第十二話:ワルツ第十二楽章
携帯電話片手に、もと来た道を一目散!・・・っていきたいとこだけど、それは小林さん的に無理、ってわけで、ゆっくり急いで移動中。
<RRRRRR・・・RRRRガチャッ>
「あ、もしもし、薫さんですか?」
「おう、姫ちゃん」
「すいません、さっきは手が離せなくて」
「いいって。それより、八雲が目、覚ましたぞ」
「そうですか!よかった・・・八雲さん、大丈夫ですか?」
「ま、一応はな。でも霊力の過度な使用で、ちょっと霊力にノイズが入っちまってるから、最低一週間は霊力の使用禁止だけどよ」
「でも、それぐらいで済んでよかった!もっと大変なことになってないかって・・・」
「ったく。姫ちゃんは心配性すぎんだよ。あんな慌てた顔してきたから、てっきりあたしらもひどいことになってんじゃないかって、余計な心配しちまったんだからな!センセーなんて大泣きしたんだぜ?あの年でー・・・って痛いっ!」
ドゴッと後ろで鈍い音。薫さんたちの様子からして、本当に大事なさそうだ。霊力ノイズなんて、訓練してれば何度か体験するものだ。本当によかった。
「ってーな。センセーガチで殴っただろ!・・・え?変われ?へいへい。んじゃ姫ちゃん、センセーに変わるぞ」
「の前に、なんで薫さんまで俺のこと姫って呼んでるんですか?」
「え?なんでって、そんなのかわいいからだけど?」
「・・・もういいです。先生と変わってください」
「ケラケラケラ!ほらセンセー、後よろしく」
しばらく話し声がボソボソと聞こえて、ガタッという音と一緒に相手の声が変わった。さっきとは打って変わって凛とした声。
「もしもし?」
「あ、先生」
「ああ。日乃か?私は大泣きなどしてないぞ「してたじゃねーかよ」うるさい薫!こんどは本気でやるぞ!・・・ああ、それでだ。どうだ?そっちの用事は済んだか?」
「はい。もう大丈夫です。で、どうします?」
「生徒会室を使おうかとも思ったんだが、後片付けやらなんやらでな。学園内には職員が大勢いる。ここで話し込むのは少し無理があるかもしれん」
「あー、じゃあ、どうします?」
「そうだな。人が寄り付かないところがいいが、だが八雲もまだふらついている状態だから、できればベッドのあるところで休ませながらじゃないと辛いだろう」
「寮は?八雲さんの部屋とかなら・・・」
「それは考えないでもなかった。だが寮は宴会騒ぎになってるらしい。職員宿舎もじきに同じ状態になる。となると場所がないんだ」
確かに、あんな緊張状態から解放されたんだ。一気に糸が切れて弾けてるんだろう。クラスメイトの顔を思い出すと・・・乱痴気騒ぎだな。
こっちの気もしらずに、とは思わないでもない。だがあと仕事まで当事者が。尻拭いをほかの人間にさせる気なんて毛頭ないし、なにより事態が特殊すぎる。不可能だ。
「俺の部屋は?ほかに住人はほとんどいませんし、たぶんその人たちもほかの場所へ行ってると思います」
「いいのか?おまえがいいなら、こっちも文句はないんだが」
「大丈夫ですよ。狭いですけど、モノがほとんどありませんから、四、五人くらいなら余裕です」
「わかった。確かオリオンハイツだったよな?」
「はい。今俺がいる場所家に近いんで、先言って準備しときます」
「すまんな」
それっきり、電話は終わり。
さ、ベッドやらなんやら準備しなくちゃな。
『男の一人部屋に複数の女性を・・・。いやはや、それが愛、ですか』
「そんなんじゃないし、愛は関係ないでしょ」
『それより、私はどうしましょうか。隠れておくにも、今は不可視にはなれませんからね』
「なにいってんの?説明するよ」
『はい?』
「いや、説明するって。っていうか、小林さんは現段階でむこうに帰れない、精霊の力を使えない、ってなったらほとんど人間じゃん。だったらとりあえずは居場所作っとかないと。もしかしたらむこうに帰れないかもしんないんだよ?」
むこうに精霊核があるのにこっちで精霊核を持ってしまう、なんて前例がない。何が起こっても不思議じゃない。
『確かに、一理ありますね。ですがいきなり精霊だと明かすんですか?』
「うん。俺のことも含めて、全部、説明する」
『姫・・・』
「もう八雲さんには言っちゃったしね。なんか一人に話したら、すっきりしてさ。変えられないんだ。過去なんて。だったらもうしょうがないじゃない?」
『ですが、問題は山積みですよ。すべて話したとして、それ以外の全員に話すわけにはいかないでしょう。当事者だけにとどめておくべきです』
「カバーストーリーが必要だって事?」
『それも、なんの矛盾点もない、完璧なストーリーが』
「問題山積みだね」
『そう言ったでしょう?』
「ま、最初は隠れててよ」
『どこに?』
「押し入れ」
★
「さ、八雲、ここに横になれ」
「すいません。姫、借りますね」
「いえいえ。じゃ、あー、すいません先生、薫さん。少し席をはずしてもらいませんか?」
「おいおい!ここまできてそれはないだろうよ」
薫さんがムッとした顔で言った。でも今は一番確認しなくてはいけないことがある。
「大丈夫です。えっと、八雲さんと情報を一度整理したくって」
「それなら私たちがいてもよくはないか?」
確かにそうだ。どうしよう、あのこと、二人が知っているかどうかもわからないのに、むやみに話すべきことじゃない。
「お願いします。どうしても、確認しなくてはいけないことがあるんです」
すると薫さんの表情が変わった。
「姫ちゃん。ちょっと外でよう」
「え?」
「いいから、日乃。外へ出るぞ」
★
「先生、八雲は?」
「大丈夫だろう。霊力は使えないし、なにより今の状態じゃ一人では動けまい」
「あの、なんで外に出たんですか?部屋に戻らせてくれませんか?」
「・・・それは、八雲の笑顔のことか?姫ちゃん」
え・・・?
