はるはきっと。
ずっとずっと泣いていた。
暖かい何かに見守られたような不思議な感覚に包まれながら、冷たい雨を全身で感じて。
のぞみは所謂いじめられっ子というやつだ。
西田夏海。
いじめっ子だ。
夏海に制服を奪われ、破かれ、池に捨てられた。
住宅街の用水池のため、ずっと水は澱んでいる。
ぷかぷかと楽しそうに浮かぶ制服。
そういえば、ここは波瑠が身を投げたところだ、と思う。
だがすぐに辛い記憶にふたをして、目を逸らす。
私の最愛の人。
だが波瑠はどちらかというと地味な方で、波瑠とわたしはすぐにからかわれるようになった。
いじめ、というべきかもしれない。人が一人死んでいるのだから。
なのに、波瑠は身を呈して守ってくれた。
それなのに私は、私は。
波瑠の最後の頼みも断った。自分が照れくさいから。
波瑠、と呼ぶことすらも、拒否した。
きっと波瑠は私を恨んでいるだろう。
好かれていたことすらも、いやだったのかもしれない。
だから、身を投げたのかもしれない。
脛にアスファルトがめり込む。
二の腕に指がめり込む。
情けなく嗚咽を漏らした時、波瑠の声が聞こえた気がした。
―1度だけでも、名前で呼んで欲しかったな。
弾かれたように顔を上げる。
だがそこには波瑠の姿はなく、暖かな薄桃のもやがかかっているだけ。
だが私は波瑠だ、と思った。
「…ごめんね」
喉を突いて出たのは、謝罪。
「そして、ありがとう。」
それと、感謝。
「…波瑠。」