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番外編~サンティー・ターピンスの進路~

ブクマ、評価、ありがとうございます。





 侯爵息女、サンティー・ターピンス。


 キティア、アリスとともにメーテルと親しい彼女だが、サンティーは知っている。

 陰で自分のことを三人の『おまけ』と言い、笑っている者たちがいることを。

 なにしろサンティーは三人と比べ、特筆すべき点がないのだから。

 勉学も裁縫もピアノもダンスも外見も、なにもかも特別優れていないし極端に悪くもない。全てそれなりにできて、それなりにできない。つまり貴族社会では、平凡な普通の令嬢。それが自他とものサンティー・ターピンスの評価だ。


 そんな彼女の実家ターピンス家と、キティアのコンツァ家は昔から家族ぐるみで親しいので、幼い頃からキティアと顔を会わせる機会が多く、自然と友人となった。

 キティアが筆頭侯爵家の娘だからメーテルの友人にふさわしいと選ばれ、その流れで一緒に過ごすことが増え、気がつけばメーテルとも友人になっていた。だから口さがない者は、サンティーはおこぼれでメーテルの友人になれたとも言っている。

 アリスは伯爵家だが、実家だけでなく本人自身も情報収集に長けており、一目置かれている存在。

 それに比べ、自分のなんと平凡なことよ。たまにこっそり、ため息を吐く。


 婚約者は侯爵家の次男。サンティーより一つ年上の彼は、学校を卒業すれば軍に入隊する予定。

 一定の収入は安定され生活には困らないだろうが、使用人を雇う余裕があるほど収入を得るには出世しないとならないので、そこに至るまで何年もかかるだろう。だからそれまでは一人でこなせるよう、家事全般も習っている。料理もできるが、ものすごく上手ということではない。味も平凡。


 なにか得意なことがあれば、もっと自信を持てたかもしれない。

 だけどあまりに平凡な彼女は誇れるものが見つけられず、なにに対しても自信がなかった。


◇◇◇◇◇


「あー、そういうことかあ。やったぁ、解けた!」


 放課後、入学直後と違い、すっかりクラスに溶けこんだコーネリアに頼まれ、今日も数学を教えているサンティー。

 最初は自分より成績の良いキティアに習えばと断ったのだが……。



「キティア様にバカだと思われたくないの!」



 と、逆に断られた。

 コーネリアが座学を得意としていないことは周知のことで、もちろんキティアも知っている。今さらと思うが、恋心のように憧れる対象のキティアに、自分のみっともない姿を見られたくないのだろう。

 気持ちが分からなくもないので引き受けたが……。これで何回目だろう。テスト前のたび、教えることが恒例になった気がする。

 問題の解けたノートを両手で持ち上げ、嬉しそうにコーネリアは言う。


「サンティー様って本当、教えるのが上手よね。先生より分かりやすいから、ついお願いしちゃうんだ」

「え?」


 コーネリアとしては、何気ない言葉なのだろう。実際彼女は自分より解けた問題を満足そうに見つめている。

 だけど、なにかを『上手』と褒められるのは初めてだった。平凡で、褒められるような得意なものは自分にはないと思っていた。コーネリアの性格上それはないと思うが、つい本心かと気になり尋ねる。


「……私の教え方で、お分かりなられるの?」

「うん、だって問題ちゃんと解けたし。ほらほら」


 ノートを見せてきながら、明るい笑顔で言われる。

 その笑顔に合わせ、サンティーの心に光が灯る。



「絶対先生より、サンティー様の教え方の方がいいよ」



 将来は結婚し、家で専業主婦として過ごす。その未来しか見えていなかった。いや、それしかないと思いこんでいた。

 だけど……。教えるのが上手? 私が? サンティーの心に、なにかが生まれた瞬間だった。


◇◇◇◇◇


「サンティーは進路、昨年から変わらなくていいかしら?」


 多くの生徒が貴族の子のため、進路が定まっている者が大半。とはいえ、進路相談は毎年行われる。進路が定まっている者が多いからこそ親を含めず、教師と生徒の二人で対面している形式上のものだが、マジェスに問われサンティーは答えた。



