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エピソード三つ目~2~

令和2年6月1日(月)

加筆訂正を行いましたが、内容に変更はありません。







「ところで先生は独身ですよね? 結婚の予定は? 興味、ありませんか?」


 この世界は平均寿命が低いからか、やたら結婚して子を成そうとする意識が高い。そのせいか、とかく恋愛にも興味を持つ者が多い。どうやら王子もその口のようだ。


「興味ございませんので、お見合いもお断りしております」


 こういう質問をされると見合い話を薦められることが多いので、先にけん制する。


「そうですか、残念だ……。薦めたい人がいたのに……」


 王子の薦めたい人? 勘弁して! そんなの話を受けた時点で、結婚お決まりコースじゃないですか! しかも王子の薦めたい人……。つまり知り合いなら身分も高そう。絶対私なんかと釣り合いません。ムリムリ、絶対にイヤ。


「お気持ちで十分です。私は教師として人生を全うすると決めておりますので」

「そうか……。ちょっと不憫に思えてきた」

「私がですか? 独身でも人生を謳歌しております。なんら不憫ではありませんよ?」


 それを聞いた王子が、ボソボソと『手強い』や、『無理』といった単語を口にする。その意味を問えば面倒になりそうなので、無視することに決めた。



◇◇◇◇◇



 殿下と別れメーテル捜しを再開しようとしたら……。


「ちょ~っと先生、いい?」


 コーネリアが曲がり角から飛び出してきたと。そして仁王立ちするよう腰に手を当て、行く手に立ちふさがる。


「ええ、いいわよ。なにか相談かしら」


 困ったさんでも大切な生徒だもの。なにか悩みがあるのなら、ちゃんと聞いてあげないとね。



「勘違いしないでよね!」



 右手は腰に当てたまま、左手の人差し指で私を指し、宣言するかのように告げてきた。


「王子は先生のことなんか、対象として見ていないんだから!」

「……はい?」


 対象? とは、一体? どういう意味? なにを言われているのか、ちょっと分からない。



「王子の相手はね、この私なの」



 今度は左手を胸に当て、ドヤ顔となるコーネリア。

 ひょっとして対象って、女としてってこと? え? これ私、なんて返事をしたらいいの? 突然のことに固まってしまうが、ややあって口を開く。


「……ごめんなさい、ちょっと意味が分からなくて。もう一度言ってもらえる?」

「だからぁ。王子と結ばれるのは、先生でもメーテルでもなくて、この私! コーネリア・ヴァーロングなの!」


 言い切った! とんだ爆弾発言! 逆にすごい! 普通そんなこと言えないわよ⁉ しかもこのセリフ! ライバル役や悪役のものであって、ヒロインのセリフではないわよ⁉

 とりあえず落ち着こう。一つずつ処理をするのが一番よ。


「つまり、アナタは王子の恋人とか……。特別な相手ということかしら」

「もちろん」

「知らなかったわ。いつから?」


 これが本当なら大問題。先ほどの王子の様子から、彼はメーテルラブだろうと安心していたのに……。

 もしも、もしもよ? コーネリア王妃ルートの可能性がまだ残っているのなら、今のうちに芽を摘まねば……。


「いつって……。これからよ!」


 胸を張って堂々と答えられたので……。


「……そう」


 そう答えるので精一杯だった。


 ムリムリムリ! これ、どうしろと⁉ いろいろムリよ! 安心したけれど、別の意味で心配になってきたわ!

 コーネリア、本当に大丈夫? 困ったさんを通り過ぎ、危ない人になっていない?

 それでも頑張って次の言葉を繰り出す私。自分で自分を褒めてあげたい。


「……つまり、王子と親しくなりたいから私に協力を求めている、ということ?」

「違うわよ! なんでそうなるの⁉ 王子と私が恋に落ちるきっかけを先生が潰しているから、それを止めてくれと言っているの! なんでエピソードごとの相手が、先生みたいなオバサンになっているのよ! 納得できない! せめてそこはメーテルでしょう⁉」


 オバサンは事実だが、あまりに失礼な発言なのでイラッとする。

 それにしても……。やはり彼女は例のマンガを読んだことがあり、自分がヒロインだと分かっているようね。

 三つ目のエピソードは偶然だけど、確かに二つ目までは私もフラグを折るつもりで動いたので、コーネリアの推測は間違っていない。思ったより頭の回転が悪くないらしく、少し見直す。


「なんか眉間にシワ寄せて、微妙な顔をしているわね」


 少しは見直しましたけど、オバサンと言われイラッとしましたので。

 そんな私の気持ちを察することなく、コーネリアは爆弾発言を続ける。


「分かったわ。そんな顔をするのは知らないからでしょう? 先生には特別に教えてあげる! この世界の真実をね!」


 いや、だからアナタにイラッとして……。って、え?


「真実?」

「そう。この世界はね、私を主人公としたマンガの中の世界! つまり、本の中の世界なのよ!」


 なんだ、そんなこと。それなら知っているわよ。ん? 本の中? なにか引っかかり、確認の意味をこめ尋ねる。


「本の中、というのは……? マンガ……?」


 この世界にはそもそも『マンガ』が存在していないので、もちろんそんな単語もない。だから知らぬ振りをするが、そこは説明せず話を進めるコーネリア。


「どういう理屈かは私にも分からないわ。だけど私は本の中に吸いこまれたの。そして、その作品のヒロインになったの。そう、王子と結ばれるヒロインにね!」


 まるでスポットライトを浴びている女優のように高らかに言われても、正直困ります。


 でも、なるほどね。私は転生したと思ったけれど、彼女はマンガの中に吸いこまれたと思っているのね。

 私は前世が人生終了したと知っているから、転生したと分かったけれど、コーネリアは違うのね。死んだ自覚がないらしい。

 ……待って? 実は本当に彼女は吸いこまれ、転生した人間と二つのパターンがあったとしたら? 本当に吸いこまれたの? 転生ではないの? 考えると難しくなり、混乱してきた。答えが出そうにない。


 とりあえず……。

 私は微笑み、コーネリアの両肩に手を置く。


「……コーネリア。あなた、疲れているのよ。そんなに自分を追いつめないで。なにか困っているのなら先生、ちゃんと話を聞いてあげるから」

「私は正気よ!」


 大声で否定され、手を払われる。

 いや、こんなの私以外の人が聞いたら、絶対におかしくなったと思われるからね? 他の人に言ったらダメよ?


「もういいわよ! とにかく、私のジャマをしないでよね! 分かった⁉ なにしろ私は、未来の王妃なんだから! その私の言うことなんだから、聞いてよね!」


 そう言うと背中を向け、コーネリアは廊下を走り出した。


「コーネリア!」


 私の呼びかけを無視し、走り続けるコーネリアは、どんどん私から離れていく。



 廊下を走ったらいけません!



 そう言いたかったけれど、場違いなセリフだと分かっているので、言葉を飲みこんだ。






お読みいただき、ありがとうございます。

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