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核戦争後の現実

作者: プログラム

初投稿です。

 戦前の連中がこの状況を見たら、恐らく「こいつは気がおかしい」とでも思われるだろうな。だが生憎(あいにく)俺は平常心を保っているし、気も一寸たりとも狂ってない。

 俺はおかしくない。おかしいのはこの世界なんだ。


 茶色いコートを着ながら寝てた俺の朝の始まりは至って普通。

まずは自身の身体を拘束している羽毛布団を取り払い、枕元に置いてある拳銃を手に取る。もちろん拳銃の安全装置はオンになっている。

 寝起き真っ只中の状態だと何をしでかすかわからないのが人間だ。寝ぼけて拳銃を手にして自分の頭をぶち抜き、今までの人生に終了のお知らせをするなんて事は何があっても御免だ。

 いざという時のために、起床してから拳銃の安全装置を解除して標的に狙いを定める。この練習を毎日してきて、今じゃ二秒少しでこれが出来る。実際にそんな危機的状況に遭ったのは、この十何年かで二回あったくらいなんだが…


 今度は部屋を出る前の荷物整理だ。

 ベッドのすぐ横下に黒いリュック、その上に天井が平らな濃い緑の帽子が置いてある。それを持ち上げると、青地のカーペットがリュックと同じ部分だけ姿を現す。逆に、それ以外の場所は本来青地のカーペットの筈がうっすらと白くホコリを被っていて、それが元の柄だったかのようになっている。

 恐らく、この宿泊所の清掃員はストライキでも起こしているに違いないな。だが、これでも365日いつでも無料の宿泊所なんだ。翌々考えるとこれでも十分上等なほうだ。


 部屋を出たら、次は廊下のお片付けだ。

 もうこの宿には十分泊まった。「足元注意」、部屋を出て左右の床下には俺お手製の爆弾トラップが仕掛けてある。なに、作り方は簡単だ。

 まず手榴弾を固定している専用の金具は、道路標識の看板の一部を拝借してL字型に折り曲げ、壁や床に固定する為の釘が差し込めるくらいの穴を何カ所かにあける。そこに手榴弾を固定する為の輪っかを、余った看板の部品で上手いこと作る。

 これで俺お手製の爆弾トラップの大元が完成。あとはL字型トラップを釘で床とかに固定して、ワイヤーを手榴弾のピンに固く結んだあと、正反対の壁や床に差し込んだ釘にワイヤーを結んで出来上がり。足がワイヤーに引っ掛かった瞬間がそいつの最後だ。


 ようやく朝食のお時間だ。

 朝日の差し込む窓が唯一の光源。食堂は薄暗く、ジメッとした雰囲気を出しているが、窓側のほうから差し込む暖かな太陽の光が、どこか居心地の良い幻想的な雰囲気を生み出す。

「やぁ、ジェフ。今日もお前の頭はいい具合に輝いてるな!」

 食堂にいくといつもジェフは同じテーブルの上に居座っている。ジェフに初めて会ったのは一週間前、この宿に着いたときに安全確認の為、一通り宿の中を隅々までチェックしていた時だ。

 俺が手前に傾いていた食堂の扉を引っ張ると、いきなり長身で真っ白なやつが倒れてきた。その瞬間、反射的に右足がそいつの頭を蹴り飛ばしちまった訳だが、それがジェフだ。

 ジェフは俺の強力な蹴りを食らって奥のほうへ突き飛ばされたのに、頭には傷一つ入ってないときた。断言しよう、こいつは本物の石頭そのものだ。

「悪いがジェフ、今日でお前ともお別れみたいだ」

 ジェフと同じテーブルの椅子に腰かけ、リュックから一枚の写真を取り出してジェフの下に差し込む。多分、ジェフは無くした写真を見て大喜びしていただろう。


 ここでの最後の食事は豪華にしようと、リュックからこの宿の倉庫で見つけた魚の缶詰を取り出す。

 すでに俺以外の漁り屋がこの宿に来ていたらしく、食料や水といったものは根こそぎ持って行かれていた。あるのは空のペットボトルや空きの缶詰ばかりだったが、そんな中に唯一あった最高の一品がこの缶詰だ。

 どこぞの町で見つけて以来、俺のお気に入りの茶色いコート。その下の胸元に携帯していたナイフで錆付いた缶詰の(ふた)を開けようと手を伸ばした時、外から女性の悲鳴が聞こえてきた。

「お願い、誰か助けて!!」や「いやー!!」等々、良く聞くお助けサインばかりを高らかに叫ぶ女性を尻目に、ナイフを手に取って缶詰をこじ開けると、中から固形物少々のほぼ液状のものが姿を現した。

「なんだ? 今日は気前がいいな、ジェフ。わざわざ皿を用意してくれるなんて」

 そう言って、あらかじめ用意しておいた皿の上に缶詰の中身を出すと、とても香ばしい香りが辺り一面に広がる。それこそ食欲をそそられる匂いだ。

 女性の悲鳴が続く中で、俺はリュックから一本のワインと少々黒ずんだスプーンを取り出し、リュックを両足の間に挟むように真下に下ろしてスプーンを手に取った。


「この世に生まれて何年目か忘れたけどよ、ホントに”最高”のお祝いだよ」

 そして、缶詰のスープを一口食べて窓の外に改めて視線を向けた。まだ女性は二人の男に道路上で絡まれており、遂には押し倒される始末。


「ホント、”最悪”のお祝いだよ…」




―拳銃を手にして毎日起きる。この世界では安全な場所なんてない。

 

―話す相手がいない。ただの骸骨頭に話しかけた。


―腹が減ったし、記念日だ。腐った魚の缶詰を食べた。


―悲鳴を上げる女性を無視した。罠である可能性があったからだ。


―拳銃を手にし、貴重な弾薬を女性一人助ける為に使うと決意した。その女性は、心から助けを求めていると判断したから。信じたから…




 『俺はおかしくない。おかしいのはこの世界なんだ。』


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