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のぞみはみえるよ

「…角田ぁ…」

のぞみの瞳は潤み、その口から吐かれる言葉は掠れていた。

池の前。

しとしとと降り注ぐ雨は、一糸まとわぬのぞみを容赦なく打った。

この季節だ、いつ雪になってもおかしくないくらいの冷たい雨。

しゃがみこむ希望の白い肌は寒さに耐えきれずところどころ赤くなっていた。

池に静かに広がる数多の円。

それを見ながら角田波瑠(かくたはる)は思考を巡らせる。

傘の柄を持つ拳を握る。

波瑠は握力の強いほうだ、傘の柄がみしみしと音を立てる。

のぞみが黙ったあとは、ぱたぱた、と傘に雨が当たる音だけが耳に響く。

耳にこだまする。

ぱた、ぱた。

ぱた、ぱた。

まるで、何も出来ない波瑠を非難するように

ぱた、ぱた。

なぜ助けてやらない?

ぱた、ぱた。

なぜ何もしない?

ぱた、ぱた。

想い人を見捨てるなんて。

ぱた、ぱた。

波瑠は唇を噛む。

のぞみは喋らない。

ただただ、ごく稀に嗚咽を漏らす。

しとしとと降り続ける雨の中、波瑠は思う。

何故自分は、のぞみより先に()んだのだろう。

自分の考えはすべて間違いだった。

自分さえ死ねばのぞみへのいじめも無くなると、誤解していた。

自分がいるから、まだましだったのだ。

澱んだ池でふらふらと彷徨う制服。

のぞみの物なのだろう。

嗚呼、なんて。

嗚呼、なんて。

嗚呼、なんて愚かな真似を。

きっとのぞみも恨んでいるだろう。

助けることをやめた波瑠を。

そんな自分に、何かを望む権利なんてないのかもしれない。

でも。

でも、ただ一つだけ望んでもいいのなら。

「1度だけでも、名前で呼んで欲しかったな」

のぞみはふと顔を上げる。まるで声でも聞こえたかのように。

だが聞こえるはずはない。死んでいるのだから。

波瑠はそう自嘲する。

のぞみはこっちを向いて微笑んだ。

きっと自分の後ろに想い人がいるのだろう。

胸が痛んだ。

「…ごめんね。」

のぞみが声を上げる。

「そして、ありがとう。」

のぞみの声は震える。

「…波瑠。」

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