猫編 ~私の知ってる干支と違う~
流血表現あり、となっていますがほぼそんな表現はありません。
十二支にもしこんな裏話があったら・・・とふと考えたことから発足しました。
「・・・と、いうわけだから、よろしく~」
・・・は?
私の目の前に広がるは、見知らぬ土地。
目の前にあるのは大きくて綺麗な湖。その中央には白い着物のような服を着たおじいさん。
それを取り囲むのは、青々と茂る木々に、美しい草花。
そして、植物を覆うように存在するのは、ありとあらゆる動物達。
龍やペガサスのような幻想的な生物から、カブトムシやハエなんかの昆虫類まで。
そうゆうのが皆、湖のおじいさんを見つめている。
この動物達に唯一の接点を挙げるとするならば・・・各種類一つずつしか見当たらないということくらい。
なんで『一匹』とかではなく『一つ』と表現したかって?
『一匹』、『一羽』、『一頭』・・・様々な動物と呼び方があったから統一出来なかったんだよ。『一つ』と表現してもおかしいけどさ。
「皆、元旦の日に会おうね~」
その言葉を最後に、おじいさんが消える。それを合図に、他の動物達も次々とその場を後にする。・・・否、そうしてほしかった。
皆、あきらかに雰囲気がギスギスしてるっす。殺意漂ってるっす。
え?どうして皆この場から立ち去ろうとしないの?そうゆうルールでもあるの?
そもそも、私はここで何してんだ?ここはどこだ?
えっと、最後に私は何をした。事故にあったなぁ。うん。車にドーンと当たって、死んだのか?蜃気楼か、走馬灯か、ここは一体なんなの?
そしてふと隣を見た私はやっと気がついた。
・・・犬がでかい。
隣に犬が居る。ここまでは良い。体が私よりでかいっす。
そんなに馬鹿みたいに大きいわけじゃなくて、本当にわずかな差だけど、犬の方がでかい。しかも目が殺気立ってるっす。私、ここで死んだかも。
そして、目をそらした私にさらなる追い撃ちが。
・・・私、四本足じゃん・・・。毛が生えてるし、指がないし、どう見ても人外だよ・・・。
後ろも・・・ああ、駄目だ、形が犬みたい・・・。しっぽあるし、後ろ足が見えるよ。
そして、綺麗過ぎて自分の体をはっきりと写せる湖を覗いてみて、私は絶望した。
・・・私、猫じゃん・・・。どちらかというと犬派なのに・・・。
えっと、これは、なんだろうか。近年流行りのあれか?あれなのか?
いやまさか。転生したわけじゃないよね。
こんな・・・猫の上体で状況の読めない場所で放置とか・・・無理ゲーもいいとこだよこんちくしょう!
ああ、そうしたら私、事故で死んだことになるのか・・・この世に生まれて十四年、人生これからだって時に・・・。そう考えると、すげえ残念な人生だな。
なんて考えてたら、龍が口をひらいた。
「とうとう、この時が来たな」
ガラガラした、低い声。良かった、火を吹くんじゃなかったんだ・・・転生したのに早速焼け死んだら嫌だもんね。
でも、その龍の一言で、明らかに他の動物達が表情を引き締めた。
え、何?何があるの?
というか、龍って人語喋れたんだね。いや、今私猫だった。人じゃなかったわ。
いや、そうするとなんであのおじいさんの言葉もわかったんだ?人語がわかるなら、龍語はわからないよね?
・・・まあいいや。考えると面倒臭いから止めておこう。
とりあえず、周りが皆真剣な顔してる・・・っぽいし、私もそれらしい顔しとこう。
猫の表情の動かし方って、わかるのかな?あ、なんとかなってるっぽい。湖に写ってる猫は複雑そーな顔してる。・・・結局あんま良くないじゃん。
「とうとう、干支を決める時がやってきたのだ」
重苦しい雰囲気の中、一人場違いなことを考えている私の周りで、動物達の殺気が強まった。
緊迫した空気が漂う。もうおうちに帰りたい。
しかも、干支?あの、鼠、牛、虎、兎と続いていくあれですか?あれですよね?
私の知ってる干支って言ったらそれしかないですけど。
でも、干支を決める話だったら知ってるよ?昔話で小さい頃よく聞いたもん。
確か、神様が干支を決めようって言い出して、元旦に初めて私の元に来た動物十二匹を選ぼうって話になって・・・。だけど、猫はその日程を忘れちゃって、鼠に聞いたら一日遅れの日程を言われて騙されて。鼠は牛の背中に乗って行くという悪逆非道な真似・・・もとい策略で一位になって、その他の動物も次々にやってきて、それで干支の十二匹は決まった。なんだけど、猫は騙されてたから一日遅れちゃって、干支に入れなかったから、猫は鼠を追い回すようになった・・・って話じゃなかったかな。
そうか・・・私は干支を決める時の動物に転生したんだな。
異世界でも未来の世界でもなく、私は過去の世界に、なんの特殊能力もチートも無く猫として放り込まれたっていうわけか!はっはっは!駄目じゃねーか!