「いいえ、私は教師を目指すことに決めました。教員免許を取りたいと思います」



 マジェスは驚いた。これまでそんな素振りはなく、昨年は専業主婦になると言っていたからだ。


「どの教科か決めているの?」

「数学の教師を目指したいです」


 答えるサンティーの目には力があり、本気だと分かった。それならサンティーだけの問題ではなくなる。


「ご両親はなんと?」

「反対はされませんでした。婚約者も教員なら、免許を取得すれば全国どの学校にも就けるので、自分に転勤があった時にもついて来てもらえるので良いのではないかと。ずっと家の中に一人でいるより、人と接する方が良いと賛成してもらえました」


 この国では教員免許を取得できれば、それだけで全国どの学校でも教鞭を振るうことが可能だ。

 両親、そして将来の伴侶が反対していないのであれば問題ないだろう。


「分かったわ、なら数学をもっと勉強する必要があるわね。あなたの成績は全般的に悪くないけれど、特別数学の成績が良いという訳ではないし。数学教師になりたいのなら……。そうね、数学の先生方に伝えておくわ。数学を教えてもらうだけではなく、先輩たちから色々アドバイスを貰うのが一番でしょうから」

「ありがとうございます」

「それとサンティー、あなたはまだ若い。これから何事もどんどん伸ばす可能性があるわ。だけどそれと決めたのなら、それに向かって頑張りなさい」


 コーネリアは知らない。

 自分の一言で、サンティーが数学の教員という道を選択したことを。

 後に教員を目指していると知った時は……。



「絶対合っているって! だってサンティー様、教え方が上手だもの! いいなあ。サンティー様が先生だったら、絶対私も数学が好きになったのに」



 またも無意識にサンティーを喜ばせることを言うのだった。



 一方、そんなコーネリアはといえば……。



「あなた、分かっている? 卒業は来年なのよ? まだ進路を決めていないの?」



 少し怒りを含んだ口調でマジェスに言われ、身を縮める。最近は帰れば親にも同じことを言われるが、本当に自分が将来どうなりたいのか決めていない。前世では成人する前に亡くなり、さらに『今』が楽しいので、この状態がずっと続いてほしいと思っているのが本音だ。

 だけど分かっている。学校生活には限りがあり、そのリミットは来年だと。


「あなたは魔法使いとして優秀だから、どこかの団体がスカウトに来るかもしれないけれど……。今だって軍があなたの膨大な魔力に興味を示しているわ」

「軍……」


 この世界の軍がどのような訓練を行うのか分からないので、前世の知識をもとに想像すると、とても耐えられそうにないので脳内で即却下する。例え入隊してもすぐに訓練に音をあげ、辞めてしまうだろう。

 いつもなにも答えられない。自分はどうしたいのか。なにになりたいのか。なにが向いているのか。


「早く結論を出してね」


 マジェスは軍への入隊を勧めてくる。

 だけど……。

 ランニングしたり体を鍛えたり、銃を放ったり、人をぶん投げたり……。

 前世で観た映画等の知識を思い出すと、どうしても無理だと思ってしまう。


「って、この世界に銃はないけどさ……」


 自宅の私室で一人、机の上に顎を乗せ進路希望の用紙を睨む。

 貴族の子たちの多くは迷わず用紙に記入している。入学前から進路が決まっている者が大半だから、、悩むことはない。自分のように貴族でない者も親の仕事を手伝うなど、将来を決めている者が多い。


「ずっとこのままでいたいのになぁ……」


 楽しい学校生活。優しく厳しい普通の両親。永遠に『今』が続いてほしい。

 だけどそれは叶わない夢。

 将来なにになりたいのか。それをどうして他の人は見つけられるのに、自分は見つけられないのだろう。


 何度目か分からないため息をコーネリアは吐いた。




お読み下さりありがとうございます。


主役はサンティーですが、コーネリアの番外編へ向け話が動き始めた回です。


キティアたちに比べ、なんの特徴もないメーテルの友人。しかし彼女だけ話がないのはかわいそうと、困った時のコーネリア頼みで話がなんとか完成となりました。

(コーネリアは自由で正直だから、困った時に動かしやすく、作者にとってはありがたいキャラなのです)


本格的なコーネリア番外編の前に、もう一つ番外編を挟もうと考えています。

(まだプロットも出来ていないので、公開時期は未定です。すみません……)


サンティーは平凡かもしれませんが、平凡だからこその幸せな道をこれからは歩むかなと思います。

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