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side裏話~その1~

今回は星流れの祭前、こんな出来事があったという裏話です。

やっと王子の名前が出てきます。


◇◇◇◇◇


誤字を修正しました。

「メーテルはイサーラ先生と親しいな」

「殿下も大層、慕っておいでですわよね」


 少し拗ねたようなメーテルの口調に、王太子であるフォルデングの顔が緩む。


「なんだ? 妬いているのか?」


 メーテルの長い髪を一房すくうように手に取ると、その先にフォルデングは唇を落とす。


「先生は教師として、魔法使いとして尊敬しているだけ……。それだけのことだ」

「分かっております。だけど……。やけに気にかけていらっしゃるので……」

「ああ、それなんだが……。実は、困ったことになってな……」


◇◇◇◇◇


 星流れの祭の少し前の、ある初夏の日。毎年恒例の、国王陛下の家族だけの食事会が開かれた。

 参加できるのは国王夫妻、その両親。加えて国王の兄弟、その子どもと、彼らの伴侶と定められている。従って、まだ王太子の婚約者のメーテルは、参加を認められていない。

 身内だけの集いなので、面倒で厄介でもある。一方、気を遣わない相手しかいない気楽さが、楽しみでもある。

 そんな年に一度の集いの日。それは起きた。


「エクサム、フォルデングの学校での様子はどうだ?」


 それは国王としてというより、父としての質問だった。エクサムは、よどみなく答える。


「何事にも真面目に取り組み、いい生徒です。学友たちとも楽しそうで、陛下が心配されることは、なにもありません」


 フォルデングは、二年生になったばかり。そんな彼に、従姉が爆弾発言を投下する。もっともそれを被弾したのは、フォルデングではなく、別の人物だった。


「ねえ、フォルデング。エクサムの噂は、もう聞いたかしら?」

「おい」


 エクサムの怒気をはらむ声を聞いても、従姉は動じない。

 この話題は何年にも渡り、不定期に続けられているので、親世代はなにも突っ込まない。たが全員、しっかりと耳を動かす。同時にエクサム以外のこの場にいる全員が、どうやら今年の餌食はエクサムのようだと、内心喜ぶ。


「噂? マジェス・イサーラ先生に近寄ったら、エクサム兄上が殺すという話なら、もちろん」

「まあ! やっぱりまだその噂、語り継がれているのね!」


 堪らずと、イトコの面々が吹き出す。


「お前たちのせいで、未だにそんな出まかせが信じられている。どう責任を取ってくれる。同僚の教師まで誤解しているんだぞ?」


 エクサムより一つ年下の男が、笑いながら言い返す。


「仕方ないじゃないか、全くのでたらめでもないのだから。忘れたのかい? 君が学生の頃、イサーラ先生を襲おうと画策した者たちを、家ごと潰そうとしたじゃないか。合宿を利用して女性教師を襲う奴は許せないが、社会的抹殺まで追いこもうとしたんだ。そんな噂を流されて当然さ」

「そうそう。それに私たち、わざわざあなたに協力するため、イサーラ先生に横恋慕すれば、エクサムがあなたを抹殺するわ。と、噂を流してあげただけよ?」

「それが余計だったんだ!」


 反省していない従妹の物言いに、エクサムは声を荒げるが、本人たちは笑うだけ。


「大体、何年片思いを続けるつもりだ。どうせお前のことだから、まだ絶賛片思い中なのだろう? なあ、フォルデング。学校で、エクサムはどんな様子だ? ちゃんと彼女を口説いているか?」


 にやにやと笑うイトコたちに、フォルデングは答える。


「会話している所も、ほとんど見ない。口説いている様子はないな」

「やっぱり! エクサムお兄様、やる気あるの? いくらイサーラ先生が恋愛に興味ないから安心とはいえ、悠長すぎない? もう何年、片思いしているのよ」

「生徒の前で口説くわけがないだろ!」

「あらあ。じゃあ、生徒のいない場所では口説いているの?」

「どうせ噂と本人が鈍いのをいいことに、口説いていないわよ。分かり切っている質問なんて、意地が悪いわよ?」


 これだからこの食事会は苦手だと、エクサムは頭を抱えたくなる。

 エクサムの勤め先である学校は、身分の高い者の子が多く通っている。それは自身や親族も同様で、誰もが学校に通ったことで、マジェスと接点を持っている。

 自分では思いを秘めていたつもりだが、なぜか早々にイトコたちには気づかれ、今ではスターリン家の使用人たちにまで話が広まっている始末だ。


「見た目はよし。家柄もよいのだから、ちょっと本気で口説けば、すぐ手に入れられるだろうに。なぜ本気で口説かない」

「どうせ振られるのが怖いのよ」


 もうこうなれば黙るのが一番だと、エクサムは口をつぐむが、それをよしとしない者が現れた。


「都合が悪くなると黙るのは、あなたの悪い癖よ、エクサム」


 それまで黙っていた母親に言われ、渋面をつくる。


「あなたの都合もあるから、私たちも我慢しているけれど……。なにも行動を起こさず、ただ彼女の近くにいればいいと言うのなら、他の女性と結婚しなさい。結婚しても、今の状態はなにも変わらないのだから、問題ないでしょう?」


