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番外編~その後のキティア~

番外編の最初は、キティアのその後を書いてみました。


修正内容:誤字修正




「今年の学校祭の出し物について、提案がある方はいらっしゃいますか?」


 学級委員であるキティアが黒板の前に立ち、教室を見回しながら尋ねれば、真っ先にコーネリアが手をあげ、名を呼ばれると立ち上がる。


「はい、私は劇を提案します」


 劇を出し物とするクラスは、毎年何クラスかある。ようはどこの世界でも、文化祭の定番ってことよね。

 私は教室の後ろにイスを置き、そこに座って進行を眺めている。

 このまま他に提案がなければ、劇に決まるでしょうね。


「劇ですね」


 言いながらキティアが、黒板に『劇』と書く。


「待ってください。ただの劇ではありません」

「どういう意味ですか?」


 首を傾げながら不思議そうにサンティーが尋ねれば、よくぞ聞いてくれました! と言わんばかりに人差し指を立て、笑うコーネリア。


「ふっふっふっふっふっ。ずばり男装の麗人が、王子役を演じるのよ!」


 ……コーネリア。某歌劇団でも目指すつもり?


「しかも! キティア様が王子となり、ヒロインを救う役を演じるのよ!」


 両手を広げ堂々と言い切れば、途端に女子生徒が色めく。対するキティアは黒板の前で、チョークを持ったまま固まった。


「だってキティア様なら、素敵な王子になると思うの! そうでしょう、皆⁉」

「賛成ですわ!」

「私もコーネリアさんの案に、賛同します!」


 はいはいはい、と次々目をギラつかせた女子生徒が、手を挙げていく。異様な雰囲気に男子生徒は、若干引いているように見えるけれど……。私の気のせい?


「演目はどうされます?」


 アリス、まだ劇と決まったわけではありませんよ?


「私、こういう話がいいと思うんだけど! ある貴族の女の子が母親を亡くし、父親が再婚して、継母と義理の姉二人が出来るの。仕事で家を留守にしがちな父親の目がないことを良いことに、継母たちは女の子を虐げてね。哀れな女の子は、灰をかぶりながら毎日、召使い同然に扱われる日々を……」


 ……シンデレラね。

 まあ魔法でカボチャの馬車とか出すから、派手に演出できそうだし、悪くない演目か……も?


 ………………。


 あ、ダメだわ。


「どう⁉ この話の王子を、キティア様が演じるの!」


 自信たっぷりにコーネリアは話し終えるが、今度はあまりクラスメイトの反応がよくないので、戸惑う。

 一番に否定の声をあげたのは、アリスだった。


「不幸な少女が幸せになる話は素敵ですけれど、その話ではダメですわね」

「どうして⁉」

「だって、王子はただ舞踏会で彼女を見初め、後々捜し出しただけではありませんか。王子が彼女を助けるならまだしも、助けるきっかけを与えたのは、魔法使いのおばあさんですし」


 あ、そっち。てっきり私は……。


「それに、どうして自分で魔法を使わないのかしら? おばあさんも、馬車を具現化したり、ネズミを御者にしたり……。一人だけでそこまでの魔法が使えることは、あり得ないと思います」


 ああ、やっぱり……。


 魔法使いのおばあさんの魔法で、摩訶不思議! みずぼらしい姿だったシンデレラが、お姫様の姿に!

 これは魔法のない世界だから、不思議で魅力に感じられるのよ。そんなミラクルなことが起きるのは、魔法しかないと、魔法がないから納得できる。

 逆に誰もが魔法を使えるこの世界では、自分で魔法を使えるので、おばあさんの出番の意味も失われる。


「どうしてガラスの靴だけ残るのか、不思議だわ。靴だけ残ることも、あり得ません」


 サンティーも否定する。

 魔法のある世界だから、魔法が登場する以上、現実の物語として人は考える。そして矛盾を見つけ、話に魅力を感じない。そういうことだろう。


「じゃ、じゃあ白雪……」


 言いかけ、コーネリアは言いよどむ。

 そうね。その作品は、王子の出番は最後だけね。しかも横たわる白雪姫を見初めるだけ。


「面白そうなので、私が脚本を書いても、よろしいかしら?」


 困ったコーネリアを救うように挙手し、脚本家として立候補したのは、メーテルだった。

 そうね。夢キラ子先生なら、素敵な王子が登場する作品を、描いてくれそうね。いいと思うわ。


「ま、待ってください、メーテル様! まだ劇と決まったわけでは……」

「多数決を取ります! キティア様が王子になる劇がいい人、手を挙げて!」


 我に返ったキティアに邪魔されてはなるものかと、コーネリアが強行突破を謀る。

 結果、女子生徒全員と男子生徒の多くが手を挙げ、簡単に出し物は劇に決まった。


「で、では……。こ、今年の、クラスの、出し物は……。わ、私がお、王子の、劇で……」


 黒板に書いた『劇』の文字に、震えて歪な丸をつけるキティア。

 そんな彼女は、黒に近いこげ茶色の髪を、いつも一つにまとめて結っている。切れ長の瞳は、髪の毛と同じ色。しっかり前を見ながら、背筋を真っ直ぐ伸ばし、てきぱき行動するキティアは……。うん、王子の恰好が似合いそう。


