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プレリュード

関東方面行の電車は、もうすぐこのプラットホームに飛び込んでくる。


俺はカバンを片手に目の前の少女、というにはすこし年を重ねている彼女・・・アリアと、その後ろでうつむく、長い金色の髪 (ハーフだ)を後ろに下ろした、カトレアさまに前髪で隠れた視線を向けた。


「もう、行くから」




MASTER・Knightの彼女なら絶対に見せない涙で、その洋菓子のように甘く奇麗な顔をぐしゃぐしゃにしながら強気に見つめる彼女の顔を、俺は久しぶりに見た気がした。


さっきおれの頬を張り飛ばしたその右手で、今度は左手を添えて自分の顔を覆っていた。


カトレアさまは少し視線を俺に向けた跡、すぐにまたうつむいてしまった。


よく見るとポタッと、彼女の精霊属性でもある水の粒が地面に落ちていた。かすかな嗚咽も聞こえる。



その二人の顔に罪悪感と寂寥感を感じながら、俺は何も言えなくなった。


あぁ、また泣かせてしまった。


発車の案内が遠くに聞こえる。このまま別れるのか。最後まで情けないまま。


頬に残る真っ赤な手の跡に沁みる何かを感じながら、彼女に背中を向けながら、俺は自分の席へと向かった。


転入する学校のパンフレットを開けたけれども、しばらく目を開けられなかった。



思い出すのは自分のしてしまったことと、それを許してくれた彼女たちの温かさと、それから逃げ出した自分の情けなさ。


まだ目を開けられない。


開けたらそれが目に見えてしまうから。



学園都市オリオンは、生徒数1万人の巨大大学オリオン大学系列の学校が密集する超巨大都市らしい。


全世界で唯一、錬金術師の養成科があることでも有名な場所だ。


そんな学園都市の中にある高校、私立オリオン大学付属学院高等部は30人12クラス(A〜L)の生徒数1020人の結構大きな学校に、俺は通うことになる。


一つの敷地の中に様々な学校が存在し、また商店街やレストランなどが購買代わりとして生徒たちの間では御用達である。一般の人も使用できるらしい。


年に一回の学園都市内全てを巻き込んだ対抗の体育大会と協力の学園祭があるんだとか。


以上、新幹線の中で三回は読んだパンフレットの中身である。


「着いたら制服に着替えとかなきゃな。準備しとこ」



・・・バッグの一番下に入ってた。


気分を入れ替えようとしたとたんにこれだよ。



「ここが、学園都市オリオン?ここ本当に群馬県某所?」


新幹線を降りてから学園都市オリオン行きの電車に乗り、そのまま学園都市内へ。


その後、西地区を通りすぎ中央駅で降車。前髪を払って顔をあげてみたときに浮かんだ最初のイメージだ。


「ヨーロッパなんじゃないのか?ここはヨーロッパなんじゃないのか?」

高等部地区は学園都市の南側にあり、校舎と寮がヨーロッパ風の作りになっているのが特徴だ。


ちなみに中央に大学の巨大な塔の形をした校舎群があり、北に中等部、西に初等部、南が高等部で東が研究所となっている。


商店街はその間を縫うように伸びており複雑かつ広大で・・・確実に迷う。


地図を広げてもここがどこだかがまったくわからない。


「約束の時間は・・・とうに過ぎちゃってるしな」


人っ子ひとりいない。まぁ授業中だからしょうがないけど、しょうがないけど誰かいてほしい状況である。


暖かい暖色系で統一された石畳の上をとぼとぼと歩く。


にしてもきれいな街並みだ。向こうに見える白い建造物は、たぶん学生寮なのだとは思うのだが、もうホテルのようにしか見えないし、さらに言うならヨーロッパの洋館にしか見えない。


「シリウスとはえらい違いだな。まぁ世界からして違うんだけど」


昔自分がいた場所が、とても冷たい場所だったことを思い出す。それを思い出せばアリアとカトレアさまも思い出してしまうわけで・・・。


「今頃訓練かな。それとも教授たちのねむい授業でも真面目に受けてるのかな」


思い出しても戻れないことは分かっている。彼女達に会いたいのなら、せめてこの学校を卒業し、一人前として会いに行くしかないのだろう。


魔導精霊に見放された自分は、もうどうしようもないのだろうけど。


「すいません、陽乃 紅姫さんですか?」


・・・いつも下の名前を呼ばれるのは苦痛だ。


紅姫と書いて【べにひめ】ではなく【こうき】と呼ぶ。


なぜ姫の字を男に使うんだよ・・・と思うのだが、母親の頭はお花畑だから親父がせめて読みだけでも男っぽくしてくれたらしい。精一杯の抵抗だったのだろう。


その両親もだいぶ前に死んでいるから、詳しいことは分からない。


うんざりしながら、


「はい、俺ですけど・・・」


と、振り返った俺はその女性のあまりの美しさに2度見をしてしまった。


黒く長い髪を風に揺らし表情があまり出ないお人形のような美しさを持った、この街並みとは正反対の、背の高い純日本の美人だった。


前髪越しに天使を見た気がした。って言うのは言い過ぎなのだろうか?


