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視線の変化

小説を書くのは初めてです。

誤字脱字がありましたら、すみません。

楽しく書くことができました。

 『時間』それは人類が作り出した概念。地球上では古くから、太陽の動きによって周期を提示しその間の時を設定した。過去と未来、後から先、昨日から明日。現在の一瞬を隔てて未来から過去へ、あるいは、過去から未来へと時が送られる。時を操ることはできず、未来にも過去にも足を踏み入れることはできない。時を見つめ続けた結果が過去と未来を作り出している。

 

《過去を変えられたら、未来を見ることができたら、過ちを回避できたら。》


 夕暮れが過ぎ、あたりが暗くなり始めた頃、駅は家路を急ぐ人が交差して歩いている。そんな中、さっそうと人込みをすり抜けて歩く女性がいた。彼女の名前は原山夏希。日々の通勤で混雑にも慣れている。原山は駅の一角にある本屋で雑誌を手に取りレジに向かう。その時、ある陳列棚が目に入った。その棚では学生服を着た子たちが本を手に取り吟味していた。受験シーズンを迎える今、参考書と言われるあらゆる本が学生の手助けをしているに違いない。社会人になった夏希にはもう使うすべのない、自分とは縁の切れたその本を数秒見つめ、雑誌をレジに持っていく。


 家に着き、猫に餌をあげる。日々の動作は決まっていて、何となく見る程度のテレビが、ほんの少し部屋を賑やかにしてくれればとスイッチを入れる。一人暮らしの殺風景な部屋で、常備しているカップ麺にお湯を注ぐ。毎日同じような暮らしをして明日が来る。それが嫌ともうれしいとも思わず。いつもと違うことが起こったのはカップ麺にお湯を入れて3分たった頃だった。

来客の予定などない原山の部屋に来訪者を知らせるインターホンが鳴る。夜ということもあり、不審に思った原山はのぞきあなを覗き込む。そこには背丈の小さな、女の子とも言える顔をした女性が立っていた。服装がスーツでなければ、迷子が訪ねて来たのではないかと勘違いする程だ。


格好からすると、勧誘やらセールスの人に違いないと思った原山はチェーンをかけたまま扉を開ける。

「なんですか?」

この手の者は下手に相手をすると無駄な時間を費やすだけだと、どんな勧誘だとしても断るつもりでなるべく声を低くして尋ねる。


「タイムスリップ、したいですよね?」


何かの勧誘、セールスに人が訪ねて来たことは何度かあった。その時は食い気味で断っていたが、今回は突拍子もない言葉になんとも言えない不気味さがこみ上げ、10秒ほど硬直する。


「タイム、何ですか?」

タイムスリップと聞こえた。しかし自分の耳がちゃんと相手の意図する言葉を聞き取れなかったのではないかと疑い、再度聞く。


「タイム、スリップ。もしくはタイムトラベル。少し意味合いが違いますが、過去を変えたいと思っていますよね?」

彼女はにこりと表情を緩ませている。扉の隙間から見える彼女の表情は可愛らしく、やはり幼さが際立っている。


聞き違いではないことが確認できたが、間違いではないことでさらに恐怖が生まれる。どんな相手かも想像がつかず、どう対応すれば良いのか見当もつかない。


「どちら様ですか?」

夏希は聞いた直後に後悔した。タイムトラベルやらタイムスリップなどと口にしている気味の悪い赤の他人に踏み込んで質問すれば、厄介な事態になるはずだと思い、次に言うセリフを決めた。


「あなたは今日、18時34分、過去に後悔があると、思いましたよね?解決の手助けに参りました。」

彼女は細い腕には似合わない大きな腕時計を見つめながら言った。


先ほど決めていた断りの言葉を言いかけた。結構ですと言いかけた瞬間、”駅の本屋”というワードに驚いた。なぜ、この少女は本屋に寄ったことを知っているのか。知っているということは、尾行されていた可能性が高い。そして彼女の言っている後悔という言葉にも引っかかる。


「なんで、知ってるの?」

不安、恐れ、疑問に頭の中は埋め尽くされていた。彼女の外見、表情からは読み取れない、何物にも言い難い状況になっているのではないかと頭を回転させる。


「とりあえず、中入っても良いですか?」

彼女はにっこりと可愛い笑顔を見せる。チェーンをかけたつもりでいたが、いつの間にか外れており、彼女は少しの隙間からするっと玄関まで入ってきたかと思うと、靴を脱ぎだした。

