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プレリュード第二番

俺は今、体育服一枚で広大なグラウンド(しかも地下)に一人途方に暮れている。


連れてきてくれたはずの八雲さんも担任の先生もいない。


・・・新手の虐めなのだろうか。虐めなんだろうなー。




身に覚えがなさすぎるんだけどさ。





一時間前の話。


朝から連続三教科の学力テストを受けた俺は、もう身も心もくたびれきっていた。


「つーか全部の強化のテストに明確な悪意を感じざるを得ないんですが」


「気のせいです」


ちなみに俺はまだ生徒会室から一歩も出ていない。


まだ編入生の俺を迎える準備ができていないとか。ちなみに今日は金曜日。八雲さんは今日も編入生指導の名目で授業をサボッ・・・いえ、公欠している。


朝の6時に呼び出されたのだから眠くてしょうがないのだが、それ以上にテストに疲れた。


「いや、あんな問題始めてみましたよ」


どんな問題かと言うと、


国語・・・全編にわたってひたすら感想を述べよ。それも解答用紙がひたすら作文用紙。ひたすら手抜きな問題だった。


数学・・・全編にわたってどう見ても難関私立の入試最終問題詰め合わせ。手抜き以前にいろんなとこに引っ掛かっている。と言うか問題の最後についている(〜年度〜大学)の文字くらいは消しとけよ。


英語・・・突然私はボブだと名乗る中国人が入ってきて50分間ひたすら英語で漫談。意味不明なのに加えて途中で故郷は富山だと言っていた。どこらへんがおかしいのかもう説明が付けられない。


といった内容だ。


気付いてほしい。英語はもう問題ではないことを。


「私は特に何も感じませんでした」


嘘つけ!声が笑ってんぞ!


「というより俺本当にこの学校に入るしかないんですか?」


となりのオリオン大学付属学院高等部【水無月】はたしか男子も半数はいたはずだ。


「残念ながら、一度入学手続きが完了したらもうこの学園都市内での転校は不可です」


「なんで!」


「・・・隣の方が奇麗どころが多いとかで転校手続きを出した方々が大勢いるからです」


・・・とばっちり?ねぇ俺ってばとばっちり?


「そんなことはどうでもいいですから、さっさと昼食を済ませてください」


まだ買った弁当(充実した商店街にて購入)のパックを開けてすらない俺をせかす八雲さん。この状況を見てから言おうね。


「八雲さんは食べないんすか?」


さっきからずっと座っている【副会長】の机の隣、【書記】の机の上に置いてあるバッグからようやく弁当を取り出し開く俺。


訪ねた先の八雲さんは、その豪華な【生徒会長】の執務机の椅子にもたれかかるように(体が椅子に包まれているように見える)しながら気だるげに(表情は変わらない)こっちを見ている。


「私はこれで」


とサンドイッチのお弁当・・・しかも手作りのそれを取り出す。


う、うまそう!


「ゴクッ」


「あげません」


「ゴクゴクッ」


「あげません」


「ゴクゴクゴクッ」


「あげませーん」


・・・・


・・・・・




「あなたのせいで約束の時間に間に合いません」


二人して学校の廊下を走りながら(洋館作りだからもちろんフローリング?いや、木張り?)怒った声で俺を責める八雲さん。


二時から俺の担任と会う約束があったらしい。言えよ。言っとこうよ八雲さん。


「いや、ムキになった八雲さんも悪いでしょう?」


あのあとサンドイッチの取り合いを1時間もしてしまった。アホだ。俺もアホだが八雲さんも相当頑固と言うか・・・ノリがいいのか?


「私はあなたがしつこく言い寄ってくるからそれを・・・」


「あぁ!いくら授業中で人がいないからってそんな誤解を招くような危険な表現は「つきました。ここです」・・・って俺が先に走ってるんですから止めてくださいよ!」


くそ!二教室分くらい先走ってしまった!



