、コーネリアさん」
そうね。王城警備の任に就けば、その頃にはメーテルも王子と結婚してお城で暮らしているだろうし。
どの生徒もそうやって学校を卒業すると、様々な場所へ散らばる。卒業してから一度も会わない生徒もいれば、どこかで再会する生徒もいる。卒業まで見届けた生徒たちの顔が幾人も浮かぶ。
サンティーは教師を目指すから、教師の会合で再会できるでしょうけれど。
どの道に進もうと皆、幸せになってほしいわ。
「お父さんもお母さんもやっと進路が決まったって喜んで……。特にお父さんが家から通えるって言ったら嬉しそうで……」
「ふふっ、お父様、まだ娘と離れたくないのね。コーネリアさん、愛されていらっしゃるわね」
メーテルに言われ、はにかむように笑うコーネリア。前世のコーネリアの両親がどんな人だったのかを知っているだけに、私もその様子を見て嬉しくなる。
「でも少しは子離れしなさいって、よくお母さんが言っているの」
「そうよねえ……。あなたはモテるから、いつかは結婚するでしょうし」
「結婚といえばコーネリアさん、仲の良い男子生徒が多いでしょう? その中に意中の方はいらっしゃらないの?」
夢キラ子先生の一面が出たのか、単純に恋話が好きなのか、興味津々とメーテルが尋ねるがコーネリアの首が倒れていく。
「うーん……。恋愛感情はないなあ……。友だちとしては好きだけど、キティア様が誰よりカッコいいし」
その答えに私とメーテルはただ生温かい眼差しを向け頷いた。
とはいえ、少し前まで私もそんな感じだったし。いつかあなたにも素敵な出会いがあるといいわね、コーネリア。
お読み下さりありがとうございます。
やっとコーネリアの進路を決められました。
なにしろコーネリアは平民なので、進路が貴族の生徒より選択肢が多い!
キティアの実家の家業を手伝う、言わばモデルとかも考えていましたが、どうもしっくりこない。
かといって、普通に店員もなんか違う。
一体彼女はどうしたら幸せになれるの?
恋のお相手はどうする?
等々いろいろ考え、決定に日数を要しました。
卒業後コーネリアがどんな生活を送るのか、恋のお相手を絡め描く予定です。
不定期に番外編を公開しますので、これからもよろしくお願いいたします。
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