「ちょ、ちょっと待ってください。だめですよ。」

そう言いながら彼女の靴を見ると小さい女の子が履くような赤い靴がきっちりと整えられ、驚いている間に部屋の中へと上がってしまった。


「未来、過去、に行けるとなると、現在という概念が曖昧になるんです。過去にさかのぼることによる矛盾。過去の変化は現在の変化でもあるんです。それがどの程度違うのかはその過去から現在までやり直してみないとわからないですけど、確実に違うことは言えます。」

家の中に入り、ソファのある部屋まで行きながら彼女は早口で言った。


「その違いを受け入れる覚悟があるなら、あなたの望みを叶えてあげられます。」


「覚悟、ですか。」

原山は人の家にずかずかと入り込み、ソファの前にちょこんと座る彼女になぜか自分が気を許し始めていることが疑問だった。

「過去を変えるということは、今を変えるということです。過去の後悔を変更できたとしても、”変更した今の原山さん”が幸せかどうかは保証できないのです。なので、覚悟して欲しい、とお伝えさせて頂きました。」

原山が入れたお茶を飲みながら、宇宙的なSF的な、言うなれば頭がおかしい話をする彼女は一体何者なのか、そんなことはさておいて、先ほど作って伸びたカップ麺を見つめて話を聞く自分に無性におかしくなってきて笑いがこみ上げる。


「そうなんですね。理解しましたよ。でも、どうやって過去に行くの?」


「まずはじめに、簡単に言ってしまえば過去に戻ってやり直して帰ってくる。です。原山さつきさんが変えたいと思っている時点、これをタイムポイントAとしますね。このポイントAに連れて行きます。そして、原山さんがそこで変更なりなんなりを行います。今現在の時点をポイントBとして、変更後ポイントAからBに戻ってきます。」


「それはわかるんだけど、何か機械を使うとか?マシーンがあるの?メカちっくなピカピカしたやつ?」

自分が口にしている言葉が可笑しくて仕方なく吹き出してしまう。


「そう言ったところは企業秘密ですね。」

と彼女は苦笑いした。

「でも一瞬です。ほんの一瞬でポイントAまで行き、帰ってくるときも一瞬です。」

クスクスと笑いながら、夏希はだんだん子供にからかわれているのだと思い始める。どこからか来た小学生が適当なアパートで誰彼構わず手当たり次第にからかいに来ては楽しんでいるのではないかと。今どきの小学生は突拍子もないことをやるものだな、と感心し始めていた。しかし逆に、こんな時間に小さい子を自宅に呼び込んで大丈夫なのだろうかと不安になってくる。


「今から、夏樹さんはお家帰らなきゃダメでしょ、と言おうとします。」


お茶を飲みながら少し真剣な表情で彼女は言った。まさにその言葉を言いかけそうになった夏希にとって心の中を読み取られている感覚になり、背筋が冷たく感じた。


「え?どうして。」

「え?どう、、、。」


「まってよ」

「まって、、、。」


自分が言おうとする単語すべて、彼女に言われてしまっていた。夏希の表情はどんどん硬くなってくのに対し、彼女の雰囲気は穏やかなままだった。

「我々は、時の中を移動することに長けているんです。なので、このくらいは、かなり簡単なんですよ。一時停止のコマ送りのような感じですかね。これで少しは、信じてもらえればいいんですけど。色々試した結果、このような容姿、タイミングが一番だったみたいです。」

夏希はしばらく沈黙した後口を開いた。

「本当なの?本当にタイムスリップできるの?」

「できます。夏希さんはどこに行きたいんですか?一応、我々は知ってはいますが、必ず確認を取るように言われているので。お聞かせください。高校生の時、教師の方に、ですよね?」

相変わらず微笑んでいる彼女には何もかもが見えてしまっている状態なのだと確信した。自分が高校時代の後悔とはだれにも話したこともなく、ましてや赤の他人が知るはずもなかった。