「私、相手役のヒロインに、立候補します!」


 腕をぴんと伸ばし、前のめりに立候補する、コーネリア。

 ドレスを貸してくれたり、フェアーラの件で立ち向かってくれたりしたことで、この一年ですっかりコーネリアも、キティア信者の一員になっている。


「いいえ、私が立候補いたします! お姉様のお相手は、私が務めますわ!」

「皆さん、演劇部の私を忘れていませんか⁉」


 コーネリアの立候補に端を発し、次々と立候補者が名乗り出る。

 キティアと多くの男子生徒を置き去りにし、その相手役で揉めだす女子生徒たち。


 これは収拾がつきそうにないわね……。

 やれやれと思いながら立ち上がろうとすると……。


「お静かに‼」


 キティアが一喝し、立ち上がっていた生徒が全員、口を閉じて着席する。


「キティアの相手役は、くじ引きで決めたらどうかしら?」


 にっこりとほほ笑みながら提案するメーテルの言葉に、立候補者たちは頷く。


「じゃあ、知の精霊と同じやり方で決める?」


 私の言葉に、またも全員、頷く。

 早速私は魔法で人数分の縄を具現化させる。一本だけ先を赤く染めると、全ての縄をキティアのもとへ、飛んで行かせる。


「知の精霊にお願いする時のように、赤い部分を隠して混ぜてくれる?」

「は、はい」


 皆に背を向け、ごそごそと手を動かすと、終えてこちらに向き直る。


「じゃあ、立候補した人たち、誕生日を確認して並んで。縄を選んだら、それを持って自分の席に戻るのよ」

「それだと引いた瞬間、答えが分かるじゃない」

「大丈夫よ、コーネリア」


 不思議がりながらも、トップバッターの女子生徒が縄を選び、席に向かおうとする。それに合わせ、私は魔法で、するすると縄を伸ばしていく。


「まあっ」


 メーテルが声をあげ、愉快そうに笑う。もちろん彼女は創作活動に専念したいので、相手役に立候補していない。


 驚いたことに男子生徒も数人、相手役に立候補した。

 空気を読めないのか、勇者なのか……。よく分からない。

 そう思っていたら、『性別逆転の劇って、面白いかなと思って』と理由を語る。ああ、なるほどね。そういうコメディーな劇も、面白いかもね。


「さて、全員選んだわね。じゃあ、いくわよ。キティア、手を離して」


 キティアがパッと手を離せば、縄は魔法で、しゅるしゅると短くなりながら、先を持つ人の方へ向かっていく。


「あ、あ、ああっ。やったぁ! 私よぉ!」


 赤い先の縄が向かってくると万歳をあげたのは、なんと、コーネリアだった。


「キティア様、素敵な舞台にしましょうね!」


 先の赤い縄の先を持って、笑顔のコーネリアは、遠目なキティアに抱きついた。


◇◇◇◇◇


 結局メーテルは、お姫様が悪い魔法使いにさらわれ、王子が助けに向かうという、王道の物語を書き上げた。

 そして練習で初めて王子の恰好になったキティアを見て、失神する女子生徒が続出。


「すごい……。某歌劇団にも負けない……っ。リアル王子様……っ」


 お姫様の恰好をしているコーネリアも、鼻血を抑えるように鼻に手を当て、興奮している。

 ……リアル王子様は、一つ上の学年に在籍していると、覚えていますか?