「失礼します。ミナコ先生に用事があって来ました。入ってもいいですか」


その抑揚のない声でパーフェクトな職員室に入るときの決まり文句(違うか?)を話す八雲さん。


というか生徒会室に比べて相当質素・・というよりも普通な職員室だった。生徒会ずりー。


「あぁ、水原先生ならさっき【野戦場】に準備しに先に行かれたよ。」


中年くらいの女性の先生が教えてくれた。・・・というか、この学校の教師は全員女性か定年過ぎたおっちゃんしかいないようだ。まぁ元女子高なら仕方がないのだろうけども。


「わかりました。ありがとうございます」


結局おれは一言も言葉を発しなかったんだが。入ってよかったのかな?



「【野戦場】?そんなもんがあるんですか?」


そんな・・・ここは軍か?軍演習場だったっけか?


「ちがいます。【野戦場】とは第十四グラウンドの通称です。・・・ばかですね」


あぁ。もうこの人、言葉でバカって言っちゃってるよ・・・。


「第一四グラウンドって、この学校十四個もグラウンド持ってるんですか?」


見たところ、校庭は大きいのが一つと小さいのが一つの計二つしかない。体育館も一つだ。


「いえ、この学園都市全体の公共グラウンドのことです。この学園都市にはグラウンドは大小合わせて三十個あります。まぁ高等部地区にその三分の一がありますが」


八雲さんによると、その公共グラウンドは各学校の生徒なら自由に使用して良いグラウンドとそうじゃないグラウンドとがあるらしい。今回行く第一四グラウンドは、その中でも教員の許可と引率の必要な特別グラウンド。なにがあるのかな?


それにどうやらここは学園都市を一つの学校として考えているようだ。だって今普通に校門出ちゃったし。


まぁ広大と言っても一つの街に高校が3つも4つもあるんだから文句は言えない。


そうこうしているうちに、そこそこ大きなグラウンドに出た。


【第二七グラウンド】


「八雲さん?間違えてません?」


どうみても一四には見えない。数字にしても無理ですよね〜。


「いえ、間違えていません」


きっぱりと言い切る八雲さんだが、ここはどう見ても・・・


「二七ですよね?」


すると八雲さんはにやりとした声で


「地下、です」


そう言った。



確かに階段があった。厳重な門がその先にあるんだけど。


「はやく着替えてください」


体育服は、白地にブルー。




そして冒頭に戻る。というわけだ。


だが今俺の目の前にはスーツを着こなしたナイスバディーの若い女性が立っている。


八雲さんは階段に座っている。


名前聞いてねー年聞いてねー


「さっそく運動力を測定しようか。まず君は霊力を使えると聞いているのだが」


「あ、はい。この学校の入学条件でしたんで一応は・・・」


この学園都市オリオンは精霊魔導士こそいないが、全員に錬金術を教えるというのが方針だ。だから新入生じゃない限り霊力は必須条件となってしまう。


そもそも霊力とは体の内側から発生する、生きる力の余分な部分である【陰の霊気】と、空気とは別のものですべての生き物から放出される陰の霊気の変わった姿である【陽の霊気】を混ぜ合わせ、組み合わせることで発生する力だ。


訓練すれば誰しもが手に入れられるが、一般に【霊力の才能】と呼ばれる霊力変換効率は人それぞれに差があり、これが高いほど少ない霊力で大きな力(馬力)を出すことができる。


だがただ霊力を出していてもなんの役に立たない。ただ陽の霊気に変化してそこら辺に漂うだけだ。


だから精霊魔導や錬金術を身につけ、形を整えて力を出す。


世界の基本だ。


「ふむ。ならばその手に持っている錬金核を作動させてくれ」


錬金核って・・・この片手に持っている小刀のことだろうか。


「あの、わかんない・・・」


「ああ、その錬金核に霊力を注ぎ込む感覚だ。もっと砕けて言うと・・・そうだな、全感覚を錬金核に集中させるんだ。血を通わせる感覚だな。いや、難しいか・・・」


少し頭をひねりながら考え込む仕草をする若くてナイスバディーの女性。いや、長いから担任(仮)でいっか。


「ああ、だいたいわかります」


精霊魔導は錬金核の代わりに【コントラクト】を使う。


コントラクトとは生まれながらに利き腕に刻まれた紋章で、それがあるかないかで精霊魔導士になるか供給者(精霊魔導士が使う言葉で、陽の霊気を出すだけのためこう呼ばれる)になるかが決定する。


ちなみにこれがないと魔導門を開けない。そしてこれが消えることも・・・・ないはすだった。


「ならやってくれ」



すこしずつ神経を錬金核に向けて行く。


「おわぁっ」


いきなり錬金核が光った!?