「変な話だけど、仮に、出来るとして。それならば、高校時代の、国語の先生に会いたい。」


「そうですよね。」

夏希はタイムスリップうんぬんよりも、誰かに聞いてもらいたかった。自分のもう取り返しそうと思ってもできないことはわかっていて、変更できたとして、何が変わるでもないようなそんな後悔を胸にしまってきた。当時を思い返せば胸が締め付けられる。たったそれだけのことだ。でも、胸のつかえはこのまま永遠に思い出して生きていくのかもしれないと。


「具体的な日時は私どもが決めますが、変更点の直前です。言うなれば、数分。できたと思ったら我々がこの時点まで戻します。」


「多分、高3の最後の方。職員室の近くの部屋で二人で話してる。そこに行きたいんだ。」

「わかりました。我々がつれていきます。再度確認です。変更した後の自分は変わっています。今のあなたとは少し違います。状況、環境なにかが変わってしまいますが、本当に過去に行きますか?」


「どうしても、行きたい。今がどんなになっても、この先、この思いが変えられるかもしれないなら。」

夏希は決意した。


「では今からいきましょう。」


肩をそっとさわり、意識がフッと消えた。


ほんの一瞬目を閉じて開くと、そこは高校の時代の制服を着た自分がいた。さっきまでの体型から高校時の自分の体にさほど違いはないものの、急に自分の体の感覚が変わったことに衝撃と、気持ち悪さが込み上げる。職員室近くにあるこの部屋は、教師と生徒の多目的に活用される小さな部屋。今現在も先生と生徒が教科書を持ち会話をしている。その教師は夏希が変更するにあたって相手となる教師だ。その生徒は、その当時誰だったかわからなかったが、今よく見ると、隣のクラスの女の子に似ていた。


高校時代の夏希は何をするにも臆病で、周りの目を気にしたり、強く主張できないような子だった。今でも大差ないのだが、あの頃から比べれば、何てことないと思えるほどに。

教師と彼女は今目の前で行われているように、ただただ勉強を熱心に教える者と教えられる者の関係だった。部活が終わり、すぐに職員室に寄り、自分だけの特別な宿題を出され、持ち帰り次の日に渡す。元々勉強ができる方ではなかった彼女はみるみるうちに成績が上がり、国語が好きになっていくと同時に、この教師に対しても憧れと恋愛的な感情が混ざった好意が積もっていた。好意を伝えるでもなく、ただこの時間が大切で、この時の流れがずっと続くと思っていた。この分岐点に来る二、三ヶ月前までは。

この分岐で戻った時の自分自身の何かが良くなることもないだろうなと感じている。あの頃から何となく、どうも胸につっかえた何かが取れればいいのに、と思うくらいの分岐点だ。しかし夏希にとっては重要な分岐点だった。


しばらくドアの小窓から眺めていると、なにか楽しげに話し終わり、女の子が部屋を出て行く。走馬灯のように昔の自分の気持ちになった。ああそういえば、あの時もこんな感じだ。次は先生が出てくるはずだ。

そう思った瞬間、部屋の扉が開かれた。


そこに立っていたのは、当たり前だがあの頃と同じ、私が、慕った、憧れた、好きだった彼のままの姿だった。


あの時の気持ちは忘れてしまったけど、胸がぐっと痛む何かがあったことは覚えている。この痛みが今になっても思い出された。何十年と時が過ぎ、本人に伝えるほどでもなく、あの時、あぁしていれば、と思っていた。

目の前の男はあの時と同じ、扉を出てから私と目が合う。彼の目は冷たくなった。そして何も言わずに立ち去ろうとした瞬間、あの時と同じ言葉が発せられる。


「そういえば、成績のことで親御さんに電話したよ。親御さんは自慢げに、話してくれたよ。すごく成績が上がったって。君にいいお姉さんがいて、僕もうれしいよ。」


この時のこの言葉は、当時の私には理解できなかった。あまりに突然で何故いつも柔らかな口調で話しかける彼が冷たく私に言い放っているのか。

何となく違和感はこの二ヶ月前から起きていた。いつもは向こうから声をかけてくれたり、自分が言葉を発せられなくても温かみのある目を向けてくれた。それがぱったりとなくなったのだ。何故だか理由はわからなかったが、今ならわかる。