しかも猫って。干支に入れてねーじゃん。
全然駄目じゃん。せめて牛にして欲しかったわ。
「ここにはありとあらゆる動物達があつまり、ありとあらゆる妨害工作が許されている」
龍さんがまだ何か言ってる。
周りは相変わらず殺意が漂っている。
あ、でも、この話の展開の終わりを知っているってことは、他よりは有利なんじゃない?・・・多分。
入れないことがわかっていれば、どっかに隠れていれば良いわけなんだから。
「ルールはこれ以外決められていない。 ・・・殺傷も駄目と言われていない。 ここまで言えばわかるな」
はい?なんか私の知ってる干支の話と違う。
なんかこう・・・もっとほのぼのとした・・・。
「元旦まであと三日ある。 その時までに、邪魔者は消しておけば良い」
え、ちょ、まち・・・!?
龍さん、なんでそんなこと言うの!?
なんで周りの動物さんたちも頷いて覚悟決めてんの!?
私知らないよ!?何にも知らないよ!?
ひとり硬直し話について行けていない私を余所に、動物さんたちは威嚇の唸り声を出したり、堂々と吠えたり、咆哮や雄叫びみたいなのをあげたりし出した。
ああ、私死ぬね。間違いなく今ここで。
転生開始五分で死か・・・なんという残念な人生。
ーーーって、死んでたまるか!
何がなんでも逃げてみせますよ!
戦えって?あななは私に死ねとおっしゃるのですか?そんなの無理に決まってんだろ!戦いに飛び込んで行ったらガチで死ぬわ!
ここの動物さんたちの誰か一人でも動いたら私も逃げだそう。今動いたら、逆に目立って殺されかねなーーー。
「炎の息吹!」
ボカァーン!!
ほんの数秒前まで昆虫達のいたスペースに、大きく風穴が開いた。
龍さんが、口から豪炎を吐いたのである。
・・・前言撤回。今すぐ逃げよう!ここで立ち止まってたら死ぬうぅ!
私は背を向けて、全速力で駆け出した。他の動物たちも、私につられたのか、一斉に他の方向にバラバラに駆け出した。
後ろから龍さんの声がする。
「あんな雑魚共はいなくたって変わらないだろう?」
あーはいそうですね楽しそうで何よりですううっ!
小さい体で薮やくもの巣をくぐり抜け、落ち葉や土を踏み、小枝の先に引っ掻かれながら私は駆けた。
そりゃあもうありえん顔相で、全力疾走で。
ぜー、ぜー、はー、はー。
つ、疲れた。もう無理・・・。
しばらく走り、他の動物が見えなくなってから私は地面に倒れ込んだ。
そ、それにしても、猫って意外と速いんだね・・・。人間時代の私もこんなに早く走ったことないよ・・・。
それに、鼻も耳も、私が人だったときより全然良い。森の臭いが臭いっす。
えっと、これからどうすれば良いんだ?
たしか元旦まであと三日だっけ。でも、どこに行けば良いのか全くわかりません。
どうすれば良いのかもわかりません。
えっと、とりあえずあれだ。死ななければなんとかなる。うんきっとそうだ。
干支に入ることより、命を大事にして行こう。
そうなると寝床も必要だし、食料も必要になってくるよね。
湖に戻って魚をとる勇気は無いし、そもそも泳げないと思うし、龍に殺されたくないし・・・。
川とかないのかな?水が手に入るならこの際水溜まりでも構わないのですが。
でもまあ、そうだなぁ。疲れたから休んでから考えよう。私猫だし。そんなに起きていられないのーーー。
ドガーン!!ズドドド・・・バリバリ、ズダァーン!
え?ちょ、これ、何の音?
何かが爆発して崩れて・・・その後の効果音は一体何!?
龍さん・・・どんだけ暴れてんの!?
いや、ペガサスとか熊とか象とかもいたから、そのへんかもしれないけど!
これはあれだ、休んだら死ぬわ。
かなり離れたと思っていたけど、この辺も危ないのかも。
足の遅い動物達は、これで死んだのかもしれない。
そういえば、最初、私の側に可愛らしい亀さんがいたような気がしたのだけど・・・亀だもんね、おそらく間に合わなかったろうね。ご愁傷様です。
いや、明日は我が身かもしれないんだ、感傷に浸ってる場合じゃない!下手したら今日は我が身だよ!