「お前も見たのだな?日乃」
二人は、あの事を知っている?あの壊れた笑顔を見たことがあるのか?
「見ちまったんだな。・・・安心しろ。姫ちゃんが心配してることは大丈夫だ。その時の記憶は八雲には残ってない」
ってことは、当事者は全く知らないってことか。
「私たちも一度みたことがある」
「その時はなぜ?」
「昔、北関東で錬金術師を狙った傷害事件が多発してな。その事件の犯人の精霊魔道士を、調査を依頼された私たちのチームが、犯人の仕掛けた罠に嵌まって追いつめられたんだ。そのときだった」
「あの野郎、今でも許せねぇ。でもよ、あの時の八雲は人間じゃなかった。すぐに先生と私、学生会の先輩で抑え込んだからよかったんだけどよ。あのまま行ってれば相手は廃人になってた」
あの時、違和感を感じた時に先生たちは止めたのだろう。俺らがのんきに感心してるときに。クソッ!あの時止めてれば、八雲さんは今より苦しむことなんてなかったからかもしれないのに。
「まさかまたなっちまったなんてな・・・」
薫さんは、うつむいて、首を振った。
「理由は私らにもわからない。調べてはいるんだが、前例のどれにも当てはまらない。本人に聞くのは、それを自覚させることになってしまう。教えたほうがいい、そして対策を立てればいい、そう思ったんだがな。・・・勇気がなかった」
ふたたび起こってしまったこと、その理由は自分にあるという後悔。
「・・・。俺にも、話す勇気はありません。八雲さんを知ってる人ほど、繋がりを追っている人ほど、話すことなんてできないのかもしれません」
本人のことを思うほど、話せなくなる。でも思っているからこそ、話さなくてはならないと、そうやって板挟みにあって動けなくなってしまう。
「今は、今は話すべきではないと、そう思います。でも近いうちに話さないといけません」
二人の目を見て言う。逃げじゃない。ただ、今はそのタイミングではないのだ。
お互いに、心の整理をしなくてはいけない。だがどのままズルズルといっては今と同じことが必ずもう一度おこる。
「そーだな。覚悟、決めないとな」
「ああ。今はまだやることが残っている。それを片づけて、タイミングを見て、みんなで話そう」
八雲さんのことがひと段落して、今やること。それは後始末だ。
「部屋に戻りましょうか」
「そうだな。先に行っとけ。こういうときは、茶で一服と相場は決まっている」
「お?センセーのおごり?ならあたしゴルゴンの紅茶のミルクティー!」
「ふっ。日乃は?」
え?おごってくれんの?