当時、家に電話がかかってきたことすら知らなかった。彼から電話した、という単語を聞いて母に確認してわかったことだ。その当時母も父とは、あまり会話はなかった。姉は頭が良く、勉強が不得意である夏希に一度だけ教えてくれたことがある。しかし、たったの一回だけだった。たったその一回を母は見ていて、姉を誇らしく思っていた。


「お母さん、学校から電話あったの?」

「あぁ、そんな電話もあったわね。言ってなかったかしら?」

「聞いてないよ。」

「聡子は頭がいいからねぇ、一回教えたらみるみるあんたも成績が上がって、それでクラスを上にしたらどうだって話がくるから、びっくりしちゃった。でも断っといたわよ。聡子も東京の大学に行くから、教えられないでしょう?」


その当時、母の言葉を聞いて、何となく電話の内容と、先生が受け取った言葉を理解できた。


高校2年になり、先生から教わり初めて意を決して彼に個人的に指導をお願いし、毎日とはいかずとも、できる限り彼の出す問題を、彼が教えてくれた事を繰り返し取り組んだ。彼はもしかしたら母の言葉にショックを受けたのではないか。私に熱意を持って教えてきたことが伝わってなかったと思ったのかもしれない。だから、冷たい目で私に皮肉のような口調で言ったのではないか。今も昔も推測ではあることに違いはない。今の私も、当時の私も、人と話すことができるようになったのは、憧れたのは、恋い焦がれたのは、他の誰でもないこの目の前にいる教師によるものだと確信している。当時この冷たい目線が耐えられなかった。想いを伝えることもできずに、ただ何も言い返すことができずに突っ立ったまま彼が立ち去るのを呆然と見つめるだけだった。今この瞬間、変えることができたならと何度も思った。そして今この時、そのチャンスが与えられている。彼はあの時と同じように扉をしめ、立ち去ろうとしている。


「待ってください。」


そう言うと彼は向こうを向いたまま立ち止まる。

こちらを振り向こうとするのがわかったが、振り向く前に私は話をし始めた。


「母から聞きました。違うんです。私には出来のいい姉がいますが、教えてもらったのはたったの一回だけで、成績が良くなったのも、好きになったのも、できるようになった事も先生のおかげです。それ以外の何ものでもありません。本当にありがとうございます。ただそれだけ伝えたかった。」

そう言いながら涙が溢れ出してきた。ずっとずっと言いたかった言葉。上手く話せているのかわからなかった。感謝の気持ちをつたえられないまま生きてきた年月。今やっと胸のつっかえを取り払うことができた。


その言葉を聞いた先生は顔を夏希の方にむけ、驚いていた。きっと目の前に立っているのが当時の私だとすればこんなことを言い出せるわけもなく、泣いている姿も見せることなんてなかったからだろう。


そのときふっと周りの景色がスローモーションに見えピタッと止まり、外から聞こえてきていた部活をしている生徒達の声や、廊下を歩く教師、目の前の先生の動きが止まった。


「変更できましたね。」


にこりと笑う女とは対称的に夏希は涙を流している。

「そのあとのことの決定は、今変更した、当時の彼女にしかできません。今変更した事、また、我々の存在も忘れてもらいます。過去に行けるのは一度きり。あなたは、前のあなたとは変わっています。ですが、それはあなたの人生です。」

そう言って女は消え、意識が吸い込まれる感覚に襲われる。


気づくと、洗濯物が途中まて畳まれている所に起きる。時計を確認すると、19時を過ぎていた。


「あれ、ねちゃってた。夕食の支度しなくちゃ。」

台所に向かう夏希に尻尾を振りながら犬が駆け寄る。

「おさんぽは、後でね。」

頭をひと撫でして料理に取り掛かった。

夏希が夕食を作り終えた頃、玄関の扉が開かれる。そこには温かい眼差しの男が立っている。

「ただいま。」

「おかえりなさい。」

「今日のご飯は、なにかな。、、はっくしゅ!」

「風邪引いたの?」

「風邪かなぁ?なんだか、鼻がムズムズする。」

いかがでしたでしょうか。私も過去の後悔たくさんありますが、たった一つだけと言われたら、悩みますね(笑)

読んでいただき、ありがとうございました。

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