「ようやく見つけました。学園はこっちです。ついてきてください」


そう言われてようやく、その女性が来ている制服が自分の持っているパンフレットに乗っているものと同じものだと気づいた。着る人が違うと服も変わって見えてしまう。まぁ言っちゃ悪いがこのパンフの人ブチャイクだしな。


「? はやく来てください。授業はもう始まっています」


冷たい声だったが、どこか感情のこもっていそうな声だった。


なんとなく、今の声にガッコーはさぼれてラッキーって感じの声だった気がした。具体的だな、俺。


「あぁ、すいません!」


俺は慌ててついていった。





途中ではぐれて、二回くらい迷子になった。


俺は方向音痴だったらしい。ショック。




駅からしばらく歩いた先に、その学校はあった。


なんというか、もうそこは


「お城じゃん」


お城だった。


「なにをなさっているんですか?」


今の声には、さっさとしろよ的な感じがした。


「いや、お城だなぁと思って」


素直に答える。と言うよりこういう場合は、門から学校までが遠いのだと思っていたが、ここは門までもが長いらしい。


「さっきも言いましたけど、授業中ですよ?」


あ、今度は怒っている。この人は感情を顔には出さなくても、かなり豊からしい。


ふと、俺はこの人の名前も知らないままついてきていたことを思い出した。


「そういえば、お名前は何と言うんですか?」


「・・・大地 八雲です。」


「そうなんですか・・・」


・・・


無音地帯。少しの春の匂いが辺りを包む。シリウスでは感じなかった季節がここにはある気がした。


のも最初だけ。後はひたすら沈黙沈黙沈黙


「や、八雲さんは何年生なんですか?」


・・・沈黙に押しつぶされるヘタレ紅姫。


そんな声が聞こえる。


ふっと感情の見えない黒の瞳を紅姫にむけ、その赤い唇から冷たい口調で言葉を出す。


「二年C組特務科所属です。出席番号入りますか?」


「いえ、いいんですけど・・・特務科?」


というより今のは冗談なのだろうか。声色がすこし弾んでいた気が・・・。


「特務科と言うのは・・・向こうで聞いてください。この学院は、少し特殊なんです」


再び沈黙



「というより、すいません」


「なにがですか?」


「いや、すごく怒ってらっしゃるから、なにか聞いてはいけないことだったのではないかと」


すると彼女・・・じゃなくて八雲さんは、ひどく驚いた顔・・・ではなく声で聞き返してきた。


「どうして分かったのですか?私が怒っているだなんて」


「いや、声にすごく感情がこもっているんで・・」


「信じられない・・・親にさえ気づかれたことなんてなかったのに・・・」


「あの?八雲さん?」


「私とあなたは同学年です。敬語は不要です」


すこし寂しさを感じさせる声で彼女はそう言った。場面は少しずつ変わってゆく。なんだか大学の方はすごく近代テクノロジーな感じのする高層ビルが乱立しているようなのだが・・・気のせい気のせい。


「なら八雲?」


「初対面ですよ?私たちは」


「ほらやっぱり八雲さんじゃないですか」


「・・・敬語をやめろと言ったのですが・・・」


そんな呆れと疲れを感じさせる声でいわないでぇ


「それより校門が見えてきましたよ。あれが私立オリオン大学付属学院高等部です」


なにげなく校門を通り過ぎる時に目をやった。


【私立オリオン大学付属女学院高等部】



俺の世界が止まった気がした。


「えぇぇ!?女、女子高!?」


慌てて八雲を見る。


「大丈夫、共学です」


「でもこのプレートが」


何回見ても大学付属 『女』 学院の文字が。


「今年から共学化したんです」


声からして嘘はついてないだろう。


「というより共学でなくては試験受けられないでしょう」


それもそうだ。


「でもおかしいですね。この学院の女子目当ての男子学生が多いせいで、編入も新入生も全員落とされたと聞いていたんですが・・・」


「え?もしかして男子は・・・」


「はい。おそらくあなた一人だあることが確実です。ご愁傷様・・・いや、この場合はおめでとう、でしょうね」




こんどこそ世界が止まり、そして崩れた。



「ここが生徒会室です。一度顔を出しておいた方がよいでしょう」


学院はすでに昼休みだった。というより、中の構造も洋館そのものと言った感じだった。


パニック防止とかで隠されてここまで来たのだが・・・職員室よりも先に生徒会?


