その2
修正内容:誤字脱字と、言い回しの修正を行いました。
「ご苦労。これでなにか問題が起きても、堂々と彼女を停学にできる」
反省文及び誓約書を渡すと、白髪の女性校長……。六十歳目前のクリーク・セリオース校長は、口の端を上げてニッと笑う。
彼女のモットーは、勉強意欲なき者は学校から去れ!
素行不良で留年するような生徒は、即刻追い出したいという考えの持ち主だが、この学校は王立学校で、校長はただの現場責任者。王と国が運営するこの学校では、校長の一存で、そういったことを決めることはできない。
王は学生の過ちは、挽回する機会を与えるべきという考えの持ち主で……。まあ、優しい方なのだ。
言っておくが、校長も鬼という訳ではない。病気などで仕方なく、履修できず留年となる生徒は、そのまま在籍して頑張ってほしいと考えている。
「校長、お聞きするのを忘れていましたが、コーネリアは停学になったら、その時点で特待生から外れるのでしょうか」
「私としては、そうしたい。でも一年間、特待生として本校が受け入れるというのが、契約内容に明記されている。残念だが、外れない。外すことができたら、早々に問題を解決できるのにな。残念なことだ」
本音を隠さない校長に、私は苦笑いで答えるしかない。
「そういえば先日、スターリン先生がな、コーネリアは精神魔法を使えるのではないかと言い出した」
報連相を疎かにした、あのイケメン歴史科教師が?
「あれだけの男子生徒を魅了するのは、精神魔法ではないかと疑っているそうだ。確かに彼女と一緒に授業をサボった男子生徒は、普段の言動から、とてもそんな真似を行いそうにない」
精神魔法。それは人の精神に関与できる魔法。前世の言葉を使って説明すると、催眠術の魔法版だ。
精神魔法をかけられたら、本人の意思に関係なく、術者に操られる。古来より、人々に恐れられている魔法だ。
幸いこの魔法を使える者は極端に少ない。おかげで研究が進まず、未だに謎の多い魔法でもあるけれど。
「はあ……。ですが、彼女の見た目は可愛いですし、平民だからか、年頃なのに異性に触れることに躊躇ないですし。単純に男受けがいいだけではありませんか?」
「確かに。思春期真っ只中の少年が、可愛い女の子に腕を組まれたり、抱きつかれたり……。のぼせるのも、無理ない話ではある」
「教師からの評価は下がる一方。精神魔法を使えるなら、男子生徒だけでなく、教員も魅了してくるのではありませんか。精神魔法とは違うと思います」
「だが、謎の多い魔法だ。未覚醒で無意識に発動させ、上手く使いこなせていないのかもしれない。もし本当に精神魔法を使え、それを使いこなせるようになったら……」
やだ! やめて! 校長、それ怖い!
ヒロインが王子に精神魔法を使えば、ヒロインにメロメロな王子が出来上がるじゃない!
マズい! それは、非常にマズいわ! 素行不良の王妃なんて嫌なのに!
実際過去、他国で精神魔法を使って王家の人間を操り、国家転覆を謀った魔法使いが存在する。
権力を手にしたその魔法使いは、為政者の才能はなかった。あっという間に国は傾き、滅んだ。魔法使いは責任をとることなく、逃亡。その死体は今も見つかっていない。
おそらく精神支配を受けた者にかくまわれ、その生涯を終えたのではと、多くの歴史家は考えている。
「選択肢を狭めると、視野も狭くなる。精神魔法の可能性も、胸に留めておくように」
「承知しました。今度、彼女と一緒に授業をサボった男子生徒に、詳しくサボることになった経緯を、聞いてみることにします」
「頼む」