 確かにと、その場の何人かが頷くが、エクサムは突っぱねる。


「お断りします」

「あなた、自分の年齢、分かっているの?」

「分かっています」

「なら、結婚しなさい。幸い公爵家を継がないと公言していても、あなたとの縁組を望む人は多いもの。選び放題よ」

「お断りします」

「伯母上の言うことも確かだわ。別に自分の気持ちを伝えるわけでもないから、先生と恋人になりたい意志を感じないし。それなら別の女性と結婚しても、ずっと同僚として側にいられるのだから、今となにも変わらないじゃない。言っておくけれど、イサーラ先生が自ら変わることは、ないと思うわよ?」

「そうして別の男に攫われるわけか。いいね、面白い」

「お前ら……」


 身内だけだからこそ、言いたい放題である。

 こうやって毎年、誰かが必ず槍玉に挙げられる。今年はそれが、エクサムの番だった。


「とにかく、お父様も私も限界ですからね。フォルデング殿下が卒業するまでに、あなたがイサーラ先生と特別な関係にならなければ、最終手段を発動します。陛下、その時は縁組をお願いします」


 陛下の縁組。それは国民であれば断ることができず、受け入れるしかない、究極の命令で脅しだった。


「なにを勝手なことを言い出すのですか!」

「あなたの価値観が人と違うと分かっているからこそ、我慢したのですよ? それなのに、相手が恋愛に興味ないのをいいことに、行動しないのは許せません。玉砕した上で思い続けるなら、許します」

「つまり、あと三年でなんらかの結果を出さないと、エクサムお兄様は陛下の名のもとに、ご結婚されるということ?」


 昨年、学校を卒業したばかりのイトコが可愛らしい声で確認するよう尋ねる。

 全員が国王陛下に視線を向ける。


「陛下」

「陛下!」


 特にエクサム母子の視線が痛かった。

 自身の姉であるエクサムの母は、自分の発言に同意しろと訴えてくる。反対に甥は、母の申し出を断れと訴えてくる。他は期待と不安が入り交じり、この状況を楽しんでいる者が多い。

 正直、巻きこまれたくなかった。こういうのは外野だから面白いのだ。しかし名指しされた以上、無視はできない。仕方ないと、一度咳払いをする。


「一つ聞きたい、エクサム。お前がここまで行動を起こさないのは……。お前の前世の世界では、三十でも結婚していないことが、珍しくなかったからか?」

「晩婚化が進んでおりましたので、四十近くで初婚や初産も珍しくありませんでした」

「この世界の平均寿命を考えなさい! 四十で結婚だなんて、早い人はもう亡くなる年齢じゃない! 結婚と同時に、未亡人にさせるつもり⁉ あなたのそういう前世の価値観があるから、お父様も結婚や後継に関して、あなたの気持ちを尊重したのよ! それを踏みにじる行為は、私が許しません!」

「厚意を踏みにじっていません!」

「どこがですか!」


 飛び火で怒鳴られたくないスターリン公爵と、エクサムの弟夫妻はだんまりを決めこむ。


「始まったわね、親子喧嘩。前世持ちも大変ね」


 国王には姉が三人おり、長女がエクサムの母に当たる。次女である二人目の姉は、愉快そうにそう言うと、火花を散らす姉親子を眺める。


 この世界では、異世界の前世の記憶を持って生を受ける者がいることを、一部の者たちは知っている。前世の記憶がある者は、『前世持ち』と呼ばれる。そんな前世持ちの人々の知識を用い、この国は発展を遂げてきた。


 スターリン公爵家、長子、エクサムも前世持ちの一人だった。

 十歳を過ぎた頃、突然前世の記憶が蘇り、以来前世の価値観に引っ張られている。その事情を両親は尊重し、後継を辞退したことも仕方ないと諦めていた。だが、彼の結婚を母は諦めていなかった。


 いくら思っている相手がいるとはいえ、何年も行動を起こさないのは、もう我慢の限界だ。一度でも告白していれば、まだ許せるものを……。ただひたすら見つめるだけで、勝手に相手が自分に惚れると考えているのでは。そう思ったことも、一度や二度ではない。