そのまま錬金核は刀の形に落ち着いた。


「ほぉ!いきなりできるなんて!」


感嘆の声をあげる担任(仮)。いや、八雲さんも少し驚いた声を上げた。


「これが・・・錬金核?」


緑色の光を上げる刀。いや木刀のようなものなのかもしれない。


「そうだ。まぁたくさんの形があるが、一番使いやすい刀型にした。それを中心にして霊力をからだの外に纏うことができる。たとえるなら体で練った霊力をからだの外に出す感覚だ」


やってみるが・・・なかなか難しいぞ?


「そう簡単にできるものじゃないさ。それじゃあテストに入る」


そう言って担任(仮)は俺の持っていたものと同じよう小刀を取り出した。


「この状態は【Initial state(初期状態)】略して【Is】だ。そしてこれが・・・」


そのままきゅっと錬金核を握り、


「Release(解除)00」


一言つぶやくともうそれは俺のとおなじ刀型になっていた。


「【Arms form(武器形態)】まぁここからはそれぞれの型番やら名称やらだな。ちなみに私のと陽乃のは【TBP-a01】通称ボクトー。きちんと受けなきゃケガじゃすまないかも」


そのままボクトーを振りかぶり俺のほうに振り下ろした。


尋常ならざる速度で。



「よ!八雲」


私は階段を降りてきた日焼けした褐色肌でショートカットの少女に顔を向けた。


「あいつが男子転校生?ずいぶんとちいさいのな」


彼女の名前は火崎 薫。私と同じ学年、クラス、特務科だ。


「つーか前髪なっが!あれじゃ顔見えねーんじゃねーか?」


「・・・彼、他人と目を合わせてしゃべるの苦手のようですのでしょうがないのでは?」


そう、私とおなじ。人との関わりを最低限捨てている人間のような気がする。


「ふーん。にしてもなんでまた特務科用の編入メニューやってんの?男子だから?いくら人手不足でも使えねー奴はいらねーし」


「このテストの結果を見ればわかるのでは?」


そう言って私は午前中のテストの結果を見せた。


ちなみにあのテスト事態には全く意味はない。肝心なのは疲れやストレスなどで発生する特殊な霊力の余波を測定するものだ。


「こいつはすごいな。今の私と変わらないくらいあるじゃねーか!」


「ちなみに彼、シリウス学苑からの編入生です」」


シリウス学苑・・・秋田にある精霊魔導の超名門校。別に精霊魔導が使えなくても入学は可能だが、一定の供給者足る霊力は必要だ。


「まぁ必要最低基準の霊力は軽く満たしてるけど・・・運動能力の方がないときついんじゃねーのか?」


「それを今テストしようとしているんですけど?」


野戦場のほうに目を向けると、陽乃 紅姫は【Is】の練金核を作動させようとしていた。


「まぁ、そう簡単にいくような物でもないんだよなー。私らの代で一番早くリリーズ出来た奴でも一時間かかったしな」


「ちなみにあなたでしたが。」


「そうだったっけ?」


「私が一時間10分でした。まぁ気にしちゃいませんけど」


まぁ、あと二、三時間は覚悟しておこう。


「おいおい!八雲!ありゃ決めちまうんじゃねーか?」


いくら霊力が高くても・・・


「うそ・・・」


彼は、陽乃 紅姫は、完全なリリーズを成功させていた。





唸るボクトーをとにかく避ける。


んなもん受けたら腕砕けるって!


「躱すだけか?つまらんぞ!」


そう言ってさらにボクトーを振り回す手を加速させる担任(仮)。


いや、あんた楽しませるためにやってませんから!


命、かけてますから!


「はん!動きが単調な攻撃に対してそんなに間の抜けた躱し方じゃ・・・」


ガッと背中に道がなくなる。やばい!障害物か?


