要するに夢オチ
5年以上前に書いた作品なので、ちょっと何が書きたかったのか自分でもよく分かりません。お楽しみいただければ幸いです。
世界というモノは無数に存在する。
例えば誰かが物語や絵画といった形で作り出した世界や、選択肢の違いにより発生した世界などなどなど。それはもう、数え切れない程たくさん在る。
そして。それらの世界は重なり合っていたり、はたまたほんの少しの隙間を空けて隣に位置したりと思い思いの場所で存在している。当然、ぴったりと並んでいる訳ではなく、其処にはたとえ僅かだとしても隙間という名の空間が存在している訳で。
「つまり、その『隙間』に当たる場所がココな訳ね。」
「そーゆうこと!」
私がぽつりと呟いた言葉に、目の前居る少女が満足そうな笑みを浮かべて頷いた。
***
何処までも広がる真っ白な空間。其処が私の今居る場所だ。上も下も無く、右も左も無い。ただただ白く塗りつぶされているだけ。――いや。時折、淡い色合いの光が差し込むから、白いだけとは言い難いか。しかしその色のある光も決まった方向から入ってくるのではなく、こう、何と言うかコンピュータのスクリーンセーバーの様にランダムに走って行くものだから、天地の概念を生み出してはくれないのである。
どうして自分はこんな不思議空間に居るのだろうか。それから、一体全体どうすれば元の場所に帰る事ができるのだろう。そう途方に暮れていた所に彼の少女が現れて、そうしてこの空間が何であるのか教えてくれたと、そういう訳である。
「時間も位置も物も人も無い世界なのよ、此処は。凄いと思わない?」
少女はまるで童話に出てくる猫の様なにんまりとした笑みを浮かべて言う。
(一瞬、頭の隅に何か反論の様なものが浮かんだのだけれど、それはすぐに泡となり跡形もなく消えてしまった。)
「そうね、スゴいわ。」
私は何だかぼんやりとした頭のまま彼女の言葉を肯定する。そして続けた。
「でも、どうやったら元の世界に戻れるの?」
「戻る?どうして?」
きょとん、と瞳を瞬かせ、心底不思議そうな様子で少女は私に問い掛ける。どうして、ってそんな、当たり前じゃないか。
「だって此処は私の世界じゃないんだもの。」
私が発したその言葉を聞いて、彼の少女は再びにっこりと酷く綺麗な笑顔を作った。
「あら、そんなコト関係ないわ。貴女がこの場所に来れたという事は、貴女もこの世界の一部として認められているという事ですもの。つまりこの空間も貴女の世界と言って過言ではない、いいえ、寧ろこの場所こそが貴女の居るべき世界になると言って良い筈よ。
だから、ねぇ、一緒に此処に居ましょう?ずっとずっといつまでも。私と一緒に。
私の両の手を優しく握りながら少女は懇願する。その顔に浮かぶ笑みは、底抜けに明るいものから何処か寂しそうなものへといつの間にやら変化していた。縋る様な彼女の言葉に一瞬だけ、それも良いかもしれない、と誘惑が襲う。が、すぐに我に返った。
「ううん、駄目よ。」
否定の言葉を口にすれば、どうして?という少女の疑問が返ってくる。それに対する答えは決まっていた。
「貴方の言う様にこの世界もステキだとは思うけど。やっぱり私は私の居た世界の方が好きだから、かな。」
空があって土があって家があって学校があって。それから家族が居て友人が居て先生が居て知らない人々の暮らす場所。暖かくて冷たい其処が、私の住む世界だ。
「あんなに別の世界に行きたいと願っていたのに?」
不思議そうに首を傾げる少女に尋ねられ、「そうね」と私は小さく頷いた。
確かに彼女の言葉通り、私は日頃から異世界に旅立つ事を夢想していた。望んでいた。だって自分の周りには嫌いなモノや辛い事ばかりが溢れていて、何処か遠い場所へ逃げ出したかったから。この世界に私の居場所なんて存在しないと思っていたから。でもね、この何も無い空間に包まれて気付いたんだ。
「向こうにもちゃんと私の好きなモノとか楽しい事がたくさんあったのよね。お気に入りの場所とか、嬉しい思い出とか、色々。やっぱりさ、考えてみるとね。私は辛くて苦しい事は捨てたくても、そういうキラキラしたモノは捨てたくないのよ。」
だからそれを自分の手で守る為にも、もうちょっと頑張ってみようかなって思ったの。そう言って淡く微笑めば、目の前にたゆたう少女は何とも不思議な表情を浮かべた。なんだか嬉しそうな、悔しそうな、それでいて羨ましそうであり悲しそうである、そんな顔だ。
「そっか。」
小さく一言だけ呟く。そして、少女は目を閉じると、まるで霧が消える時の様にふわりとその姿を消した。
次の瞬間、私は目を覚ました。