「お姉さま。前世持ちの人がこの世界の価値観の人と結婚しても、夫婦関係が円滑に運ばれない可能性が高いわ。それに、夫となる男性に最初から思い人のいる愛のない結婚だなんて、花嫁となるお嬢さんがかわいそうよ」


 三女の言葉にエクサムは味方を得たと、胸を張る。


「でも、言い寄らないのはねえ……。エクサム、本気でその先生を愛しているの?」


 と思ったが、違った。今度は母が胸を張る。こういう所は本当、親子だな。とスターリン公爵は思う。


「いくら鈍いと言っても、誰かに言い寄られたら、その人を意識するようになるわよ? それを、ただ指をくわえて見ているの? もっと早く自分が口説いておけば良かったと、後悔するの? それがあなたの愛なの?」

「ほら! この子もこう言っているじゃない! そうよ、あなた、本気で彼女を愛しているの⁉ 誰かに奪われてもいいなんて、ずい分と軽い愛だことねえ!」

「愛してって……。僕には僕のやり方があります!」


 顔を赤くさせエクサムが反論するが、長年の行いから母の信用を得ることはできなかった。


「じゃあ、具体的にどう口説いたの。これから、どう口説くの」

「そういうことは、いくら親でも……。いや、親だからこそ、言えるわけがないだろ⁉」


 親子喧嘩はさらに激しくなる。今や二人とも席を立ち、怒鳴り合っている。

 さすがにスターリン公爵も動かざるを得なくなる。


「おい、お前たち、いい加減にしないか。なにもこんな場で喧嘩をしなくとも……」

「なにを恥ずかしがっているのよ! 親子なのに!」

「恥ずかしいに決まっているだろうが!」


 だが二人に無視される。恰幅のよいはずの父が萎んだように縮まったと、エクサムの弟夫婦は思う。もちろん家長に止められないものを、自分たちが止められるわけがないと、弟夫婦は知らん振りを決める。


「そういう所が、前世持ちだって言うのよ! 裸を見られるのも恥ずかしいからと、入浴を使用人に手伝わせないし!」

「今、入浴は関係ないだろ⁉ 僕から言わせれば、母上たちが異常だ! なんで入浴を手伝われて、平気なんだ! 他人に体を洗わせるだなんて、信じられない! よくそんな恥ずかしいことができるな⁉」

「そこまでにしてくれないか。せっかくの食事会なのだから」


 ようやく口を開いた国王陛下の声に、親子は黙る。


「分かった、姉上の提案を受けよう。フォルデングが卒業した時、彼女と特別の関係になっていなければエクサム、私はお前に結婚を命ずる」

「そんな⁉」


 片や愕然とし、片や勝利を得たと高笑いをする。


「じゃあ、私がお兄様の結婚相手に立候補しますわ」

「陛下、今一度お考え直しを!」

「諦めなさい、エクサム。年貢の納め時なのよ?」


 そんな感じで、今年の食事会は終了した。


◇◇◇◇◇


「それは……。横暴ではありませんか……?」

「父上なりに、エクサム兄上に発破をかけたのだよ。何年もただ思うだけで、行動に移さない兄上にも問題はあるからな。だがな、メーテル。私はエクサム兄上に幸せになってほしい。兄上の恋を成就させてやりたいのだ。だから、私を手伝ってくれないか?」

「喜んでお手伝いしますわ。このまま、エクサム様と愛のない結婚をする方もおかわいそうですし」

「しかもだな、食事会で兄上の結婚相手に立候補したのが……」


 その名を聞き、メーテルは眉をひそめる。


「殿下の従姉を悪く言うのは心苦しいですか……。本当、困った方だわ」

「スターリン公爵夫人も、いくら息子の結婚を希望しているからと、受け入れないだろうな。それでだな、今度星流れの祭があるだろう? そこで……」


 こそこそと二人で作戦を練る。

 結局作戦は不発となるが、エクサムにとっては良き日となった。


 以来、二人なりにエクサムの援護に走るが、幼き頃より互いに婚約者を思い思われている二人。恋愛の駆け引きなど行ったことがなく、援護になっていないと、特にフォルデングは気がついていない。

お読みいただき、ありがとうございます。


エクサム・スターリンも転生者というのは、かなり初期から決まっていました。

母親が幾つになっても結婚しない息子に、イライラ。というのも、決めていましたが……。

この回を書いて決まったことが、あります。

それは、王子の名前です。

どうも名前を考えるのは苦手でして……。

後回しにしてしまいます……。

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