「こんな風に追い詰められてしまう。躱せるか?」


担任(仮)の右手とその手に握るボクトーが輝きを増す。


何か来るのは本能的にわかっている。


だが悲しいかな逃げ場が全て封鎖されている。


「当たっても気絶程度だ。まぁ、受けるなり躱すなりしろよ?」


グッと空気・・・いや、霊気が吸い付けられる。


「突破!」


くっ!こいつは確実だ!確実に死ぬんだ!


一気に振りぬかれるボクトー。多分霊力を付加させて衝撃を飛ばす技だろう。ならそれをかわす! 


なぜなら受けたら痛いから!


まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、今?うぉ!今だよ!


体を目一杯反らす。鼻かすった。


皮ムケタ。


「なに?躱したか!」


一気に下まで振り下ろされたボクトーだ。


すぐに第二波は打てまい。

チャンス!ここで俺は・・・


距離をとった。


乱れた前髪を直す。


だってー!あのオネーサン一瞬眼がマジになった!


ポニーテールに結われた茶系の長い髪を風になびかせ猛禽類のような眼でこっちを見る担任(仮)


「陽乃・・・何かやっていたか?」


言葉は堅いが口調はとても楽しんでいるようすだった。


「護身術を、嗜む程度に」


「成る程。ならその護身術とやらのレベル、見せてもらえるかな?」


鋭かった眼が、さらに細くなった。


いや、瞬きか。ゴメン。


「お手柔らかに・・・」



ミナコ先生の唸るボクトーをかわす・・・って言ったらさっきと一緒かもしれないけれど、少しずつ陽乃 紅姫は受け始めている。


もちろんそこには止めるという動きはない。だが少なくともさっきのように逃げ回ってはいない。


「ありゃ・・・すげえな。私らにはまだまだだけど他の連中じゃ歯が立たたねー動きだ」


薫が感嘆する。無理はない。


「・・・でも、避けの動きに無駄がなさすぎます」


「確かに。あれじゃ攻撃なんてできやしねえ。あとあんだけ動いているのにそこまで乱れていないあいつの前髪は脅威だね」


普通いくら避けると言っても相手との間合いを取りあったり、それができなくても正面を向くはずだ。


前髪は・・・知りません


「背中でも何でも平気で取られやがる。まぁそれでも全部紙一重でかわしてんだけどな」


彼はもしかして・・・


「・・・攻撃の動きを必要としないのならば、たしかにあれで完成なのかもしれません」


わたしの言葉は薫には伝わらなかった。


背中の方からひどく痛そうな音と悲鳴(男の)がしたからだ。


「うぉぅ・・・ありゃ気絶もんだ」



かわしながら攻撃を流す。


相手の獲物の側面を滑らせ、すれすれの部分をからだをひねってかわしていく。


前髪が乱れるが我慢するしかない。


んー。アリアに感謝だね。叩き込まれた(文字通り)甲斐があるってもんだ。


「やるな。端から攻撃をすることを捨てた動きだ」


「むこうで叩き込まれたもので」


横薙ぎを縦に変えて振り下ろされるボクトー。


そのまま横にスライドして距離を取ろうとする。


だがそこからさらに軌道が・・・変わったぁ!?


「連蛇!甘いってことだよ!」


こうなりゃ!


そのままこっちに突きをするボクトーに直接俺のボクトーの先を当てて軌道を滑らせ・・・ようとしたがあまりの衝撃に俺のボクトーが弾かれてしまった。


「くっ!」


間一髪のところでターンを入れながらしゃがみこむ。そのままステップ。前髪が持って行かれちゃってるが・・・ってまたボクトーの軌道が変わった!?




「いったろ?連蛇。軌道を無理やり捻じ曲げるれっきとした錬金技だ。そしてこうするとどうなる?」


まさか!


「突破!」


さっきのバカパワーがねじ曲がって来た。こいつはもう・・・いい夢旅気分だ。





















気がついたら空の上だった。






なんていう夢を見た。




今回も長過ぎた・・・かもしれません。


次こそは!もっと読みやすく!

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