ここは進もう。うん。
そうして私は森のもっと奥深くに踏み込んだ。
森の臭いがますますきつくなったが、森の中は相変わらず明るく、不気味な静けさにつつまれていた。
それにしても・・・まさか干支を決めるのがこんなにも命懸けだったなんて。知らんかった。
すでに昆虫さんたちや足の遅い動物達の命は無いと思っていたほうが良いし・・・ああ、開始早々リタイアが続出だよ・・・。
というか、絵本の話美化されすぎ。誰だよ、あんなに美しい話にした奴。軽くボコッてバラバラにして東京湾にコンクリート詰めにして沈めてやりたいわ。
おっといかんいかん。ついつい本音が。女の子なのにそんな事言っちゃ駄目ですよね。
それにしても、静かだね。風も吹かないし。自分の足音しか聞こえな・・・って、足音立てたらやばくね?
居場所がばれたら殺されかねんわ!
私猫だし。殺傷能力とか無いし。襲われたら死ぬし。
ここはあれだ。プニプニの肉球で、一歩一歩慎重に音を立てずに行こう。
というか、猫だったら鼠と会わないとストーリー的におかしくね?いや、そもそもあの乱戦の中、鼠が逃げ切れてたら逆にすごいわ。尊敬に値するわ。
まあいいや。この際ストーリーなんか関係無いよね。鼠よ、生きていたらいつか会おう!
というか、ふと思ったんだけど、猫って神様の話を寝坊して聞き逃してる設定じゃなかった?
寝坊して、神様の話を聞き逃して、鼠に聞いたら騙されてーーー。こんなストーリーだったはず。
猫、がっつり起きとるやん。がっつり話聞いとるやん。
もう原作崩壊レベルの話じゃないよね。私の知ってる干支と違うよこの話。
ズドォ・・・ン・・・バラ・・・ガァン!
まだ何か聞こえるううう!結構進んだと思ったのに!
ああそうか・・・歩幅が小さいからだ・・・。猫ってそうゆうとこ不便なのね。
まあうん、落ち込んでもしかたない!進もう!
臭いはキツイけど森の草木は綺麗だし!
進みにくいけど薮も花も元気一杯だし!
駄目なとこも一杯あったような気もするけど私は元気だし!
ていうかさあ、もう龍さんが一番で良いでしょ。
誰がどうみたってそうでしょ。龍さんが一番強くてでかいっしょ。最強でしょ。誰もあんなのに敵わないっしょ。
しかも何よ、「ファイヤーブレス」って。チートスキルか!反則だ!
でも、十二支順で行くと、鼠、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪だから、龍さんは五番なんだよね。上位四匹は、どうやって龍さんに買ったんだ・・・とくに兎。
鼠は強そうな牛の背中に乗って行ったらしいからまだなんとかなりそうだけど・・・兎って。
どうやってあの龍さんから逃げきれるっていうんだ。残酷過ぎる。いや、鼠も牛さんに出会う前に死んでそうだけど。
正直言うと、私もよく生き残れたよね。猫なのに。
そういや、キリンとかもいたけどどうなったんだろう。あんまり走るの速いとは言えなさそうだし、首長いから隠れにくいだろうし、狙いも大きいだろうし・・・大丈夫なのかな?
まあいいや、他人の心配はしないでおこう。
そんなどうでも良いことをひたすらに考えながら歩いていると、川が見えてきた。
おお、川だ!水の確保に成功したーーーって、何か話し声が聞こえない?
あっちの方から聞こえるけど。何か争ってるみたい?
まあいいや。気にしないようにしよう。ライオンと虎の喧嘩だったらやばいしね。
ここで大声出せるんだから、相当腕に自信があるってことなんでしょ?死ぬわ。見つかったら私死ぬわ。
水は、もう少し離れた安全な場所で飲もう!
私は川から数メートル離れたところにある薮の中を、慎重に進み始めた。
葉っぱが当たってチクチクするけど、この際仕方が無い。
でも、意外となんの動物も現れないんだね。拍子抜けしちゃった。
湖を離れてから会ったのは、川近くで喧嘩してる謎の動物達だけだもん。
龍さんにみんなやられちゃったのかもしれないけどさ。
だけど、私は逃げられた。私は今を生きてます!!
これからどんなことがあるかわからないけど、人生そのうちなんとかなるよ!
と、いうわけで、突然始まった私の猫人生、のんびりと水を飲むことを目標にいこう。
投稿ペースはそんなに早くないと思いますが、のほほんとのんびり投稿していきたいと思います。
最低でも一ヶ月に一度は更新したいと思います。