「この学院は、教師と生徒会が同じくらいの権力をもっていますし、生徒間のことは生徒同士で片付けることも大事なことだそうです」


特に大きなドアの前でそう説明されるが、


「き、緊張するな」


そう言うと彼女はすこし笑った声で


「まぁ生徒会のメンバーは全員あなたと同じクラスの2−Cの生徒です。そんなに硬くならなくても大丈夫ですよ」


「え?二年生なんですか?」


「はい。二年生で構成されています。それより早く入りましょう」


というより後ろの校庭から破壊音が聞こえてくるのだが。これが錬金術?


「失礼します」


「あ、ちょっと危ないかもぉぉぉぉぉ」


その大きなドアをあけた瞬間、目の前にはまっ黄色のバレーボール。


よけるか夢の旅に出るかの選択肢が見えた。



俺は旅立つほうを選んだ。





「だいじょうぶぅ?転校生君」


「飛んできたボールに当たっちゃうなんてさ、反射神経が鈍いんじゃないの?」


「だよねぇ?あたしなら避けるもん」


ひどい言われようだな。


というよりも頭に感じるこの柔らかさは・・・すっと薄目を開けると、無表情の美女が俺を膝枕していた。



あー。どうりで・・・って膝枕!?



「おおぉぅ!」


ガバッと跳ね起きる。あ、焦った


「あら、おきましたか」


相変わらずの無表情美人・・・じゃなかった八雲さんは、気だるげにこっちに顔を向けた。


「ど、どぅーして!っすか?」


何言ってんだよこいつ・・・みたいな顔はしないでいただきたいなーなんて。


「気絶した思春期男子は膝枕が一番効くんだヨ★・・・だそうです」


ここは深くは聞くまい。たぶん★の存在に気づけたのは俺くらいだろうし。


「はぁ・・・。どうもありがとうございました。」


「どういたしまして」


あら?


「さっきの二人は?」


さっき俺にバリーボーをぶつけたあの二人の少女だ。


「あの二人は生徒会補佐の熊田 小橋と大橋姉妹です。室内での不適切な行動のため、罰として【大学からお越しくださった錬金術科特別講師と行く都市∞周全力マラソン】に行っています」


この広大な都市を一周するのも大変そうなのに、∞というところに恐怖を感じざるを得ない。


「き、厳しいですね」


「というより最近のあの二人の素行は目を見張るものがありました」


声からざまぁ見ろへへん♪って感じがもろ受ける。


って、今気づいたけれども・・・


「生徒会のメンバーはまだ誰もいませんね」


かなり豪華な執務机と、壁いっぱいの資料が並ぶ生徒会室の中には、まだ誰も座ってはいなかった。


まぁ誰かいたんなら八雲さんも膝枕はできないだろうけども。


「いえ、これで全員です」


「は?」


そう言うと彼女はスッと席に着いた。


部屋の一番奥の、まさに王座と言った感じの椅子にだ。


その王座の前の執務机には、こう書かれていた


生徒会長、と。


「えええええええええええぇぇぇええぇぇぇぇぇぇ!?ここにきてこんなにもあっさり?というか他のメンバーは?」


「私が生徒会長になってまだ日にちが立っていません。顧問も決まっていない状況です」


ん?その他の選挙を勝ち抜いた方々は?


「我が学校では、生徒会長がその権限で全てを決めます。顧問も役員も、全てです」


予算も、とまではいかないんだね。安心安心


「あと予算も」


独裁ジャン!


「それはまた・・・うれしい機能がいっぱいな生徒会長ですね」


「それほどでもありません」


でも声がへへん♪って言ってる。


「あの、それで・・・話は変わるんですけど、俺は明日から登校でいいんですか?」


準備するものだとかあるのだろうか。


「いえ、明日は動きやすい服と筆記用具だけで十分です。現在の学力と運動能力の測定をします」


「さらりと大変なこと言いますね」


明日って・・・まだ寝る場所も決まってないってのに


「その前に、寝る場所とか・・・?」


「わが校は完全寮制になっています。ほかの高校との共同寮があるのでそこに入ってください。場所は後で案内いたします。あとバイトは許可されていますが、この都市の中のみでお願いします。申請その他は私ではなく、担任にお願いします」


「いや、その担任をまだ知らないんですが」


「明日お願いします」











大変だったな。


というよりも八雲さん、無表情なのに感情豊かでSっ気全開だったな。


でも俺の前髪を見て顔色・・・もとい声色一つ変えなかったのは、あの人が初めてかもしれない。


まぁまだクラスの人とも会ってないし・・・ってそう言えばここ男子俺だけやん!!!!!




俺だけだったんだーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!



どうなる?俺!




つづーく


どうでしたか?長かったでしょか・・・。


次がすぐ出せるように、がんばります!応援よろしくお願いします!

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