「お姉様……。とてもお似合い……。本物の殿方より、素敵ですわ!」


 ……なんか女子生徒の間で、新たな扉が開かれている気がするわね。


◇◇◇◇◇


 学校祭当日も、異様な盛り上がりだった。

 初日の上演前から噂を聞きつけ、観客希望の列は、長蛇となる。そこで整理券を配布し、完全入れ替え制で上演することに。

 二日目には誰が言い出したのか、キティアが登場すれば、『王子様、頑張ってー!』と、せえので声援が飛ぶ。さらには棒の先を光らせ、ペンライトのように振り、魔王と戦う王子に応援を送る。


「まるでアイドルのコンサート会場だな……」


 評判を聞きつけ観劇に来たエクサムが、私の隣でぽつりと呟く。

 ですよねー。多分、メーテルかコーネリアの提案だと思いますー。


 結局三年生になっても、四年生になっても、キティアを王子とする劇がクラスの出し物となった。もちろん脚本は、夢キラ子先生こと、メーテルが担当。


「メーテル、お前にこんな才能があったとは知らなかった。創作もお手の物とは、私の婚約者はすごいな」

「ふふっ。滅多にできないことなので、頑張りました」


 堂々と創作活動ができたメーテルのお肌は、つるっつるのピッカピカに潤っている。

 ……うん。気分転換できたようで、良かったわね、メーテル。


◇◇◇◇◇


 王子を演じたことにより、キティアはさらに一部の女子生徒から、『お兄様』と呼ばれるようになり、一部の男子生徒からは、『キティア様のように王子様になるには、どうしたらいいのですか⁉』と相談される始末。


 さらに三年生の夏、女の子しか生まれていなかったコンツァ家に、男児が産まれた。

 それまで跡継ぎ確定と目されていたのは、長女であるキティアだったが、長男が誕生したことで、誰が跡目を継ぐのかと、人々は注目する。


 そして四年生の春、キティアの婚約者が、一方的に婚約破棄を行う出来事が発生。

 どうやら婚約者は、婿入りすれば、自分が将来の侯爵になれると勘違いしており、その座が確約されないのであれば、婚約している意味はないと、破棄を行った。

 ひどい理由よね、まったく。勝手に勘違いして侯爵になれると思い、跡継ぎが誰になるのか決まっていないのに、弟が継ぐと思いこみ、婚約破棄するなんて……。キティアがあんな男と結婚しなくて、良かったわ。


 しかし長年婚約者だった男が去り、やはりショックなのか、しばらくキティアは塞ぎこんでいた。


「はあ……。憂うキティア様もステキだけど、婚約破棄した男を地獄に落としたい……」

「本当にその通りだわ。お姉様、おかわいそう……。あんな男のせいで、お心を痛め……。私、彼の生家が経営する店では、二度と買い物をいたしませんわ」

「それが良いわよ。早くお兄様には元気になってもらいたい。お兄様を振るだなんて、身の程知らずな男、呪われれば良いのよ」


 うっとりとした顔でキティアを見つめながら、物騒なことを口走る、信者のコーネリアと仲間たち。


「……あれ、放っていて大丈夫か?」


 たまに信者の様子を見て、エクサムが心配そうに尋ねてくるが……。


「まあ、そういう年頃だし、大丈夫だと思うわ。女子高のノリというか、憧れみたいなものだしね。それに、ああやって不満を口にすることで、心を落ち着けているのよ。もちろん本気で元婚約者を襲うなら、止めるわよ」


 そうやって答えつつ、私はコーネリアたちに同意していた。


 だって私も、キティアの王子姿を、毎年楽しみにしているし! キティアには幸せになってほしいと思っているし!

 ああっ。王子姿を今年で見納めだなんて、本当に残念だわ。

 それにしても、まさかこんな所に、推しが眠っていたなんてね。

 私ってば、どうして前世で某歌劇団の舞台を観なかったのかしら。もったいないことをしたわ!


◇◇◇◇◇


 さらにキティアは四年生の学校祭で、新鋭の女性舞台監督から声をかけられる。

 女性だけの演者による舞台を作りたいので、立ち上げる劇団に、男性役の役者として参加しないかという誘いだった。


 誘いを受け、キティアは卒業後、実家の手伝いをしつつ、舞台役者として歩みだした。

 学生の頃より本物の王子様より王子様と言われていたキティア。主演を務めた初舞台は、大成功を収めた。

 あのアイドルコンサート風の応援も、演目によっては行われ、この国の新たな舞台を作ることに、彼女は貢献の一端を担う。


「また観劇が趣味になったのか?」


 頻繁にキティアの舞台を観劇する私に、エクサムが尋ねてくる。


「え? そりゃあまあ……。だって、教え子の晴れ舞台だし。彼女、演技も上手だし、お話も面白いから。やっぱり観劇って、いいなと思って」

「君もキティア信者になったのかと思った」


 後ろから腰に手を回され、頭の上に顎を乗せられる。


「そ、そんなことありませんけれど⁉」

「……ふうん?」


 しまった、わざとらしい言い方になった。


 私に役者の才能は、ないようだ。

お読み下さり、ありがとうございます。


私も某歌劇団を観たことはありません。

ミュージカルが嫌いではないので、拒否反応がある訳ではなく、ただ機会がありません。

いつかは観てみたいです。

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