「コ、コーヒーの、ブラック」
「ブラックか。わかった。八雲は、おーいお茶さん、でよかったよな?」
「そそ。ホットで」
「よし。売店・・・は近くにないな。自販機は?」
「あ、そこの角の所にあります」
「じゃ、行ってくる」
頼りになる人たちだ。
「行こうぜ。八雲が待ってる」
本当に。
「姫ちゃん、センセーが何買ってくるか当ててやろうか?」
「え?わかるんですか?」
「絶対ストレートティーを買ってくるんだけどな、それはカバーだ。いっつもいちごミルクを買ってくんだよ」
「え?なんていうか、想像つきませんね」
「あの人甘いもの大好きだからな。お礼は甘いもんがいいぞ」
「そうします。薫さんは?」
「は?」
「薫さんは何が好きなんですか?」
「あたし?あたしは・・・酒かな?」
「え!」
「まってるからなー」
★
現在、上空10000メートル。
超高速航空機、飛行錬金核「星雲」内。
「会長!本部から連絡が」
「なんだ?まさか・・・」
壊滅、の二文字が頭に浮かぶ。
「いえ、そうでもないようです。まずはこれを」
渡された、メモ用紙。それに書かれた一文。
「な、なんだと!」
「啓太さま、いったい何が?」
「学園の野生獣の群れが、一瞬で消え去った、らしい」
周りの目が変わった。
「会長、詳しいことはこちらで。吉美!このメモリの中のデータをこっちに送ってくれ」
「りょ、了解。ちょっとまってくださいね。会長、送ります」
俺の錬金核から、大きなウィンドウが展開される。
「いったいどういうことだ?・・・静香、慎吾もこっちへ。アドルフ、機内無線を機関部へつなげ」
「すぐに。はい、いいですよ」
「機関部!おい清彦!聞こえるか?今から錬金核のコアの調整は一任するぞ。飛行機落とすような真似だけはするなよ」
『ガガッ・・・あいあい。でも、この飛行錬金核のコアって調整難いんすよねー』
「真琴、サポートは任せたぞ」
『了解。・・・清彦、あんた少しは緊張感もって動けないのかしら?』
『え?緊張ならしてるよ。今だって・・・』
「通信を切ります。吉美、データを表示」
目の前に浮かぶ映像は、おそらく学園都市周辺の略図だ。
「この映像は、むこうの話を聞きながら、私がまとめてみたものです。かなり簡単ですけど、一応この赤い円が野生種の勢力範囲です」
相変わらず、この男、アドルフの仕事の腕は異常だ。
「野生獣が、学園都市の防御システムを突破していきます。そして、最終防衛ラインに突入」
円が学園と触れるか触れないかのぎりぎりで止まっている。
「防御システムがこうもあっさりと・・・」
学園の警備は慎吾の管轄だ。責任を感じているんだろう。だがそれを言うなら俺の、俺たち学生会全員の責任だ。
「そして、約10分後」
学園を囲みこもうとする赤い円が、パッと消えた。
「意味がわからん。アドルフ、どういうことだ!?」
「それがわからないんです。ただ、消える直線に空の色が変わり、強大な霊力を高等部のほうから感知したということ、そして突如振った光の雪、閃光、連鎖して爆発した野生種の姿・・・むこうもかなり興奮していたので、聞き出せた範囲ではこれが全てです」
ますます意味がわからん。
「おそらく、魔道精霊ではないでしょうか」
全員の沈黙を破ったのは、吉美。
「吉美の言うとおり、そうとしか考えられません。しかしだとすると、なぜそれが学園内から?」
「それだけじゃあねえ。学園を囲むほどの野生種がいた。それほどの数は、最大発生数クラスの数だ。その数が学園を囲んだってことは、野生種がほとんど損害なしに防御システムを破ったことになる。新記録更新、ってならわからないけどよ、今まで、過去何百年もの記録を、そうそう破れるとも思わねえ。加えて、同時多発だ。同時多発なんて、過去何度記録されてる?どう考えてもおかしい。俺はそっちのほうがどうにも気にかかる」
わからないことが多すぎる。だが、ずっと、頭の奥でちらつく一つの仮説。
「静香、おまえはどう見る?」
「啓太さまの考えと一緒かと思います」
「アドルフ、おまえは?」
「私も会長のお考えで間違いないかと」
「慎吾」
「おそらくは・・・考えたくもありませんが」
「吉美」
「い、いっしょです」
やはり・・・間違いなく、
「シリウス学苑からの、攻撃ってことか」
ナナ「二年!」
ヨシ「C組!」
ナナヨシ「「美奈子センセー!わーー」
水原「金八先生か。わたしの尊敬する教員の一人だ」
ヨシ「やっぱ教師もののドラマとか超見てるんだろうね」
ナナ「だろうな。熱血だし」
水原「うるさい。で?なんだ?この暗い部屋は」
ヨシ「ここは私たちの出番のためだけに作った、特別仕様なのです」
水原「おいおい。不健康すぎないか?あまり感心しないな」
ナナ「いかに先生といえども、ここは私たちの戦場です。やめるわけにはいきません」
水原「白鳥・・・。そうか。ならばもう何も言うまい」
ナナ「いえ、先生には質問に答えてもらいます」
水原「・・・」
ヨシ「「1、好きなもの2、嫌いなもの3、趣味4、特技5、日乃くんの気に入ってる所です!」
水原「まったく。好きなものは動物。嫌いなものは虫だ。趣味は映画観賞、特技は数学だ。数学教師だしな。日乃の好きなところは、素直なところだな。あとは素質がある。過去云々を抜きにしても、かなりのレベルだ。将来が楽しみだよ」
全員「つまんねー」
水原「な!おまえら!」
全員「おもしろみねー」
水原「お、おまえら!言わせといてそういう態度は許せないな。鉄拳制裁だ!」
全員「シールド展開!」
日乃「え?なんですか?押さないで下さいよ。もー」
全員「君の犠牲は無駄にしない・・・・逃げろ!」
日乃「なに逃げてんですか!」
水原「ほぉ。おまえが代表で制裁を受けると」
日乃「さ、最後に一言いわせてください!」
水原「許・可・し・よ・う」
日乃「あ、あの、感想、ひ、評価お待ちしております、よ、読んでくださってありがとうございまし、たぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ」
水原「逃がさん!」